絞り込んだストーリーの、愚直なまでの継続的語りかけで売る

◆米国の自動車ディーラー最大手、「米ビッグスリーは売れる車を作れ」

334のショールームを展開し、米国新車販売の約4%を占めるオートネーション社では現在、トヨタやホンダを扱う販売店の在庫日数が35~42日分であるのに対し、ビッグスリーを扱う販売店では80~120日分と伸びている。

同社のマイケル・ジャクソンCEOは今年1月のデトロイト・ショーで、ビッグスリー各社の幹部と面会し、これまでの分析結果を使って顧客が求めている車を作るように要望した。

<2007年2月13日号掲載記事>

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一部ショールームに展示するデモカーを除く新車の多くが受注販売である日本と異なり、米国ではディーラーが自らのリスクで在庫を抱えるオペレーションとなっている為、販売減少によるディーラー店頭在庫増は、

1.昨今の金利上昇局面による支払金利増
2.長期在庫車両の処分による損失発生

という 2 つの大きな悪影響をディーラーの採算性に与える。

結果、オートネーションではインセンティブやリベートといった形でのメーカーによる支援に加えて、根本的に売れる車が必要という認識に基づき、昨年、売れる車種の傾向の分析を開始。今年1月に開かれたモーターショーで GM、フォード、クライスラーの経営者と面会し、これまでの分析結果を使って顧客が求めている車を作るよう要望した。

【売れるものとは】

昔はモノがモノとしての機能を果たせば良かったが、昨今、モノが豊富に存在する時代になり、車は単なる「移動用具」ではなくなった、とは良く聞く話である。

その結果、最近モノが売れないと言うが、では最近売れているモノはどういったモノであろうか。

筆者は今の時代はモノの背景に「ストーリー」が無いと売れない時代であると考えている。即ち、あの人がやった、何故やったか、何故作ったかといった「ストーリー」に対して共感できるから買うというポイントの比重が大きくなっている。※

※ビッグ 3 のそもそもの機能面での日本車との差異についてこのコラムで述べることはしない。

モノの開発秘話やテレビ番組での視聴者参加型のリアル TV、タワーレコードが CD 業界で唯一健闘している秘訣の一つである店員によるアーティスト紹介・手書きのポップなどはこの表れであろう。

また、食べ物でも生産者の苦労物語などがメニュー横に併記されていたりすると、思わずストーリーに引き込まれて、美味しさに付加価値があると思ってしまうのは筆者だけだろうか。

こうしたストーリーを作り出すことが出来るのは人である。モノの後ろ、サービスの後ろ、すべての後ろにヒトがいる。

そして人は人に一番魅力を感じる。

ハーレーダビッドソン ジャパンの代表取締役である奥井俊史氏も同様のことを複数のメディアで述べている。

氏は ハーレージャパンが扱うような商品の場合(筆者は自動車も同様であると考える)パレートの法則(2 割の優良顧客が 8 割の収益を齎す)は成り立たず、顧客を囲い込もうとすること自体に無理があり、囲い込むのではなく、繋がり・絆を維持しようとすることに意味がある、と言う。

そして、この繋がり・絆は「モノ」を売ることでは実現できず、「事」を売る、つまりライフスタイルそのものを売ることが重要であるとのことだ。※

※筆者が同氏の複数のインタビューなどを読んだ結果感じた、飽くまでも主観である。

具体的には、マスメディアの活用ではなく各種イベントなどを通じた顧客とのエモーショナルな [繋がり] を継続することで、減少する市場の中でハーレーは唯一継続的な成長を続け、高採算事業を展開し続けている。

【売れるものを継続的に作り続けるには】

さて、モノを売るのではなく、そのモノの背景にある「ストーリー」を語りかけ、「繋がり」を維持することで、結果としてそのストーリーが表象するモノが売れて行くことが重要であるとして、これを長期にわたって継続的に売って行くにはどうすれば良いだろうか。

一つの方法として筆者はセルフパロディを挙げたい。

具体的には、例えばサザンオールスターズの曲を考えて欲しい。

筆者は音楽家ではないため詳しいことを言える立場にはないが、彼らの音楽は 1970年代から「繰り返し、自らをコピー・ペーストしていきながら、全く同じではない自分を少しずつズラシながら成長させていった」結果であり、どの年代の人間も安心して、「これがサザンの新曲だ」と感じながら、毎年聴き続けることが出来る仕組みになっている。

ある意味、セルフパロディは自らのアイデンティティを自らが構築して、これを愚直なまでに繰り返していく手法ではないだろうか。

これを 30年以上継続しているサザンオールスターズは成功すべくして成功している(但し、定期的に飛躍のためのイノベーションも並行して継続することが重要)。

【ストーリーをどこまで継続して伝え続けられるか】

こうした愚直な行動の継続は、メーカーレベルに限らず、卸売事業者レベル、小売事業者レベルでも同様に大切である。

即ち、モノの背景にあるストーリーをしつこく語り続けることを全ての価値連鎖のレベルで継続することが、結果的に顧客の喜び最大化に繋がり、モノの販売増に繋がると考えられる。

但し、これを可能にするにはもう一つ大切なことがある。それは、パラメーターの最小化である。

必要な打ち手が複数に渡り、これを異なったタイミングに決められた順序に行うことが成功の条件である場合、打ち手の数が増加するほど成功確率は下がるのは自明の理である。

そして、語らないといけないことの数と語るタイミング・順番のパターンが幾多もに渡ると、ストーリーの語り部(例えば、メーカー、卸事業者、小売事業者など)の数との乗数は無限に膨れ上がってしまう。

モノの背景にある大切なストーリーの絞込みと、全ての語り部による愚直なまでの語りかけの継続。これが「売れているモノ」、「これから売れるモノ」に共通する経営側 / 企業側として取るべき行動であろう。

<長谷川 博史>