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コラム

現場立脚型・異種格闘武者修行に基づく経営のススメ

◆トヨタ、23日に社長就任する豊田章男氏(53)のレース活動には大きな意味

トヨタが、巨大化して利益を優先するにつれ、社員のクルマへの思いが薄れて商品の魅力もなくなり、クルマ離れを招いた。「現場に近い人にもっと発言してほしいが、残念ながらそんな社風ではなくなっている」という。

レースやプリウスカップは現場がトップに直言できる良い機会であり、今のトヨタにとってはそれ以上に開発や販売の最前線から意識を変えていく大切な場。普段の会社生活では会う機会もない巨大メーカーのトップとメカニックが苦労や感動を共有することは、参加者全員の力となり、それが企業としての大きな力にも結びつくはずだ。

<自動車ニュース&コラム 2009年 6月22日号>

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昨年 9月以降、年間数百億円とも言われる F1 やその他各種レースから多くの自動車メーカーが撤退を表明しています。また、レースのみならず、モーターショーや各種イベントへの参加も足元のコスト見直しという観点で見送られる傾向があります。

そんな中、トヨタの新社長のレース活動について各種意見が飛び交っているようです。

筆者は「トヨタ」という個別の企業のトップが「レースに出場」するという具体的な事象について、何らか意見を有すものではありません。強いて言えば、生命の危険が伴うのであればなるべく回避すべきであろうし、万が一に備えたバックアップ体制を取っておくべき、といった危機管理面での対応を万全にしておくべきという考えを有しているくらいです(既に、考えうる対応は実施済みかと思います)。

一方、(自動車に限らず)企業のトップが自社商品の性能を試す公の場、しかも再現性を試みる実験室内における自社製品の過去実績との比較を超えた 、再現不可能な一度勝負の他社製品との比較の場に登場すること自体は、賞賛に値する行為であると考えます。

商品には商品そのものの使用価値に加えて、ストーリーが付加されることによりはじめて強いブランドが構築されます(以下、筆者過去コラムを参照してもらえればと思います)。

『絞り込んだストーリーの、愚直なまでの継続的語りかけで売る』

レースに相当するような勝負事では、客観的性能以外の要因も勝敗を左右することから、「定量的な科学」をすることが難しいものの、社長自らが自社の商品にストーリーを加える活動に参画する結果、末端の直接お客様に接する社員に至るまでのメンバーも当該活動に参加することになり、商品そのものに更なるストーリーが付加されていく良い循環が形成されていきます。今の大変な世の中だからこそ、こうしたリーダーによる自らの行動は大きなうねりを創り出すひとつの切っ掛けになり得ると思います。

【異なる「現場」の定義】

企業経営における大切なキーワードでありながら、曖昧な日本語の解釈の難しさも伴い誤解が生じるのが「現場」という言葉です。「現場主義」、「現場に行ったのか?」、「現場ではどうなっている?」という言葉は、よく聞く言葉です。

また、「現場」という言葉の前に部署であったり担当業務内容が入ると、「開発現場」、「生産現場」、「販売・営業現場」といった狭義の現場の意味合いが出てきます。開発現場のみにイノベーションの芽は埋もれていますし、生産現場にのみ改善可能な実態は展開されていますし、販売現場のみにお客様との接点があります。

豊田新社長も、嘗て「現場に近い人にもっと発言してほしいが、残念ながらそんな社風ではなくなっている」という発言をしたそうですが、この場合の現場とは、上記全ての現場を示しているものと思われます。

それぞれの現場にのみ将来に亘る持続的な成功の鍵が眠っている実態を頭で理解している人は多いですが、トヨタの新社長でさえも上記のようなコメントをするということは、ましてやその他日本企業においてはこうした「現場から浮いた」、「現場に立脚しない」、「そもそも現場での実態を把握したうえでの行動に繋がらない」ケースが存在することの証と言っても良いと思います。

筆者が嘗てコンサルティングに関わったことのある大企業での経験を通じて感じている、「現場に立脚しない」企業経営の傾向は、「よろしくない方向」に進みつつあります。

前回コラムで企業経営を軍事に擬えて自動車産業の昨今についてご紹介しましたが、今回は同様のアナロジーを用いて「現場での実態を把握しない企業経営」の傾向をご紹介したいと思います。

~前回コラム~

『自動車産業における企業経営の軍事的分析』

【現場に立脚しない経営の傾向・軍事的アナロジー】

敵軍に勝つには物量と補給、複数の異なる戦線への最適な人員と物資投入が必要です。これは前回コラムにも書かせて戴きましたが、昨今の大企業ではこうしたことについてはある程度把握しており、戦費の調達や戦線ごとの戦況アセスメントは、個別の参謀役を担う部署(現場の状況を審査したり管理する部署がこうした部署に相当することが多い)が行っています。

一方、本来は前線(現場)に接してドンパチ戦っているはずの(例えば営業部署)においては、

1.そもそも攻める戦線がどこなのかを、将官が理解していない。また、与えられた担当(地域や機能を別に戦線の担当が与えられている)における現在の戦線を深耕させるつもりもない。

