くるま解体新書『ブランドマネジメント(5)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 7 弾は、アビームコンサルティング USA シニアマネージャーのクリスチャン・ボッチャーが、ブランドマネジメントについて 5 週に渡って紹介する。今回はその第5回にあたる。

第7弾『ブランドマネジメント(5)』

(日刊工業新聞 2004年12月8日掲載記事)

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顧客がある特定の自動車ブランドを好むのはなぜだろうか。ブランドとはブランドプロミスを反映したものであり、特定ブランド属性に対する消費者の好みが購入につながると解釈される。製品やメーカーと消費者の間に、消費者が作り出す感情的つながりが、影響を及ぼすことは以前から知られていた。製品が一定レベルの水準を満たしていれば、消費者はクルマ選びの際に、機能よりも、こうした感情的な面や情緒的な利点を優先する傾向がある。

大半の消費者に「トヨタ製」は一定レベルを満たす品質だと認識されている。
トヨタは、トヨタブランドの一貫した品質イメージが生み出す情緒的利点を誇示することで、消費者のロイヤルティーをとらえることが可能だ。それは、消費者を決して失望させることなく、トヨタ自体が賢明で自信に満ち、信頼に値する企業であると消費者に感じさせることを意味する。

同様に、消費者が 「BMW」 を買うのは、BMW のブランドプロミスである「究極のドライビングマシン」を手に入れるためだ。

トヨタ、ホンダ、BMW、メルセデスベンツなどは既に築き上げた強力なブランド力が、販売の後押ししてくれる。それに対して弱小ブランドは、品質が劣っていたり、デザインが陳腐だったり、製品ラインが統一されていないなど、こうしたトップダウン・アプローチを追求することが難しい状況である。

消費者がたどる購入プロセスはどの国でも良く似ている。車を選ぶ際、まず5、6 種類を選び出し、それから候補のモデルを増やしたり、減らしたりしていく。消費者が「認知」から「熟知」「検討」の段階へ進むと、検討対象のモデル数が減っていき、最終的に購入車種に絞られる。これらの各段階で消費者の要求に応え、各タッチポイントで消費者をガイドするブランドマネジメントシステムがあれば、企業は消費者を、単なる「購入者」から「ロイヤルティーの高い顧客」に転換することが可能となる。

自動車メーカーのマーケティング予算の 90 %は、消費者の購入プロセス第1 段階でのマス広告と最終段階でのインセンティブやリベートに充てられている。中間の段階、すなわち、熟知、検討、検討車種の絞り込みでは、より優れたブランドマネジメントとさらに焦点を絞った消費者向けコミュニケーションを実施することで、転換率を改善できるだろう。

メルセデスベンツ、トヨタの「レクサス」など、強力ブランドを擁して転換率が高いメーカーは、購入パイプラインに多数の消費者を引き込まなくても売上を上げられるため、それだけ有利な立場にいる。その反面、弱小ブランドは売り上げ獲得のためにより多くの消費者の検討車種リストに食い込むために、広告費用やマーケティング予算がかさむことになる。

差別化要因としての能動的ブランドマネジメントには、一貫して魅力的な製品の開発と効果的な消費者調査、そして通常以上のマーケティング努力が必要である。それらの活動を巧みに統合できる企業が真の成功を勝ち得ることになるだろう。

< クリスチャン・ボッチャー>