麦のエコ路地散策(1)  『カーボンオフセット』

昨今、新聞、雑誌、TV等で見かける環境用語を取り上げ、自動車業界との関係を探っていくコラムです。
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初回 『カーボンオフセット』

昨今の金融危機の影響もあり、先日まで盛り上がっていた環境ブームも落ち着きを見せていますが、洞爺湖サミットにおいて2050年までに温暖化ガスの総排出量を全世界で半減にするという合意がなされたとおり、環境問題はいかなる状況でも無視できない命題の一つになっております。本コラムでは、環境キーワードを取り上げながら、自動車業界と環境の関連性について追求していきたいと思います。

【カーボンオフセットについて】

ご存知の方は多いと思いますが、「カーボンオフセット」とは、経済活動や日常生活などを通じて「ある場所」で排出された二酸化炭素等の温暖化ガスを、植林や CDMなどの削減活動によって「他の場所」で間接的に相殺しようという活動の総称です。

活動そのものは温暖化ガスを削減するものではなく、その主眼は経済活動や日常生活において発生している温暖化ガスの排出量を認識し、地球の温暖化問題を自らの行動に起因して起こる問題であることを意識させるところにあります。ようするに、地球の温暖化の「加害者」は自分であることを知り、主体的に温暖化ガスを削減する活動を行なうことを促進することにあります。

【商品化が進むカーボンオフセット商品・サービス】

最近では、環境意識の高い消費者をターゲットに「CO2 ゼロ」「排出権付き」といったロゴや詠い文句を表示している商品・サービスの発売が相次いでいます。いずれも、カーボンオフセットの仕組みを採用しており、マンションからラーメンまで幅広い分野での商品化が進んでいます。

もちろん、自動車業界においても例外はなく、カーボンオフセットを支持する消費者をターゲットとした商品が出てきています。

その一つが今春、日産自動車が発表した「マーチ コレット」です。

「コレット」一台につき1トン分のCO2 排出権が付与されており、購入者がCO2 削減活動に参加したことになります。オフセットされる1トン分のCO2は、同車で約 8,000km走行した際の CO2排出量に相当しており、この商品を通じて削減された CO2削減権は、京都議定書で定められた日本の温室効果ガス削減目標である-6%にも貢献する内容です。

もう一つが今夏、アウディジャパンが導入を発表したカーボンオフセット付帯の残価保証型ファイナンスパッケージ「Audi Advanced Ownership」です。

このファイナンスパッケージは「アウディA6 2.8 FSI クアトロ」を対象としていて、高い買取保証とメンテナンスサポート、カーボンオフセットの三つのプログラムを組み合わせたパッケージ商品です。オフセットされるCO2も30,000km走行した際に排出される約7.5トンと、先程紹介した「マーチ コレット」に対して非常に豪華なパッケージです。

この二つの商品は、ターゲットとしている顧客層に大きな違いがあります。日産自動車が環境意識が高い主婦及び若者を想定して安価なコンパクトカーにカーボンオフセットを付帯させているのに対し、アウディジャパンは環境意識が高いことをステータスと考える高所得層を想定して高価なラグジュアリーカーに付帯させています。

いずれも、まだ商品は販売されたばかりですが、これらの商品の売れ行きは今後の自動車販売業界では環境関連商品を企画する上で、何かしらの示唆を与えるものとなるでしょう。

【カーボンオフセットから一歩踏み込んだカーボンフットプリント】

一方で、食品業界では上記、カーボンオフセット活動から一歩踏み込んだカーボンフットプリント活動の導入を検討しています。

その活動内容は、商品のライフサイクル(原材料の採掘から廃棄まで)でのCO2 排出量を公表するもので、文字通りCO2 排出量の「足跡」を表示します。先日、行なわれた洞爺湖サミットでもサッポロビールが「黒ラベル」でカーボンフットプリントを試験的に表示しています。(ちなみに、350mml 缶でCO2排出量は161gとのことです。)

表示する排出量に排出権を購入しオフセットしている分を含めるか、また、まだ科学的に完全に把握できていないメタンガスの温暖化効果の扱い(CO2 への換算レート)等々、CO2 排出量の算出方法についてはまだ議論がなされている最中であります。しかし、商品を購入する、またはサービスを受ける際に、我々消費者が気がつかない間に排出している C02を定量的に意識させるという点は、非常に有意義な活動であると言えます。

また、企業にとっても、現在、CSRの一環として義務付けられているCO2排出量削減の努力を、商品そのものの魅力や価値として消費者に提供できるようになるため、本活動は、CO2 排出量削減活動の活性化に大きく寄与するのではと言われております。

【今後の自動車とカーボンオフセット】

カーボンオフセット活動を通じて、温暖化ガスの排出が実質ゼロになった状態をカーボンニュートラル、温暖化ガスをより多く相殺した場合をカーボンマイナスといいます。

製造する過程はもちろんのこと、「使用」する過程でもCO2 を排出する現在の自動車は製品のライフサイクル全体で見た時、カーボンマイナスはもちろんのことカーボンニュートラルにも程遠い製品であると言えるでしょう。

まず、「使用」の過程でカーボンニュートラルを実現するためにも、大規模なイノベーションに基く化石燃料を使わない動力技術の開発が必要であり、さらにその上のカーボンマイナスを実現するためには、走る事で空気を綺麗にする夢のようなクルマが求められるでしょう。

筆者としては、「走れば走るほど、空気を綺麗にするクルマ」の出現に胸を膨らまし、自動車に乗ること自体がカーボンオフセット活動となる日がくる事を期待したいと思います。

<尾関 麦彦>