2.営業現場担当の将官は、後方における報告対象である参謀役部署への定量 的説明責任を満たすことに注力。

3.これを見ている兵士も、本来は一斉射撃を繰り返したり、ゲリラ的・能動的な兵員の展開を行う必要がある場面でも、やり方そのもののトレーニングを受けておらず、参謀本部宛の報告書を前線からはるか離れた冷房の効いた部屋の中で(本人の気持ちとしては、真面目に、必死に)書いている。

4.一方、本当の前線では、外国人傭兵部隊が弾を撃っているが、そこの指揮は傭兵の棟梁任せ。兵士はたまに前線に行くものの、状況把握の報告書を作りに行くのが目的。前線での外国人傭兵部隊の棟梁と直接接することはあまりせず、まともに現場での状況を話し合ったことすらない。結果、傭兵棟梁を管理監督する立場になっている自軍の「軍事顧問」という名の付いた戦闘を行うことの無い派遣員との会話に終始する。

5.こうした過程で作られた報告書を前線の将官が少し短く骨子だけを要約して、定期的な戦況報告会で報告する。

勿論、自らが行動している現場担当の兵士と、軍事顧問経由の傭兵任せの兵士と 2 種類存在しているものの、寧ろ後者が「現場化」であるというふうに美化されて、結果、兵士としては報告書作成以外に従事出来ない体に成っていくことの隠れ蓑になっていることがあります。

更に傾向として恐ろしいのが、上記報告作成が仕事だと思ってしまっている若年層兵士が大量製造されつつあることであり、彼らがあと数年経つと同じような人間に仕立て上げられていき、結果傭兵任せの乗っかりの戦いを加速していく傾向にあるということです。
こうした傾向の原因は複数存在すると思われます。環境面でよく言われるのは、右肩上がりで売上成長を続けてきた日本経済における成功体験者の高年齢層が、これまでのやり方を継続してしまっている、乃至は息切れを起こしているにも関わらず経営リソースを左右する権限を寡占しているが故に、その下の層が思考を停止したり、工夫を止めてしまっていること。国としての富の蓄積や企業体力に甘えて、更なる成長を求めるハングリーさや危機感を失ってしまったこと。組織面で言われるのは、官僚主義の蔓延に伴い、形式的な報告が全てとなり、何を生み出したかではなく、どれだけリスクを負わず損をしないで、最低限の経営リソースの投入を維持するか、という「目的と手段の逆転」もあります。これは、管理側と現場側の両方に起因するものです。

【鍵はトップとボトムの異種格闘武者修行】

成長ステージが進むに連れて現れるこうした症状や官僚主義化は太古の昔から共通の傾向ではあるものの、自らの生み出す付加価値の全てをアウトソースしてしまい、内部における書類遊びに耽ってしまう国家や企業で成長力を持続した組織は皆無です。

とはいえ、組織に参画する多くの人間が同様の想いを共有していたとしても、結局一人ひとりが変革を起こしていくことが難しく、今日も書類のための書類を作ったり報告をしている人は多いでしょう。

しかし、個々の人間が個人として成長することによってのみ、そのΣ(シグマ)である国家や企業の成長は達成されます。

その観点で筆者が大切だと思うのが、企業内に属する個人ベースでの異種格闘武者修行です。

トヨタの新社長である豊田章男氏は、勿論クルマが好きでもあるでしょうが、報道によれば社内評価ドライバーの成瀬弘氏(66)に「自動車会社の一員として、評価の仕方を教えてほしい」と志願し、弟子入りしたのがレーサーへの道のスタートであったそうです。
当然、御曹司であるが故に様々な特待を受けることが出来たという背景はあるでしょうが、実は組織のボトムに居る人間でも、やる気と行動力さえあれば、こうしたことは幾らでも実現可能だと思います。

社内外の異なる戦力を有する相手と一緒に修行を行ったり、同じ前線でそれぞれの考えで動いて攻めて、失敗してまた考えて動いて攻める。そのために必要なリソースが何かを考えて、そこから社内に存在するものは調達し、社外にしかないものは、武者修行の相手とのネットワークの中から調達する。こうしたクリエイティビティの発揮の結果のみにより、自律自助の精神は宿り、ボトムレベルでの「企業の成長ステージ毎に同質化された社内プロセス」を打破する力を獲得することが可能となります。

報道によれば、5月にドイツで開催された「ニュルブルクリンク 24時間レース」後、リタイアした1台の担当メカニックが「すみません」と号泣し、豊田氏も涙を浮かべてねぎらい、抱き合ったとのことです。

冒頭述べた通り、トヨタ×レースというコンテクストで何かを述べる意図は無いものの、車に限らずあらゆるビジネスにおいて、トップとボトムがこうした想いを共有しながらと方向性を統一していくことで、初めて単なる数字の積み上げの報告書の塊とは異なる、有機的な「会社」になっていくものと思っています。

<長谷川 博史>

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