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コラム

不都合な現実・金融ビジネスとなりつつある自動車ビジネスをどうする?

◆ホンダと日産が米国で資産担保証券(ABS)を1,000億円単位で定期発行へ

昨年 12月以降、半年ぶりに発行を再開することで、相対的な高格付を生かして長期資金を調達する。

<2009年 3月 7日付日本経済新聞、他>
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GM やクライスラーへの政府による融資有無が生死を分けるといったニュースや、フォードの 1 兆円強の債務削減策(社債に対する現金と株式交付)といった話が毎日のように誌面を賑わしています。

お金(現金)が無いと会社が潰れてしまうというのは資本主義のルールですが、今日のコラムではトヨタの財務情報を例に採り上げながら、自動車メーカーが実質的に(少なくとも半分程度は)金融事業者となってしまったことを示したうえで、デレバレッジを進めるなかでの自動車産業の将来の方向性に関する示唆が出来ればと思っています。

【トヨタの持っているモノは】

会社というのは、1. 株主や銀行からお金を預かりながら、2. これらをモノ(資産)に換えて稼動させながら、3. 結果再度お金に換える一連の運動を繰り返しています。その結果、3. が 1. を上回る部分が利潤になるわけですが、ここで見てみたいのは 1. で調達したお金を 2. で何に換えたか?という点です。

会社がモノに換えた結果の内訳が何で、金額換算すると幾らか?は会社の総資産と呼ばれるわけですが、例えばトヨタ自動車の総資産総額は 08年 3月末で32 兆円です。

自動車製造会社は莫大な資金を調達して車を作る工場設備などに投資をし、この工場を稼動させた結果として製造した車(など)を販売することでお金に換える運動を繰り返しているわけですが、上記 32 兆円のうち自動車生産設備は 5.8 兆円 *1、子会社他で有していると思われる同様の設備等で 6 兆円 *2の、合計で 12 兆円弱となっています。

*1 08.3.末の有形固定資産残高
*2 08.3.末の投資及びその他の資産残高

それでは、全部で 32 兆円のお金を預かってなんらかのモノ(資産)に換えているという内訳の 12 兆円を差し引いた残りの 20 兆円は何になっているでしょうか? 20 兆円の中には、販売する前の在庫や自動車になる前の材料といったモノもありますが、実はこのうち 14 兆円は金融資産となっています。

金融資産といってもピンと来ないかもしれませんが、ものすごく乱暴に言えば「売ったんだけどお金を回収していないので、帳簿上貸したことにしてある残高」乃至は「上記 3 つのステップのうち 1.で調達したお金を 2.でモノに換えずお金のまま第三者に貸した状態」のことを言います。

具体的な数字に興味のある方は以下を参照してください。

・トヨタの総資産内訳は 14 兆/ 32 兆= 44 %が金融資産
・14 兆円のうち、50 %の 7 兆円が小売債権(オートローン)、2.6 兆円が卸売債権(ディーラー向けフロアファイナンス)、2 兆円がオペレーティングリース。
・14 兆円の地域別内訳で言えば米国(TMCC) が 6 割強の 8.7 兆円*。
・8.7 兆円の米国における金融資産のうち、4.7 兆円が小売債権(オートローン)、1.2 兆円が卸売債権(ディーラー向けフロアファイナンス)、1.9 兆円がオペレーティングリース

*TMCC の会社資料をベースに 08.3.末の数字を1ドル100円で換算

トヨタの全世界の売上高は 26 兆円ですが、このうち半分強の 14 兆円は(乱暴な言い方をすれば)まだ売り先から回収していないお金ということになります。

更に言えば、26 兆円の売上高のうち 35 %の約 9.1 兆円が北米での売上ですが、北米で積みあがっている金融資産が 8.7 兆円ということは、ほぼ 1年分の売上が未回収残ということになります。

未回収残について:トヨタをはじめ、各自動車メーカーは回収出来ていないのではなく、元々ビッグ 3 をはじめとした各社がユーザーに対して「買ってもらったら、お金は後でいいですよ」というプログラムを展開することで会計上の利益を計上してきたことを横目で見ながら、競争という観点で同様のプログラムを徐々に展開してきたものです。つまり、回収出来ていないのではなく、回収せずに金利を稼ぐという意図が働いていたものと思われます。

【トヨタの借金の推移】

現在でも 12 兆弱もの内部留保を有するトヨタは時に「トヨタ銀行」と呼ばれるほど財務体質が強固・健全ですが、実は 95年から時系列を追って見てみると、負債額及び現預金を差し引いた純借金(純有利子負債)の額は実に 9,900億円から 10 兆円強まで 10 倍以上に伸びています。
(単位:百万円)
95.3.      96.3.       97.3.       98.3.
現預金       1,492,625   1,179,499    1,633,337   1,310,527
純有利子負債    995,827   1,334,556    1,560,323   2,637,994

