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コラム

組織論:RMA (Revolution in “Managment” Affairs)のススメ

◆米GM、新車開発部門と研究開発(R&D)部門を統合

意思決定のスピードを速め、市場ニーズに合った商品群をそろえる。
R&D部門を統括していたラリー・バーンズ副社長(58)ら幹部の退任も発表。

<自動車ニュース&コラム 2009年 7月16日号>
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GM は新車開発と研究開発組織を統合することで、新技術を市販車に盛り込んだり、顧客の要求を研究開発に生かすといった効果を狙うとのことですが、実態は R&D 部門統括幹部の退任や R&D そのものの短期効果狙いへのシフトといった「コスト削減と利益の先取り」の側面もあるようです。

さて、GM といえば事業部制をいち早く導入した企業です。

最近のコラムで軍隊組織と企業組織の比較を幾度か行っている筆者ですが、事業部制に基づく経営とは、軍隊で言う師団単位での運用を指します。

事業部制は、調達、製品開発、製造、販売、マーケティング、アフターセールス、その他管理機能(人事、総務、財務・会計、法務などなど)を内包する組織であり、製品別あるいは地域別に設置されていることが多く、「自立的な事業運営を行う上で必要となる機能をすべて組織内に有している」ことが基本となっています(現実的には、調達や製造の殆ど、人事、経理等の機能を全社でシェア共有しているケースが多い)。

一方、軍隊組織における「師団」の定義も、自らが独立して動ける最小定義の組織であり、全ての兵科(歩兵・騎兵・工兵・砲兵など)を含み、自前の補給部隊をも有しています。

事業部も師団も共に英語では “Division” と呼ぶことから、これらの由来が軍隊組織の師団制にあることが分かります。

事業部制(最近ではカンパニー制などとも呼びます)の基本思想は「分権」であり、製品や地域に関する権限と責任を事業部長に与えることで、個別事業部単位でのスピードの確保と業績責任の明確化によるモチベーションアップを狙いつつ、一定権限内での経営判断の繰り返しによる、「事業部長」の経営人材化・育成を可能とします。また、これにより本社としても、いわゆる「全社的な意思決定」に特化することが出来るようになります。

日本の自動車メーカーの多くはどちらかというと職能制(開発、購買、生産技術、販売、生産などなど)組織をとっていますが、GM のように過去において合併を通じて大きくなっていった組織においては、事業部制というのは必然であったと思われますし、今回、Good GM と Bad GM の分離が極めてスピーディーに行えたのも、こうした分権制度がブランド単位である程度導入されていたことにあると思います。

【事業部制や職能性組織の限界・軍隊における大きな方向性・RMA】

組織の形に正解は無く、飽くまでも当該組織の有する戦略次第でこれに従うというのが有名なチャンドラーを始めとする定説ですが、軍隊組織における大きな方向性として昨今唱えられているのが、情報 RMA 型軍隊です。RMA は、Revolution in Military Affairs と言われる情報化を基盤とする兵器体系から組織運用に至るまでの運用変革のことを言います。防衛庁の HP に掲載されている防衛政策課研究室の論文によれば、RMA とは「軍事力の目標達成効率を飛躍的に向上させるために、情報技術を中核とした先進技術を軍事分野に応用することによって生起する、装備体系、組織、戦術、訓練等を含む軍事上の変
革」のことを指すそうです。

<経営において RMA について考えてみた、過去の筆著は以下リンクを参照戴ければ幸いです>

『自動車産業における企業経営の軍事的分析』

米軍が出演するハリウッド映画などで、地上歩兵部隊における情報化(GPS や衛星通信、ネットなどを経由したやり取り)に基づく、無人偵察機や航空機による支援などの有機的な運用をペンタゴン側で適宜直接指示を出すといった映像を見たことがある人もいるかと思います。

こうした事例では、当然従来型のピラミッド組織を基礎とはしているものの、極めて柔軟な兵力の運用が実践されています。

例えば、前掲の防衛政策課研究室の論文では、RMA では「一般に、意思決定および情報の流れを迅速にし、人を介在させることにより生じる情報内容の変質を少なくするために、情報伝達ラインの結節点となる中間管理者等の中間組織を可能な限り削減することによって組織構造をフラット化し、情報共有を効率的かつ確実にすることが有効である」* としています。

つまり、上意下達が基本の軍隊組織であっても、構造のフラット化とメンバー間での情報共有を進めることが真剣に検討されており、また特に米軍ではこれが積極的に進められています。

* 但し、同様に限界として過度のフラット化については「例えば、指揮命令の実行という観点からは、1 人のトップが部隊の状況を的確に把握し、適正な指揮を行うことができる部隊の数は自ずから限定されてくるものと考えられることから、フラット化には限界があると考えられる」とのことです。

【ビジネスにおけるRMA】

実は、ビジネスでの知識労働においては、同様の RMA (但し、こちらのケースでは、Revolution in ” Managment” Affairs)が、軍隊におけるそれを遥かに上回るスピードで進んでいると筆者は考えています。

具体的な例としては、下リンクにある筆者の過去のコラムを参照頂ければと思いますが、一部の文章のみ引用します。この文章は、筆者が当時進めていた仕事のやり方について書かれているものです。

『M&Aの要諦をハイブリッドなプリウスから学ぶ』

<引用開始>

同時多発の案件への意味のある参画を可能としている要因の一つに、間違いなくテクノロジーの発達がある。具体的には共通のプロトコルである IP を基盤とする、モバイル PC とモバイル通信手段(携帯電話、ワイアレス LAN)、スケジューラーなどである。

