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コラム

価値を生み出す経営とは(3)・差別化って?

エンジニアや、普段「数字」にあまり触れる機会の無い方、若しくは「数字」には触れているものの、それらの意味合いについてあまり考える機会の無かった方に、なるべく分かり易く「価値を生み出す」という行為がどのように数字に置き換えられているかという、基本的な考え方を紹介したいと思います。気楽に書きますので、気楽にどうぞ。

第3回: 差別化って?
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(何故差別化が必要なのか)

これまでの話を総合すると、必ずしも「良いものを作れば売れる」というのが正しくないことが分かるのではないだろうか。先週のコラムでも書いた通り、モノやサービスの使用価値は、外部とどのような関係にあるかによって如何様にも変化する。

昔、自動車がまだ手で組み立てられていたころ、生産キャパシティは限定されており、価格も年収の10~20年分と高かった。その頃は、「良いものは売れる」が間違っていなかった。しかし、消費者からの継続的な期待に対応する為に、生産技術の革新が図られ、これに伴いコストダウンが実現された結果、価格は下がり、自動車は急速に普及した、というのが昨今の日本の状態である。

即ち、顧客は各自動車メーカーが次々と発売する新車の中から、自分が一番買いたいモデルを選ぶことが出来る時代になったわけだ。 一方、自動車メーカーからすれば、昔はドンドン良いものを作っていったものの、今では供給が需要を上回ってしまったことから、不人気車種は売れなくなっており、良いものであっても必ずしも売れない時代になっている。売れないモデルは在庫と化し、結果的にはロスとなる。
よって、自動車メーカーとしては、ライバルの自動車メーカーとの競争に勝ち、顧客に自社の商品を買ってもらう為に、他社と違ったことをする必然性が生じ、ここで初めて「差別化」が重要になったわけだ。

世の中に存在しているモノと全く同じモノを提供しても、それを欲する人の数が増えない限り、供給が増えるだけで、結局価格の下落を招く。価格は下落したもののそれを欲する人の数は一定であれば、獲得可能な貨幣量は減る。増してや上述のように在庫になってしまったら、獲得貨幣量が減るのではなくゼロになってしまう。

(差異性を創り出すことによる利潤)

東京大学経済学部長の岩井克人教授によれば、資本主義とは利潤を永続的に追求していく経済活動のことだそうです。そして、資本主義の一般原理を「差異性から利潤を生み出す」という言葉により表現しています。ここでは、利潤を「貨幣・お金」と一義的に読み替えてもよいでしょう。

岩井教授は、資本主義の歴史を3つのフェーズに分類しています。

1)商業資本主義
遠隔地交易などにより、異なった二つの価値体系の狭間で、一方で相対的に安いものを買い、他方で相対的に高いものを売ることによる、利潤。
但し、遠隔地交易の規模の拡大が、利潤の源泉である地域間の価格差異を縮める。

2)産業資本主義
生産手段を寡占している資本家が、労働力の価値と労働の生産物の価値とのあいだの差異を媒介することによる利潤。昨今の中国ブームの第一フェーズである「中国の農村の安い労働力を使え」という動きそのものである。
但し、これは結果として産業資本の蓄積を促し、利潤の源泉である労働力と労働の生産物との価値の差異を縮める。即ち、安い賃金で働く大量の労働者の存在=農村の過剰人口に基づく労働力を使い切った時点で、工場労働者の実質賃金率が上昇することにより、利潤が消えてしまうということ。

3)ポスト産業資本主義
新技術や新製品の絶えざる開発によって未来の価格体系を先取りすることのできる革新的企業が、それと現在の市場で成立している価格体系との差異を媒介することによる利潤。新技術や新製品は、その模倣をまねいて、革新的企業の利潤の源泉である現在の価格と未来の価格との差異を縮めてしまう。

即ち、ポスト産業資本主義では、「差異性を意識的に創り出すことによって利潤を生み出していく」ことが、企業の存在意義そのものになっていると言っても過言ではありません。いみじくも、マイケルポーターが、「戦略とは自社と他社を差別化することにほかならない。業務プロセスの改善やリストラなどは戦略とは呼ばない」と言ったのは、正にこの「ポスト産業資本主義」での企業のあり方そのものを説いていると言えるでしょう。

(顧客迎合による安易な差別化)

一方、顧客の欲するものを把握したうえで、永続的に差別化を行っていくことが重要であるという前提に基づき、杓子定規にこれを行っていくと何が起こるでしょうか。実は、安易な差別化には顧客にとってはどうでもよいものが多く、顧客が欲していない小手先の差別化は、販売=貨幣獲得には結びつかない。
例えば、缶コーヒーの世界を見ても分かる。定期的に新しい味のコーヒーが発売されてはコンビニの棚から消えていくが、果たして顧客がどこまで「xxドリップ」や「○○フレーバー」という言葉を真剣に捉えているだろうか?メーカーからすれば、必死の差別化活動で次から次へと新しい製法、デザインや名前などを顧客に提供しているが、顧客は正直あまりそういった箇所に関心は持っていない。寧ろ、いつも買うコンビニのあの場所にあるとか、オフィスの自動販売機にある、といった程度の理由で買っているのではないだろうか。にも関わらず、一部ヒットが出ると直ぐに他社が模倣することから、一瞬のうちに差異性は失われ、販売はダウンしてしまう。

(顧客の期待を上回るモノ・サービスの提供)

差別化を行うときには顧客の期待を上回る差別化が重要である。
これは、顧客に単純に質問して回答を得ることでは生み出せない。先のコーヒーの例で述べた通り、顧客はそこまでその商品やサービスに思い入れも無いし、仮に質問したとすれば帰ってくる答えは、「より美味しく、より品質の高いブランド品を、安く販売してください」と言うに決まっている。しかも、その通りのものを開発したとしてもコストが価格に合うわけがなく、実際に販売しても売れる保証は無い。
よって、真の差別化を行う為には、自社の強みを全面的に押し出していき、顧客がその商品やサービスに対して想像可能なレベルを飛び越えたモノを提供しなければならない。
誤解無きようお願いしたいのは、デザインが突飛なものや、性能が普通の人が考えるレベルを逸脱しているものを作り出せ、と言っているわけではない。
顧客が、「このものが欲しいな」と思っているのであれば、それを上回る「喜びや満足感」を提供しなければ差別化とは言えない、ということが言いたいのである。

<次回の予告>
第4回は、「売上を計上するには、もっと与えなさい!?」です。
顧客が期待しているレベルを遥かに超えたモノ・サービスを提供することで、初めて所謂「売上」が計上される、というのをロジカルに説明したいと思います。

続きはこちら>>

<長谷川 博史>

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