自動車業界とXX業界 第8回『自動車業界と医薬品業界』

自動車業界と××業界を比較し、製品、業界間の関連性や類似点・相違点から自動車業界への示唆を探るこのコラム。弊社副社長の秋山喬とアビームコンサルティング経営戦略事業部シニアコンサルタント山田将生の共同執筆です。

第 8 回の今回は、「自動車業界と医薬品業界」です。

————————————————-

【はじめに】

第 8 回目となったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業界とを比較し、業界間の関連性や業界特性等に関する類似点・相違点を把握。最終的には他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするものである。

第 8 回の今回は医薬品業界との比較である。

まず業界全体を俯瞰してみると、国内の医薬品市場は 1990年の約 6 兆円から 2003年の約 7 兆 2000 億円まで微増傾向にはあるものの、基本的には頭打ちとなっている。医薬品は病院で医師によって処方される医療用医薬品とドラッグストアや薬局で消費者が直接購入できる一般用医薬品とに大別されるが、市場規模全体のうち、前者が約 9 割近くのシェアを占めている。

また、医薬品の区分には医療用と一般用というものに加えて、新薬かジェネリック医薬品かという区分も存在する。新薬が新しく開発された医薬品であるのに対し、ジェネリック医薬品は新薬の特許が切れたあとに同じ成分、効き目で販売される医薬品、つまり後発品のことを指す。市場全体のうちジェネリック医薬品が占めるシェアは 2003年金額ベースで約 5% であるが、これはここ数年増加傾向にある。

続いて、医薬品業界における主なプレイヤーを見てみると、まず医薬品メーカーである製薬企業が挙げられる。その中には医療用医薬品のみ、一般用医薬品のみ、ジェネリック医薬品のみをそれぞれ扱うという企業もあれば、複合的に扱っている企業もありさまざまである。

国内最大手の武田薬品工業などは医療用、一般用の双方を扱っている。

また、山之内製薬、藤沢薬品工業は 2005年 4月に経営統合し、アステラス製薬が発足したが、アステラス発足に先立つ 2004年 10月に両社はそれぞれの一般薬事業を統合し、ゼファーマを発足させており、医療用はアステラス、一般用はゼファーマというように棲み分けがなされている。

他方、ジェネリック医薬品のみを扱う企業には東和薬品、沢井製薬、大洋薬品工業等が存在している。

また、医薬品業界にはメーカーである製薬企業のほかに医薬品卸を行う企業も多数存在しているが、メーカーに対する交渉力の強化等を目的に従来より業界再編が進んでおり、日本医薬品卸業連合会に加盟する企業数は 1986年の 440社から 2005年は 142 社と大幅に減少している。

そして、医療用と一般用では流通構造が大きく異なっており、それに伴い登場するプレイヤーにも違いが見られる。

まず、一般用の場合だが、これは医薬品以外の製品の流通と大差ないので分かりやすいだろう。製薬企業→(医薬品卸)→薬局→消費者という流れで消費者は薬局にて購入する医薬品を自ら決定し、代金を支払う。

しかし医療用の場合は上記とは流通構造が少し異なってくる。流れは製薬企業→(医薬品卸)→病院というものであるが、最終的に医薬品は病院の医師が患者(消費者)の診療を行った際に、処方される。

病院は製薬企業に対して医薬品代の支払いを行い、その医薬品を患者への診療時に処方したのちに、その分の請求を診療報酬請求という形で健康保険組合に対して行う。

医療用医薬品の流通構造の中でどの薬を買うかを決めるのは病院の医師であり、大部分の支払いを行うのは健康保険組合である。患者は窓口にて 2~ 3 割の負担を行うほか、保険料として実質的に医薬品の代金を負担しているものの、影響力を行使する立場にはいない。

このあたりが一般の商品の流通とは大きく異なる部分であり、わが国の医療保険制度に基づくものであるといえる。

医薬品業界における近年のトピックというと新聞等でも大きく報道されているとおり、やはり業界再編ということになるであろう。

国内最大手の武田薬品工業であっても、世界最大手のファイザーと比べると売上高で 5分の 1、研究開発費で 6分の 1 程度の規模に留まっており、海外製薬企業による国内製薬企業の買収が予想されている。

そして実際にメルク(米)による万有製薬の完全子会社化や、ロシュ(スイス)による中外製薬への出資といった事例も起こっており、そのような状況、危機感を受けて、先述した山之内製薬と藤沢薬品工業の経営統合など国内における再編も進行しつつある。

自動車業界においても 90年代に 400 万台クラブという言葉が話題となり、規模の拡大を目指して、国境をまたいで業界再編が行われたわけだがそんな両業界を比較して何か見えてくることはないだろうか。

【業界特性の類似点・相違点】

まず自動車業界と比較した場合の医薬品業界の類似点としては先述したように規模拡大のイニシアチブが強く働いているということが挙げられる。自動車業界は規模拡大を目指し、買収を推し進めた各社が一様に業績的に不調ということもあり、一段落ついた感があるものの、医薬品業界は今後業界再編が加速していくものと思われる。

また上記に関連して、業界におけるポジショニングを明確にするイニシアチブが働くというのも類似点として挙げられる。というのも業界全体が規模拡大を指向する場合、その流れに従って規模を拡大するか、それともそれ以外の強みを確立して、業界内での独自のポジションを確保するかの判断を迫られることになるからである。

