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コラム

タタによる M&A を支えた邦銀・慎重さに基づく積極的な挑戦

◆インドのタタ・グループ、140年の歴史で最大の財務問題に直面

手元資金が最も逼迫しているのはタタ自動車で、ジャガー&ランドローバーを 23 億ドルで買収した調達資金の大部分となる 20 億ドルの債務の返済期限が 6月までに来る。現在の手元資金は約 1 億ドル。借入先の銀行に借り換えを要請する必要があり、これが受け入れられなければ、不測の事態へ向かう。

<2009年 2月 10日ウォールストリートジャーナル記事、他>

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09年 2月 10日付のウォールストリートジャーナル「Heard on the Street」によると、27 の上場会社を中心に構成されるタタ・グループの財務状況が急激に悪化している。

27 の上場会社の時価総額は 1年弱で 250 億ドルにまで半減。グループの親会社であるタタ・サンズが用いる資金調達方法として子会社株式を担保に入れる形がとり難くなっている*とのことだ。

*とはいえ、2009年 2月 9日(月)に傘下のインド最大の民間鉄鋼メーカー、タタ・スチール は、同社の株式 13.2 %をタタ・サンズが借り入れの担保としたことを開示している。但し、タタ・スチールの株価は 1年で 76 %下落したとのこと。

同日付の共同通信記事は次のように報道している:

「インドの格付け会社 CRISIL によると、昨年 3月時点の手元資金は約 7 億 5,000 万ドルだった。また英米系調査会社ディーロジックによると、それ以降、債券発行により少なくとも 4 億 1,300 万ドルを調達したという」。

即ち、グループ親会社の手元現金は仮に 3月以降消費していない前提で 11 億 5,300 万ドルということだ。

一方、ウォールストリートジャーナルによれば、資金繰りが一番苦しいのはタタ・モーターズであり、2009年 6月の 20 億ドルの返済期限に対して手元資金は約 1 億ドル。この負債は、2008年 3月にフォードとの間で合意した、ジャガー・ランドローバーの買収資金 23 億ドルに対応するもの。

共同通信によれば、「借り入れた時点では、タタ・モーターズは返済資金の一部を海外で株式によって調達しようとしていた。だが今では、同社のラマクリシュナン最高財務責任者(CFO)は、それは「年後半または 10年前半以降になる」としている」。

確かに、現時点で資本市場からの調達は実質不可能であり、ウォールストリートジャーナルでも「借入のロールオーバーが必須であり、バックアッププランは無い」としている。

【日本の自動車メーカーの資金繰りはどうか】

タタが急激に厳しい環境に追い込まれているとのことで、翻って足元である日本の自動車メーカーはどうだろうか。

09年 3月期の業績予想は日系自動車大手 7 社で営業赤字が 4,500 億円超と前期実績である 4 兆 4,800 億円弱の黒字から一転して大幅減益となっている。

以下は 08年 12月末時点の大手 3 社(トヨタ、日産、ホンダ)の現預金残高と第 3 四半期(08年 10月~ 12月)の営業キャッシュフローを 12 ヶ月換算した数字である。

(単位:10億円)
有利子負債    現預金  12ヶ月換算営業CF
トヨタ    12,210     1,757     -1,548
日産     4,664      500      1,052
ホンダ   4,532      739     -444

(出典:各社 HP 掲載の 2009年 3月期第 3 四半期決算短信資料を基に住商アビームにて作成)

ご覧の通り、トヨタ、ホンダは第 3 四半期の営業キャッシュフローはマイナスに転じており、特にトヨタの 12 ヶ月換算営業キャッシュフローは 1.5 兆円のマイナスと大きい。日産については当期利益は他 2 社同様に赤字だが、売上債権と金融債権の回収を進めたことにより営業キャッシュフローベースではプラスとなっている。

有利子負債の返済期限を個別に特定することは決算発表内容からは困難であることからタタ・モーターズと同様の試算は難しいが、3 社とも仮に 08年 10~ 12月のペースの赤字が年間ベースで継続したとしても、仮定の話として全ての設備投資他を一切中断して有利子負債残高を維持出来れば、手元の現預金で1年間の営業キャッシュフローのマイナスを賄うことは出来そうである。

【ビッグ 3 から株式を譲り受けた日本メーカー、マツダはどうか】

一方、タタ同様にフォードが保有する自動車メーカー株式を譲り受けた(自社株ではあるが)マツダの場合はどうだろうか。

先ず、前提としてタタがジャガー・ランドローバーを 100 %譲受ける際に 23 億ドル(当時で 2,300 億円)支払ったものに対して、マツダは自社株の 6.8 %相当に対して 178 億円を支払っている。調達額及び支払額としては、一桁小さい単位である。

(単位:10億円)
有利子負債     現預金     12ヶ月換算営業CF
マツダ      655         95       -648

(出典:マツダ HP 掲載の 2009年 3月期第 3 四半期決算短信資料を基に住商アビームにて作成)

上位 3 社と異なり、現預金で 12 ヶ月換算の営業キャッシュフローのマイナスをカバーすることは難しそうであるが、自社株買いの金額は限定的であることから、当該トランザクションに伴うキャッシュ影響云々というものは無さそうである。

【邦銀による外国法人保有株式取得の支援】

タタとマツダは同じフォードから株式を取得したということ以外に、資金調達源という観点で広義に共通点がある。これは、両社とも資金を(主に)邦銀から調達しているということだ。

タタがジャガー・ランドローバー株式を取得した額の 23 億のうち、20 億ドルは各行からの協調融資で、うち 8 億ドルはみずほと三菱東京 UFJ が拠出しており、残りの 12 億ドルはシティや JP モルガン・チェース、BNP パリバなどの 8 行とのことである。

一方、マツダの資金調達源は開示されていないが、凡そ国内行であろう。

タタグループと各行は現在リスケに向けた条件などを詰めつつあるものと想像される。マツダの場合は資金繰りという観点で全く違う次元ではあるが、国境を越える M&A を資金面で支えるプレーヤーとして今後邦銀は世界の中で重要な役割を果たす機会が増えていくと思われる。

世界の実需から見て自動車産業が全て崩壊してしまうことは有り得ず、現時点で余剰の供給力を調整しても追いつかない需要の減退も、どこかでは反転するタイミングがくる。この結果、資金提供した金融機関をも含めた自動車業界に関連する全てのステークホルダーが再び世の中で求められる価値を提供し続けることの結果としての利益を享受できるようになるはずである。

筆者を含めた自動車業界に関連する全ての人は、今後雇用調整や賃金カット、価格調整や操業度調整、その他多くの一時的な痛みをこれまで以上に負担していく局面に直面するであろう。しかし、「慎重且つ積極的」という二律背反なコンセプトを大切にしながら、自らの役割を担いつつ、大胆な挑戦を継続することで、持続的な成長に繋げていくことが大切である。

<長谷川 博史>

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