くるま解体新書『バリューチェーンの重要性(4)』

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第 5 弾は、アビームコンサルティング製造事業部マネージャーの大河内ケビンが、バリューチェーンの重要性について 5 週に渡って紹介する。今回はその第4 回にあたる。

第5弾『バリューチェーンの重要性(4)』

(日刊工業新聞 2004年09月29日掲載記事)
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米国ではメーカーのサイトで車種や仕様を吟味し、近隣ディーラーに在庫を照会するという LTO (ロケイト・ツー・オーダー)の導入が進んでいる。
ディーラーが大量の車両を保有するため、在庫期間は約 3 カ月。03年には在庫が 393万台という最悪の事態に陥った。しかし顧客は希望通りの車を即座に選べ、納品までの時間はかからない。

一方、地価が高い日本では在庫を持つこと自体がコスト高になることから、BTO(ビルド・ツー ・ オーダー)の取り組みが進んでおり、在庫期間は約 1 カ月で、米国よりも短い。しかし顧客は納車まで数週間から一ヶ月程待たなければならない。

BTO は在庫削減の有効手段ではあるが、メーカー側の生産効率化と顧客側の満足を両立させるには、さらに受注プロセスを迅速化し納車期間を短縮することが課題といえる。

米国日産は、オンラインで収集した顧客情報を、顧客情報管理(CRM)システムで蓄積・分析し、そのデータを統合基幹業務システム(ERP)と連動させている。今後はサプライチェーン・システムに連動させ、日産系列のディーラー網を通じ、2 週間以内に納車することが可能となるだろう。同社は将来、受注情報を生産システムとサプライヤーネットワークに統合することを計画で、受注を生産計画に組み込むことで在庫回転率を 6日にまで短縮する目標だ。

トヨタ自動車は北米で 70日のリードタイムを 14日に短縮することを目標に、ディーラーの受注情報を工場やサプライヤー側に統合するシステムを導入した。
三者の動きを連動させることで、容易なパーツの検索と、生産ラインの変更が可能となる。

塗装ブースでは塗料カートリッジを使った新システムを導入し、個別処理に対応できるようにした。もちろんロジスティクスの効率化も図っている。現在では、ディーラーはそれらの過程を監視できるようになった。

顧客ニーズに対応するプロセスは益々複雑さを極めていくだろうが、カラーやオプションに種類を持たせる一方で、プラットフォーム(車台)の共有化やモジュール生産を進め、車体の簡素化を図るのもひとつの手段だ。また、大規模なツールの変更なしにさまざまなパーツの生産を可能にしたり、ニーズにあわせて迅速に生産計画を組み替えるといった、柔軟な生産ライン構築も重要となる。

ゼネラル・モータース(GM) は異なるモデルの溶接を行えるロボットを使う「C-flex」システムを導入した。これにより1つのツールとロボットの組み合わせで、24 ものモデルに対応することが可能となり、受注体制の効率化と顧客ニーズの変化に対応できる生産ラインが実現した。

メーカーはプッシュ型の大量生産から顧客の好みに合わせたプル型の生産モデルにシフトしつつある。「収益性の高い顧客に、ほしい車をほしいときに納車する」ことが今後のキーワードだ。

<大河内 ケビン>