くるま解体新書 第11弾『自動車業界の課題(1)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 11 弾は、自動車業界の課題を 3 回に渡って紹介する。
今回はその第 1 回にあたる。

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第 11 弾『自動車業界の課題(1)』

(日刊工業新聞 2005年08月17日掲載記事)

日本の自動車業界各社は、品質と性能の良さで確固たる地位を保っている。
しかしどれほど成功している企業でも、進展のための努力を未来永劫に続けなければならない。怠れば縮小均衡どころか M&A の嵐に巻き込まれてしまう。今回は、ビジネスと IT の視点から見た課題、すなわち自動車業界が行うべき努力について、これまでの連載を振り返って整理したい。

まず、製品の企画から設計、製造、販売、アフターサービス、リサイクルまで全ての過程を包括的に管理する PLM について言えば、それを上手く使い、あらゆる顧客接点で高品質なサービスを提供できれば、新車市場及び中古車市場でブランド力を獲得でき、企業価値を高めることになる。

まだ PDM の域を脱せず、CAD や図面管理に IT を用いている段階だが、将来的に自動車産業は、環境問題も含め、ITS で議論されているような車に関連するものを通じて、人々の幸せな生活を支える社会的な活動を目指すことになり、IT は製品の各段階を可視化するインフラとなるだろう。

次に CRM についてだが、シーズ分析やニーズ分析、販売機会獲得のために、新鮮な顧客情報を得ることに関心が集まっている。確かにクレームや修理記録は品質向上に重要だし、購入履歴管理は性別や世代別の囲い込みに役立つ。

しかし、最近のプレミアムカー投入などの動きは、CS(顧客満足) から CD(顧客感動) へ、業界のコンセプトが移りつつあることの表れといえよう。これは、従来のボトムアップ的な CRM の域を越えて、トップダウン、すなわち、より積極的な提案型へのシフトである。あらゆるサービスを含めた総合的な提案力こそが市場での勝敗を分けようとしている。CRM は、顧客への価値提供のツールとして発展していくだろう。

三番目に中国について述べるが、その発展の背景には他の旧共産圏と根本的に違うことがある。それは国営企業に従事していた国民はわずか 2、3 割にすぎず、大半は農業従事者であったため、外国企業にとって人的資源の調達が容易だった点である。その意味では、いかに QCD (品質・コスト・納期)を高いレベルで達成できるかがビジネス成否の鍵であり、達成には人材管理のノウハウと IT の活用が必須である。

最後に SCM について述べたい。受注生産と見込み生産についての議論があるが、生産能力に限界がある以上、生産量の平準化は製造企業の必達事項である。企業は顧客満足や顧客感動を呼び起こす提案型の製品を仕上げ、企業側の価格論理で市場に投入することがベストである。よって、基本は見込み生産型 SCMを採用し、QCD を追及して競争力を持つことが望ましい。

しかし不良在庫などの課題もあり、受注生産も織り込むことが必要となる。
これは二律背反な議論ではなく、制約条件を経営の視点から認識し、優先順位づけの問題として解決すべきことである。

生産能力は物理的制約であり、受注の波による販売機会の損失より優先せざるを得ない条件である。販売機会の損失を避ける手立ては、魅力ある製品の投入、受注ピーク時の在庫対応、営業努力による顧客の確保等だろう。
それらの実現には、需要変動予測や生産・販売の連携等、生産方式や販売体制に合わせた IT の活用が不可欠である。特に、グローバルに展開する自動車業界では国際的な供給体制や国際物流を睨んだ全体最適の SCM の構築が必要である。

<松尾 博敏>