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コラム

エネルギー回生技術の重要性

◆車の振動で発電するショックアブソーバー、米MITの学生らが開発

マサチューセッツ工科大学の学生たちが『GenShock』を開発。大型トラック
に6つのGenShockを使用すれば、オルタネーターが不要になる位の電力(平均
で6kW)が作られ、車の燃費が最大10%向上するという。既に、軍用トラック
『Humvee』を製造するAM General社が関心を寄せており、Humveeの供与を受け、実車デモを7月に行なう予定。

<2009年02月17日号掲載記事>

【発電するショックアブソーバー】

暗いニュースが自動車業界を席巻する昨今、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)が数少ない明るい話題となっているように感じている。そんな中、少し考えさせられる記事を見かけたので、今回はこれについて思うところを書いてみたい。

米国の MIT が、車の振動で発電するショックアブソーバーを開発中というニュースである。スプリングの伸び縮みを調整することで車の振動を吸収し、快適な乗り心地と操縦安定性を実現するのが本来のショックアブソーバーの機能である。筒状の装置の中に充填されているオイルが装置内を移動する仕組みになっており、その粘性を持つオイルの流動抵抗によって、減衰力を発生させている。つまり、車両の振動という運動エネルギーを熱エネルギーに変換して、大気に放出していることになる。

今回発表となった技術は、このショックアブソーバー内を移動するオイルがタービンを通ることで、これまで捨てていた運動エネルギーの一部を電気エネルギーとして回生するというものである。勿論、そのためにショックアブソーバー本来の機能が損なわれるものではないという。

運動エネルギー自体が大きい方が回生するエネルギー量も増えるため、軽い車で平坦な道を走るよりも、重い車で起伏の多い道を走った方が、発電できる電力量も増え、効果も大きいという。大型トラックに 6 セット搭載すれば、オルタネーターが不要な位の電力量が得られ、燃費が最大 10 %向上するという。

実際に量産技術として確立するにはまだ時間がかかるかもしれないし、全ての車両がその対象として適しているかはわからない。しかし、これまでそのまま捨てていたエネルギーを新たに回生するし、エネルギー効率を高める試みとしては、今後が楽しみな技術だといえる。

【クルマのエネルギー効率】

そう考えると、改めて考えたくなるのが、自動車そのもののエネルギー効率である。異なる燃料・システムのエネルギー効率を比較する上で、よく、総合効率(Well To Wheel)といった指標が引き合いに出される。原材料として採掘時に持っていた燃料自体のエネルギー量のうち、どれだけの割合を目的のエネルギーとして変換できるか、という指標である。例えば、ガソリンエンジンの乗用車の場合、14 %である。つまり、原油を採掘した際に、原油が持っていたエネルギー量のうち、14 %しか乗用車の走行に使うエネルギーとして活用できていない、ということである。

このエネルギー効率を高める技術として、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、もっと言えば燃料電池電気自動車(FCEV)などが注目を集めていた。例えば、HEV の場合、燃料自体はガソリン車と同じだが、総合効率でみると 26%と、ガソリンエンジンの乗用車に対して、大きく改善している。同様に、FCEVの場合、現時点でも 29 %、理論的には 42 %まで改善できると言われている。

現在主流のガソリンエンジン車よりもエネルギー効率自体が優れる技術は少なくないが、製品技術の成熟度、製品自体の価格、燃料インフラ等々、各技術が抱える問題とその解決状況を考えれば、現実的な選択肢は限られてくる。だからこそ、現在 HEV や EV が注目を集めているものと考える。

しかしながら、生産能力の面からも、世の中のクルマを全て HEV や EV に置き換えることは簡単ではないだろう。また、それぞれ走行特性が異なるため、用途によっては、HEV や EV が適する場合もあれば、ガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車が適する場合もあるはずである。したがって、ガソリン車やディーゼル車は近い将来なくなるから、むしろ将来拡大が期待できる HEV やEV に注力するべきだということではなく、ガソリン車やディーゼル車のエネルギー効率を高める新技術開発も重要なテーマであるはずである。昨今、市場の拡大とともに HEV の多様化が進んでいるが、HEV 技術自体も、既存のガソリン車・ディーゼル車と異なるものというよりは、これらのエネルギー効率を高める一つのシステム・機構と考えたほうが自然だと考える。

