くるま解体新書『ブランドマネジメント(4)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 7 弾は、アビームコンサルティング USA シニアマネージャーのクリスチャン・ボッチャーが、ブランドマネジメントについて 5 週に渡って紹介する。今回はその第4回にあたる。

第7弾『ブランドマネジメント(4)』

(日刊工業新聞 2004年12月1日掲載記事)

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ブランドマネジメントとは、顧客に自社ブランドを選択させるための手段であり、市場で自社および自社製品を差別化するために開発する能力のことである。社風、規模、製品ラインの複雑さ、マーケットポジションなどによって、企業は異なるアプローチを採用してきた。その代表的な 3 種類の手法を紹介してみる。

ゼネラル・モーターズ(GM)、フォードモーター、日産自動車といった複雑な製品ラインを抱える大手メーカーは「フォーマル・アプローチモデル」、すなわち大手メーカーなどで実績ある「ベストプラクティス」(もっとも効果的な事例)に基づいたブランドマネジメントシステムを多く用いている。各ブランドチームは、ほかの自社製品との「共食い」を招かぬよう重複を避け、それぞれの「ブランド空間」の中でマーケティング活動を実施、ブランド・エクイティーの構築を管理、支援している。

さらに彼らは、自社のブランドマネジメントの継続的改善のために、ブランドチームを連携させ、知的資本を共有する体制を構築している。

それに対して「エンベデッド(埋め込み式)モデル」はより直感的なものであり、製品開発チームが製品に思考を盛り込み、製品を通じてブランドを定義しながら、ブランド戦略を策定するものだ。ボルボ、ビーエムダブリュー(BMW)、クライスラーなど、ブランドを慎重に管理していながらも、製品志向企業であることを積極的に打ち出す企業が用いている。

これまでの成功をスタイル、性能、安全性で優れた製品を作ったからだと考えている。彼らにとっては「ブランドマネジメント」は競争の基本要件にすぎない。

第 3 の「実験モデル」は、ブランドマネジメントのベストプラクティスをひもとき、自社にあった部分だけを迅速かつ追従的に採用するものである。ブランド管理を上手に進めてきたものの、自社のそのような活動を「ブランドマネジメント」とは呼ばないトヨタ自動車が該当すると考えられる。

「エンベデッド」と同様に、このグループの大半も製品を通じてブランドを管理してきた。違いは、ブランドマネジメントの受け入れも拒否もしない点だ。このモデルを採用している企業は、ブランド理論、戦略、戦術を学び、それを実験している。実験の原動力は、ブランド思考が自動車産業に浸透しつつあるという意識である。ほかの自動車メーカーがそうした慣行を取り入れるのなら、それが現在または将来の競争優位性に転じる場合に備えて、「自分たちもそれを勉強しておいた方がいい」と考えているのだ。

実際に、ブランドマネジメントの中から自社に役立つ特徴だけを選び出し、それをうまく機能させるブランド志向企業として戦略をまとめあげてきた。あえて二番手、あるいは後発としての道を選び、成功例や失敗例から学ぼうとしてきたといえよう。また、まとまりのある組織を混乱させないよう、ブランド思考は徐々に吸収するのが優れた方法だとも考えているのである。

< クリスチャン・ボッチャー>