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コラム

EV がもたらす業界構造の変化の可能性

◆三菱自動車と富士重工、法人向けに電気自動車(EV)の納入を開始

第 1 弾は三菱自動車の「アイミーブ」 49台と富士重工の「プラグインステラ」 3台の計 52台で、神奈川県や岡山県、日本郵政グループの郵便事業会社に加え、東京電力や関西電力など電力会社 5 社に引き渡した。神奈川県庁で共同 EV 導入式を開いた。

<自動車ニュース&コラム 2009年 7月 23日号掲載記事>
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【EV の量産開始】

リチウムイオン電池(LIB)を搭載する電気自動車(EV)がいよいよ量産車として納入開始した。環境に関する意識が高まる中、エコカー減税の追い風も受け、ハイブリッド車(HEV)の一人勝ち状態である国内市場だが、EV という新たな流れが、今後の自動車業界にどういう影響を与えるのか、興味を持っている方も少なくないであろう。

実は、EV が市場投入されるのは、今回が初めてではない。そもそも EV 自体は 1800年代から存在していたし、国内でも戦後間もない時代に発売されていた。近年においても、多くの自動車メーカーは何度も試作車を作り、実証実験を繰り返してきた。

しかし、これまで大きく普及するに至らなかった最大の理由はバッテリーにあったと言われている。重量、価格、出力等、クルマとして必要な性能を現実的にすることが簡単ではなかったからである。現在、改めて注目を集めている理由もバッテリーにある。今回搭載されている LIB の登場により、既存のガソリン車や HEV を超える性能とまではいかないものの、ある程度市場に許容される性能を発揮できる目途がついたからである。

今回は、この LIB が自動車業界に与える影響について考えてみたい。

【リチウムイオン電池の進化】

LIB は、既に電機業界では一般的な存在になりつつある。皆様のお手元にある携帯電話やノート PC 等々にも搭載されているだろう。この分野の小型軽量化に LIB は大きな貢献を果たしてきた。

LIB については、安全性がまだまだ問題だという意見も少なくない。実際、数年前に家電メーカーが発火事故を起こして報道されたことを記憶している方もいるだろう。特に過充電に対する耐性が問われることが多いのも事実である。家電用としてはまだしも、温度条件等、過酷な使用環境が想定される自動車用には、まだまだ厳しいものがある、という意見もある。

しかし、近年、電池メーカー各社の技術開発の結果、LIB も着実に進化している。特に、国内大手電池メーカーが自動車用を想定して準備を進めている LIBには、こうした過去の経緯もあり、安全性には特に注力して開発してきた。結果として、まだ高コストであったり、航続距離がガソリン車に及ばない、というデメリットはあるものの、それ以外の面では自動車に搭載されるものとして十分な性能を実現しつつある。

【LIB は最も高い部品?】

では、自動車用に十分な性能を持つ LIB が開発されたら調達すれば良い、と考えれば良いように思えるかもしれないが、問題はそんなに簡単ではない。どの電池メーカーでも、この自動車用 LIB を供給できるというわけではなく、国内電池メーカーを中心にした数社に限られている状態にあるからである。現実問題として、自動車用の LIB を供給できるメーカーの数は、自動車メーカーの数よりも少ない。特に、海外自動車メーカーにとっては、一層深刻な問題であるはずである。

一方で、電池メーカー側も、自動車用 LIB の量産には、数百億円単位の設備投資が必要ということもあり、簡単に量産体制を準備できるものでもない。ほとんどの電池メーカーは、全社的には楽観視できる経営環境にあるわけではなく、設備投資についても慎重な判断が必要であり、自動車メーカーが欲しがるから、と簡単に決断できるわけでないからである。

また、LIB の価格も大きな問題である。一般的にクルマ 1台に使われる部品点数は約 3 万点と言われており、自動車メーカーは、これを組み合わせてクルマとして機能するものを仕立てる役割を担ってきた。その一つ一つの部品製造のほとんどは、多数の部品サプライヤが担うことで成り立っているが、これまでエンジンのような最も高額な構成部品でも、一般的には数十万円単位に過ぎなかった。

ところが、今回発売になった EV の価格は 400 万円を超えるが、その最大のコスト要因は LIB であり、一般的に、EV の価格の半分以上を占めていると言われている。つまり、EV の登場により、半分以上のコストを占める巨大な部品が出現したということである。

つまり自動車メーカーの立場からすると、製品価格の半分以上を占める高額な主要部品であるにも関らず、いつでも欲しい時に買える部品ではない、ということである。

【業界構造の変化の可能性】

そこで、これまで自動車メーカーが取ってきた戦略が、電池メーカーの囲い込みである。特定の電池メーカーと提携し、LIB の生産を合弁事業として進めることで、安定的に調達できる環境を整えようとするものである。電池メーカーの立場にとっても、設備投資資金を折半できる、量産時の供給先を確実に確保できる、等のメリットがあり、多くの電池メーカーが自動車メーカーとの提携を進めている。

勿論、全ての自動車メーカーが電池メーカーと提携したわけでない。また、特定の自動車メーカーと提携せず、あくまで広く供給していくことを目指す電池メーカーもある。

しかしながら、こうした自動車メーカーと電池メーカーの関係は、これまでの自動車メーカーの部品サプライヤとの関係とは異なる可能性があると考えている。前述の通り、高額な主要部品であるにも関らず、いつでも欲しい時に買える部品でもない、ということを考慮すれば、電池メーカーが自動車メーカー以上の交渉力を持つ可能性があるからである。現在、自動車メーカー各社が計画しているような HEV ・ EV の生産計画を実行していくためにも、電池メーカーから安定した供給を確保することが大きなテーマになるはずである。

仮に、自動車メーカーと電池メーカーの力関係が変化するとすれば、自動車業界自体の構造にも影響があるはずである。これまで自動車メーカーを頂点として系列構造を構築してきたが、その構造自体にも変化が生まれる可能性すらあるかもしれない。実際、既に HEV ・ EV に欠かせないセンサーを全世界の自動車メーカーに独占的に供給しているメーカーも登場している。今後の技術革新の中、こうしたメーカーが増える可能性もあるだろう。

こうした変化の時代の中で、どこに商機を見出すか。現在苦境にある部品サプライヤにとっても、視点を変えれば、新たな活路を見出す機会があるかもしれない。

<本條 聡>

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