例えばソフト・ハードという観点で言えば、筆者は Panasonic の Let’s Noteに FOMA N2502 という NEC 製のモバイルカード(現時点での FOMA の中では最速であるはず)と内蔵 Wireless LAN をベースに Hot Spot と契約、複数のメールアドレスを Microsoft の Outlook 上で使い分けながら、複数企業のサイボウズやその他スケジューラーのログイン ID を駆使してスケジュールを確認している。

~中略~

筆者のみならず、複数チームで異なる役割を発揮するメンバーは多かれ少なかれ同じような行動様式を取っているが、異なる場所に存在するチームメンバーが常にお互いにコミュニケーションを取りながら、最適解を目指しながらそれぞれの役割を果たし、全体構築を行なう「仕事のやり方」は、まだ仕事のやり方の歴史でいえば、10 年は経っていないだろう(10年前といえば、1998年。まだドットコムバブルがスタートした頃であり、ブロードバンド以前であった)。

もし 10年前に「同じ仕事のやり方をしろ」と言われていたら、間違い無く秘書が何人も待機しながら、次の資料や必要な作業リストを抽出のうえ管理してもらう必要があったであろう。

その意味では、IT イノベーションは一人当たりの生産性を上げ、チームそのものを有機物として機能させることで集団の付加価値を上昇させ、更には付加価値を生み出すべく活動をするメンバーを支える管理要員の最小化を通じて、効率化・コスト削減へも大きく寄与している。

<引用終了>

こうした働き方を全てのビジネスマンが実践しているわけではないですが、実態としては 30 歳代の一部の人間以下の層では当然の所作になりつつあることを、上の世代の、組織ピラミッドの相対的上部にいるマネージャーは改めて認識するよう試みる必要があると思います。

既に、異なるファンクションを有する個々の情報化歩兵(知的ワーカー)が、米軍を始めとする同盟国(アライアンス先企業やプロフェッショナル事務所)と共通のプロトコルをベースにリンクしながら、共同で仕事を達成していくというやり方が、寧ろビジネスの面で先行していることを、企業経営者側では改めて認識したうえで、当該戦略(仕事のやり方)に従う必要な組織体系を考慮する必要があります。

しかし、実際には階層を増やしたり、中央からのグリップを効かせすぎたり、組織ピラミッドの上層に存在することの意味合いを、情報共有ではなく操作に見出す傾向はここ 10年単位の日本の組織とそこで働くマネージャーの傾向となっています。

「自分の組織は、個別の従業員の知識労働者化という観点で、まだまだそんなレベルに至っていない」というところもあるかと思いますし、それ自体が「遅れている」わけではありません。但し、今後の大きな方向性は RMA の方向に進んでいくと思われます。意識することだけでも違ってくると思います。

【既存組織の考え方に基づく判断の愚】

これからの日本は、人口そのものが減少していきます。しかも総労働人口のうち 35 %が、非正規雇用となっており、この大きな集団の平均年収は極めて低い水準となっています。これは、1 人当たり生産性が低い企業が、非正規雇用を調整弁として増やした結果ともいえます。

しかし、人口増加が見込めない日本において国民の富を増やすには、一人当たりの生産性の向上が絶対不可欠となっており、特に正規雇用の中でも知識労働を行う層については、パフォーマンス・効率を上げる余地は十二分にあると
思われます。

具体的には、個々の知識従業員の情報武装化とより柔軟な運用に基づく、多能工化が必須となります。

即ち、一人の人間が複数のチームやプロジェクトに関わりながら、それぞれの場所で異なる役割を果たしつつ、一人当たり労働時間 / 日における手待ち時間=在庫を最小化しながら、こうした多様な経験を経ることでのみ得られる横断的な知識や経験を通じて、よりレベルの高い「経営者」として自らを自律的に育成していく形です。

しかし、既存組織の考え方や米国などから輸入された概念などに基づき、こうした柔軟な働き方そのものを「コントロール環境が整っていない」と判断したり、形式論のみを論拠として否定する、という実態があるのも事実です。

日本が置かれている環境は米国と異なり、経営者の誠実性のレベルがそもそも異なるにも関わらず、エンロン事件などを教訓とした「経営者やマネージャーが暴走する可能性を事前に牽制する」ことに重きを置いたインターナルコントロールなどの考え方をそのまま日本で模倣してはいけません。

筆者は米国の公認会計士資格を有していることから、米国から輸入された企業の業務品質を向上する大前提としてのコントロール環境の整備等といった「インターナルコントロール」全般に関する一通りの知識は持ち合わせているものの、金融危機後の日本版雇用創出装置として考えるのであれば、雇用創出に必ずしも反対するものではないですが、その効果については大きな疑問を抱いています。

ましてや、多くの企業においてこうした仕組みに関する包括的な理解が無いメンバーが、軍隊組織における典型的な(悪い)憲兵隊のように「柔軟な組織運用は組織内の腐敗の温床」と断罪するようなことがあってはなりません。

企業における柔軟な働き方・活動の結果がはじめて労働者一人当たり・チーム当たり、プロジェクト当たりのアウトプットの最大化につながり、これが日本全体の生産性を向上させることに繋がります。

一人当たりの生産性の向上を実現するための最適な働き方と、それに合った組織作りを「より速く」実現した企業が、「より世の中を良くしていく」結果としての成功を勝ち取っていく時代へと突入しつつあると筆者は信じています。

<長谷川 博史>

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