【エネルギー回生技術の開発】

これまでも、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン自体の燃費改善、つまりエネルギー効率向上は進められてきた。実際に、この 10年で国内販売されている乗用車の平均燃費は 2 割以上改善している。今後も HCCI に代表されるような次世代燃焼技術の研究は進められているが、技術的な成熟度も考慮すると、これまで以上に大きなエネルギー効率向上が期待することは難しいかもしれない。

だからこそ、今後は、エンジンそのものの燃焼技術以上に、周辺領域でエネルギーを回生する技術の重要度が高まってくると考えられる。特に、HEV 技術の普及、多様化により、車両に高性能な二次電池の搭載が進めば、より柔軟性の高いエネルギー回生技術が可能になると考えられる。例えば、HEV で言えば、エンジンの特性とモーターの特性を使い分け、それぞれ優位な状況で駆動させるだけでなく、減速時のエネルギー回生技術や、周辺領域での省燃費技術を組み合わせることで、優れた燃費性能を実現している。

こうしたエネルギー回生技術の開発には、現在、各自動車メーカーが注力して取り組んでいる。

その中でも、現在、最も活用が進められているのが、熱エネルギーである。既存のガソリンエンジンのエネルギー効率が高くないことは前述の通りだが、捨てられることになるエネルギーのほとんどは、熱や音、振動となって放出されている。特にこの熱であるが、エンジンルーム内は数百℃という高温になっており、この熱エネルギーを回生する技術に注目が集まっている。

最もシンプルなものは、排出ガスから冷却水を通じて熱エネルギーを吸収し、エンジンの暖機に利用することで、燃費向上を狙うものである。特に北米仕様のプリウスに搭載されている暖機システムには、デンソーが魔法瓶メーカーであるタイガー魔法瓶と提携して開発した温水タンクを搭載し、燃費改善と排出ガス浄化を実現している。

最近では、熱エネルギーを電力に変えて回収する仕組みの開発が進められている。ホンダや独 BMW 等は、排気ガスの熱を利用して蒸気を作り、タービンを回して電力を回収するというランキンサイクルシステムの開発を進めている。また、熱電変換素子を利用して、熱を直接電力に変換する装置の開発も進められている。この熱電変換素子は、既に小型の冷蔵庫やパソコンの CPU のクーラーでは実用化されており、自動車分野への応用も期待されている。

また、太陽光発電といった、新たなシステム・機構の導入も進められている。次期プリウスが屋根に太陽電池を搭載し、発電した電力で車室内の空気の入れ替えを行う機構を搭載しているという。ホンダも、産業用用途の太陽光発電技術には数年前から取り組んでおり、今後自動車用に応用されることも出てくるかもしれない。

【外部リソースの活用】

こうした新領域の分野では、自前の技術だけで開発するのはなかなか困難であることも多いはずである。数万点もの複雑な部品の集合体である自動車という製品構造上、ある程度細分化された形でエンジニアが取り組んでいるケースが主流であることもあり、これまでになかった領域の技術開発に取り組むことが、組織的に必ずしも得意ではないと考えている。だからこそ、これまで電機業界や化学品業界等からのエンジニアの採用を積極的に行い、新領域での技術開発を進めてきた。

しかしながら、昨今の自動車業界を取り巻く現状を考えれば、環境技術は今後も注力すべき技術領域だという発表を打ち出していたとしても、そのために新領域の技術開発を進めるために、エンジニアを積極的に採用を進めていくことは、これまで以上に難しくなるであろう。

そういう観点から、今後ますます外部リソースの活用が重要なテーマになってくると考える。これまでも当社では、系列サプライヤーだけでなく、自動車業界以外のメーカーやベンチャー企業との連携の活用を奨めてきた。自社の技術・ノウハウを見つめ直し、足りない部分を補ってくれるパートナーを探すことが、改めて求められるのではないだろうか。

<本條 聡>

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