自動車業界の場合は業界再編時以降、プレミアム(高級車)路線かコモディティ(大衆車)路線かというような二極化が顕著になりつつあるが、医薬品業界でも規模拡大により全ての分野で新薬開発を目指すのか、それともある特定分野にのみ絞った形で新薬開発を行うのか、もしくはジェネリックのみを扱うのかといったような判断を求められることになるだろう。

しかし、一概に規模拡大といっても両業界の目的、規模拡大により達成しようとしていることには多少違いが見られる。その違いは両業界の特性の違いに起因するものであり、これからその業界特性の相違点を見ていきたいと思う。

自動車業界と比較した場合の医薬品業界の相違点であるが、これは細かいことに目を向ければかなり多くの相違点がある。しかし、それらはある根本的な違いに根ざしており、今回はそれにフォーカスしたいと思う。

その根本的な違いとはそれぞれの業界が何型産業なのか、ということである。

まず、医薬品業界は知識集約型産業であり、いうなればイノベーション型産業ということができる。医薬品の研究開発活動は長期かつ多額の投資を必要とするのに対し、成功確率は非常に低くハイリスクである。一方で製品の製造自体はそれほど困難ではなく、容易にコピーができるため、特許制度による知的所有権の保護が図られている。

また、医薬品業界は特許制度に代表されるような医療保険制度の影響を大きく受ける規制産業ともいうことができる。マーケティングに関してもさまざまな規制が定められており、病院向けの営業、情報提供を行う MR も研究開発の成果である製品の力を大きく覆すほどの影響力は持ち得ない。

つまり医薬品業界においては、研究開発というファンクションが非常に重要となり、そこで生み出された製品による圧倒的な差別化が可能なのである。その特性は売上高に占める研究開発費の高さ、原価の低さ、そして利益率の高さという数字にも反映されている。
例えば武田薬品工業の 2004年度決算の数字を見てみると、売上高に占める研究開発費の割合は約 13 %、売上原価の割合は約 25 %、営業利益率は 34.3 %となっている。

トヨタの場合、2004年度決算では売上高に占める研究開発費の割合が約 4 %、売上原価の割合が約 78 %、営業利益率が約 9 %であるから業界特性の違いはこれらの数字で一目瞭然であろう。

このような特性を持つ医薬品業界に対して、自動車業界は資本集約型産業であり、いかに効率性を高めるかという点が焦点となるカイゼン型産業ということができる。そして自動車業界の場合はもちろん生産が重要になるが、それ以外にも研究開発やマーケティングなど様々なファンクションが競争の要素となりうる。

自動車業界においては非常に重要な製品のコストという概念も、医薬品業界の場合は画期的な新薬が開発されさえすればそれほど問題とはならない。というのも、市場規模が小さかったとしても、その新薬を必要とする患者がいる限り、医療保険制度で万人の平等なアクセスを保障しているため、コストを回収するだけの高い価格設定をすることが可能だからである。

そして、このような特性を持つ医薬品業界においては研究開発活動ををいかにうまくマネージし、いかに多くのイノベーションを引き起こすかということが非常に重要となる。
そのために業界で取り組まれている方法論としては、研究開発分野の選択と集中、研究開発投資のポートフォリオ管理、外部との積極的なアライアンス等が挙げられる。

また、このような業界特性の違いから、先述した自動車業界、医薬品業界双方の規模拡大の目的の違いが見えてくることになる。

自動車業界の場合、規模拡大の主な目的は製品開発、生産、調達といったプロセスにおけるコストをスプレッドすることにある。プラットフォーム共通化、部品共通化といった手段も使いながら、生産量を増やしていって最大限のコスト削減効果、規模の経済を享受することを目指すのである。90年代の業界再編時にも買収企業と被買収企業の間でさまざまなコスト削減に向けた取り組みが試みられた。

一方で、医薬品業界の場合は規模拡大はコストスプレッドが主目的ではない。
というのも、医薬品業界は多品種少量生産の産業であり、研究開発、調達、生産といったプロセスにおいて、製品間の共通化をはかり、コスト削減を行うような取り組みにはそぐわないからである。

規模が大きくないと多額の研究開発投資に耐えられないということも無関係ではないが、それも実は正確ではない。投資金額の問題ではないからである。単純に投資金額を増やすだけでなく、多くの関連する研究開発テーマを持ち、それらが相互に生み出すシナジー効果によって、より多くのイノベーションを生み出すというのが目的なのである。(注:米国マサチューセッツ工科大学による実証研究の結果を参照)そういう意味では規模の経済というよりも範囲の経済を享受するために、結果として規模を拡大しているということができるだろう。

【自動車業界への示唆】

医薬品業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆は、イノベーションをいかに上手く引き起こすかという点であろう。

現在、自動車業界ではハイブリッドカーやテレマティクス、電子化など新たな技術課題が勃興し、イノベーションの必要性に迫られている。カイゼンをいかに継続的に行っていくかという点では非常に優れている自動車業界であっても、イノベーションをいかに継続的に引き起こしていくかという点では医薬品業界から学ぶ点もあるだろう。

イノベーションをいかに上手く引き起こすかという意味では、医薬品業界の場合、外部の力を上手く活用しているという点が注目される。例えば、新薬の研究を行う際に、ベンチャー企業の研究成果を導入、活用したり、新薬の臨床試験を CRO (Contract Reseach Organization:開発業務受託機関)と呼ばれる企業にアウトソースするという取り組みがなされている。

自動車業界はこれまでの慣行から何事も内部で手がけようとする傾向が強いが、今後イノベーションのスピードを速めていきイノベーション型産業に近づいていこうとするならばベンチャー、異業種を含めた外部の力を上手く活用していく必要もあるものと思われる。

<山田 将生>