99.3.       00.3.     01.3.           02.3.
現預金       1,165,383    1,016,260    1,019,217    707,233
純有利子負債   3,173,229    3,351,473    3,441,880   5,044,749

03.3.       04.3.      05.3.     06.3.
現預金        620,870   1,729,776    1,483,753   1,569,387
純有利子負債   6,644,132  5,831,709    7,063,91   8,828,010

07.3.      08.3.
現預金      1,900,379  1,628,547
純有利子負債 10,228,71 3 10,581,536

勿論、収益力との兼ね合いで言えば全く問題無いレベル(直近の 09年 3月見通しの赤字を一時的なものと判断すれば)です。

ただ、借金の殆どが金融セグメントに関わるものであることが分かっています。上記 08.3.末時点で純有利子負債(純借金)が 10.6 兆円となっており、現預金が 1.6 兆円ということは借金の総額は 10.6+ 1.6= 12.2 兆円ということですが、この 12.2 兆円のうち実に 10.6 兆円(87 %)が金融セグメントに関わる借金となっています。

借金をして自分の商品を買ってくれた人向けに貸している、ということです。

【ABS とは】

本日採り上げた記事の ABS というのは、自動車ローンやリースなどの債権を担保にして発行する証券のことです。少し分かりにくいですが、これまた乱暴に言えば、自動車メーカーが貸しているお金を小口に分けて色んな投資家に販売するというものです。

これにより、自動車メーカーが個人やディーラー向けに貸しているお金を第三者の投資家から回収し、いち早く現金化することが可能になります。

ホンダと日産はこれらを 2~ 3 ヶ月に 1度の頻度で 1,000 億円規模の発行をしていくとのことです。

上記トヨタのケースを元に例えれば、
1.銀行から調達した 10 兆円を元に
2. ユーザーやディーラーに貸した 14 兆円の債権を、
3.金利をつけて返済し
てもらうまでの間のタイムスパンが例えば 4年掛かるとしたら、3.の部分を第三者に販売することで、これを早期化する効果が見込めるということになります。

【今回のABS利用拡大の背景】

自動車業界最優良企業であるトヨタであっても上記の通り多額の金融債権を抱えている状況が ABS の利用拡大の背景に先ずはあります。

これに加え、販売台数が急減していること(米国の新車販売は 2月に 41 %減で、トヨタでも 39 %下がっている)、更に信用市場の崩壊(銀行が潰れたり、貸し渋りが起こる)といった現象が今後更に深刻化する可能性も否定出来ないことから、現金化できるものは何でも早く現金化したい、ということが背景にあると思います。

また、日本の自動車メーカーの子会社・孫会社は米国法人として米国人を雇用しながら経営されていることから、米連邦準備理事会(FRB)による ABS、CPの直接買入も期待でき、 ABS 発行市場が安定化しつつあることももうひとつの背景として挙げられます。

【金融は金融屋に】

筆者は本コラムにおける年始の挨拶で「過去の蓄積と未来の可能性の圧縮燃焼」と称して、自動車業界をサステイナブル(持続可能)にするためには化石燃料の燃焼と金融を前提とした販売方法という仕入れ・販売両面での「これまでのやり方」を是正する必要があると主張させて頂きました。

詳しくは以下 を参照願います。

『年始のご挨拶』

その観点では、今回採り上げた ABS オートローン債権を小口化して投資のプロへと販売していく方向性自体は良い方向だと思っています。勿論、本来借りられない人まで範囲を広げた債権を混ぜたりすることはもっての他ですし、ユーザーに一定期間以上の金融(例えば 36 回払いまでは妥当でも、120 回は流石に長いかもしれないといった話)を付与することの妥当性も考えなければなりませんが、先ずは金融を金融屋に任せていく方向性自体は良いことではないでしょうか。

その観点では、日本のトヨタファイナンスが 5月に無担保ローン事業から撤退することが 09年 3月 7日付の日経新聞に掲載されていますが、改正貸金業法との兼ね合いであるとはいえ、これもひとつの方向性と言えます。

数年前まで、顧客基盤を有する企業はそこに大量の会員カードを配り、ビザ・マスターカードといったクレジット機能とキャッシング・ローン機能をつけることで最大 18 %の金利を享受することが勝利の方程式でしたが、トヨタファイナンスによる今回の判断は、自動車屋が自動車屋として、本体販売促進のための金融がどこまでの範囲・期間なのかを考慮したうえでのものであるとも解釈できると思います。

<長谷川 博史>

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