麦のエコ路地散策(8)  『省エネ法』

昨今、新聞、雑誌、TV等で見かける環境用語を取り上げ、自動車業界との関係を探っていくコラムです。

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第8回 『省エネ法』

皆様、省エネ法についてはご存知ですか。ビルや工場といった施設のエネルギー使用の合理化をはかり、国内の燃料資源の有効な利用の確保を目的とするものです。

この省エネ法ですが、中長期的に温室効果ガスの排出量削減が叫ばれるなか、来年 4月より改正され適用対象が拡大する予定です。

今回は、この省エネ法についてご紹介したいと思います。

【工場・施設のエネルギー管理を促す省エネ法】

省エネ法は石油危機を契機に、燃料資源の有効な利用を確保し、国民経済の健全な発展に寄与する事を目的として 1979年に制定されました。

具体的には燃料・熱・ガス・電気などのエネルギーを一定規模以上使用する工場・施設は、その年間のエネルギー使用量(原油換算値)を工場・施設ごとに国へ届け出て、エネルギー管理指定工場(施設)の指定を受けなければなりません。1年間のエネルギー使用量が 3,000kl 以上であれば第一種エネルギー管理指定工場(施設)、 1,500kl 以上であれば第二種エネルギー管理指定工場(施設)として指定を受けます。

指定を受けた工場・施設はエネルギー管理者やエネルギー管理員を選任した上で、エネルギーの使用状況等の定期報告書や中長期計画書の提出を行うほか、設備ごとのきめ細かな現場でのエネルギー管理を工場・施設単位で行う事が求められ、違反した場合は罰則が課されます。

※年間エネルギー使用量が 1,500kl 以上となる施設の目安

小売店舗 約 3 万 m2 以上
オフィス・事務所 約 600 万 kWh/年 以上
ホテル 客室数 300~ 400 規模以上
病院 病床数 500~ 600 規模以上

平成 21年 3月末の時点で、第一種エネルギー管理指定工場(施設)は全国で7,820 拠点、第二種エネルギー管理指定工場(施設)は全国で 6,883 拠点ありますので、合わせて 15,000 拠点弱で上記のエネルギー管理が義務付けられている事になります。

【管理対象施設が広がり年々厳しくなる省エネ法】

上述しましたが、この省エネ法が今春に改正され、内容がこれまで以上に厳しくなります。

これまでは、ある一定規模の大規模な工場・施設のみが適用対象となっていましたが、改正により工場・施設の上位概念である事業者単位でも適用が検討され、管理が義務付けられることになりました。

要するに、今まで対象にならなかった 500kl 程度のエネルギー使用量の小さな施設であっても、同一の事業者が当該施設を 3 施設以上持つ事で、事業者として年間エネルギー使用量が 1,500kl を超える事になり、各施設がエネルギー管理の対象となるというものです。

これは、一定の要件を満たすフランチャイズチェーンについても、チェーン全体を一体として捉え、本部事業者に対し同様の管理を求める内容になっています。

※フランチャイズチェーンでエネルギー使用量が 1,500kl 以上となる目安。

コンビニエンスストア 30~ 40 店舗以上
ファーストフード 25 店舗以上
ファミリーレストラン 15 店舗以上
フィットネスクラブ 8 店舗以上

この背景には、近年の業務・家庭といった民生部門によるエネルギー使用量の大幅な増加があります。本規制の強化によりサービス業界における省エネ製品の採用の促進と、太陽光や風力といったクリーンエネルギーの取り組みが進むのではと期待されています。(太陽光や風力といったクリーンエネルギーは省エネ法のエネルギー使用量から免除されます。)

【施設のエネルギー管理とモビリティ】

ここで、年々厳しくなる施設のエネルギー管理とモビリティの関連性について考えてみます。

自動車業界ではこの施設に対するエネルギー管理という規制とは別に、燃費規制という形で省エネが促進されてきました。現に省エネ法では公道を走る自動車や輸送機は、事業所や工場の外で使われるエネルギーという扱いになり対象外になっています。(フォークリフトのように私有地内を走るモビリティは対象内になります。)

しかし電気自動車やプラグインハイブリッド等、原動力となるエネルギーとして電気を使うモビリティの出現により、モビリティが施設のエネルギー管理と密接に関係してくる可能性があります。

具体的には電気自動車やプラグインハイブリッドの充電です。
今までのガソリンや軽油で動く内燃機関自動車であれば、通常の施設で燃料を供給する事はなかったので、施設のエネルギー管理とは明確に分けることが出来ましたが、電動化により動力エネルギーを施設のコンセントから自由にとれるようになった事で、明確に区別する事が困難になる事が想定されます。

仮に、ある施設で三菱自動車の iMiEV (電池容量:16kwh)を満タンまで毎日 10台充電した場合、その施設の年間エネルギー消費量は約 15kl 増加する事になります。これだけ見ると誤差の範囲に見えますが、コンビニエンスストア一店舗の年間エネルギー消費量は 40kl~ 50kl 程度であるので、実に 3 割近く増加する事になります。

実際にそのレベルまで電気自動車やプラグインハイブリッドが普及するのは少し先の話になると思いますが、将来的には電気自動車やプラグインハイブリッドが各施設に及ぼす影響は無視できないものになるでしょう。

それに伴い、施設側としてはモビリティへの充電に用いた電力量を明確に把握するための充電器(コンセント)の設置、等の対応が必要になってくるものと考えられます。

また、ビークルトゥグリッドの世界が実現した場合には、モビリティと施設間で更なる電力の融通が行われる事になります。

※ビークルトゥグリッドについては筆者の過去コラムをご参照下さい。↓
麦のエコ路地散策(6)  『ビークルトゥグリッド(V2G)』

その場合、施設がモビリティから買い取るエネルギーの中で、クリーン発電により生成された電力は省エネ法の対象外となり、施設のエネルギー管理において価値を持つ事になりますので、高価でやりとりされる世界が来るかもしれません。

加えて、やり取りされている電力がどのように生成されたかを示す血統書をどのような形でネットワークするかも今後の大きな課題と言えるでしょう。

【モビリティが電力を動力とする意味】

モビリティがエネルギー生成機関であったエンジンを降ろし、電力を動力とすることは、社会全体のエネルギーにおける電力の位置づけ、比重を高める事に繋がります。それにより電力を生み出す過程、電力をやり取りする過程に対する管理や規制がより厳密になることも想定されます。

さらに現在は工場・施設等は省エネ法、自動車は燃費制という異なる規制が用いられていますが、別々に管理、規制することの是非が問われてくるようになるかもしれません。
また、自動車は電力を蓄えながら移動するという意味で、電力会社が持つ送電線以外で唯一、大きな電力を送電できるツールでもあります。

今後、自動車業界は電力というエネルギーの効率的利用の観点からも、より一層の他産業とのオープンイノベーションを進める事が求められており、業界全体での取り組みが低炭素社会実現への近道となるのでないでしょうか。

<尾関 麦彦>