『攻め』と『守り』の資本提携

◆トヨタ紡織、豊田通商、川島織物セルコンの 3 社、ファブリック事業で統合へ

自動車や列車、航空機などのシート布地を製造・販売するファブリック事業をそれぞれ分割し、2010年 4月をめどに事業統合する検討を開始すると発表。

基本合意書締結は 6月中旬を予定する。自動車シート用生地の売上高は、トヨタ紡織が 30 億円、豊田通商が 100 億円、川島織物が 270 億円で、3 社合わせて約 400 億円となり、世界シェアで 2 割弱を確保する。「自動車市況の回復時に飛躍する為、競争力を高めておく必要がある」と川島織物セルコンの中西社長。

<2009年 04月 26日号掲載記事>

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【国内最大のファブリックサプライヤ誕生?】

今回、トヨタ紡織、豊田通商、川島織物セルコンの三社は、自動車・列車・航空機などのファブリック事業をそれぞれ事業分割し、統合することを検討開始したという。統合後の新会社は、売上は約 400 億円を誇る国内最大の自動車シート用ファブリックサプライヤとなる見込みである。

昨今の自動車業界の不振の影響を大きく受けている自動車部品業界であるが、自動車シート用ファブリックもその例外ではなかろう。実際、川島織物セルコンは、この統合計画の発表と同時に 2009年 3月期の業績予想の下方修正も発表しており、売上高は 732 億円(従来発表 815 億円)、経常損益▲820 百万円(同+300 百万円)となっている。

今回の統合計画の発表にあたっては、自動車市場が回復した時に飛躍するために、競争力を高めておく必要がある、という点がフォーカスされている。厳しい経営環境の中で、技術面や営業面といった水平面での相乗効果と、事業領域面や工程面といった垂直面での効率化を狙ったものだという。

こうした自動車部品サプライヤの資本提携・統合は、これまでも進められてきた。だが、その狙いは変化しつつあるように思える。今回は、このサプライヤの資本提携・統合の背景の変化について考えてみたい。

【サプライヤの資本提携・統合の変遷】

国内自動車部品業界の最も象徴的な特徴として、自動車メーカーを中心とした系列構造が挙げられる。自動車メーカーが自社の系列グループを組織し、そのグループ内のサプライヤに資金、人材、技術等を投入することで、調達の安定、品質の向上、コストの削減を共同で取り組む体制である。

こうした系列構造に揺らぎが生じ始めたのが、1990年代後半であろう。国内自動車メーカーに海外自動車メーカーの資本参加が進むことで、系列にとらわれず、コスト競争力のあるサプライヤから最適調達を行う方針を打ち出す自動車メーカーも出てきた。

こうした事業環境の変化の中で、系列依存からの脱却、つまり系列外からの受注拡大のためにも競争力を強化する必要に迫られるサプライヤも少なくなく、その一つの手段として、他のサプライヤとの資本提携・統合という戦略を選択するケースが生じた。特に、日産の NRP (日産リバイバルプラン)に基づく系列サプライヤの資本関係解消が顕著で、エクセディ、自動車電機、池田物産、栃木富士産業等が系列外の他のサプライヤとの資本提携を行っている。

2000年代に入り、自動車業界が回復基調に進みだして以降、サプライヤの課題としてあがってきたのが、グローバル化への対応である。自動車メーカーの海外展開に伴い、グローバルレベルでの供給体制を求められることも増えてきた。グローバルレベルで海外大手サプライヤとも戦える競争力を培うという観点もあったであろう。そうした中で、自社と関連する製品を手がけるサプライヤ同士で提携することでリソースの相互補完を行ったり、モジュール化・システム化への対応力を高めるケースも生じた。日立オートモーティブ、ジェイテクト、ダイキョーニシカワ等がこの類の資本提携・統合であろう。

【「攻め」と「守り」の資本提携】

こうして振り返ると、部品サプライヤの資本提携・統合の目的・狙いは、その時代背景に合わせて確実に変化してきている。自動車市場が厳しかった 1990年代後半には、系列構造の揺らぎに対応する「守り」の資本提携・統合が進み、市場が好転してきた 2000年代半ばには、グローバル展開に対応する「攻め」の資本提携・統合が進んだ。そして、現在、市場全体の収縮に対応する「守り」の資本提携・統合が進み始めている。

とはいえ、この「守り」の資本提携・統合も、市場が回復する次代のために競争力を蓄える戦略という意味では、「攻め」の資本提携・統合ともいえるだろう。以下コラムでも書いたが、厳しい状況だからこそ、柔軟な視点を持って、同業他社や関連部品サプライヤとの提携関係や資本政策を検討する意義があると考える。

『巨大電機メーカー誕生が自動車業界に与える影響』

かつて、「400 万台クラブ」という言葉が流行し、自動車メーカー自身の合併・資本提携が大きく進んだが、あれから 10年経った現在、その戦略が必ずしも正しいものではなかったことは自明である。

しかしながら、部品サプライヤの資本提携・統合については、再び解体するといったほどの失敗事例はあまり聞こえてこない。供給先である自動車メーカー自身の戦略に依存するケースもあるだろうし、市場自体が回復すれば、業績回復が見込みやすいこともあり、厳しい冬の時代を乗り越えられれば春を期待できる、ということもあるだろう。また、自動車部品そのものが多岐に渡る製品であり、資本提携・統合によってお互いのメリットを見出しやすいことも考えうる。共に春を享受できる仲間を検討してみる良い時期なのかもしれない。

<本條 聡>