麦のエコ路地散策(最終回)  『電気自動車が実現するモビリティとしての省エネ』

昨今、新聞、雑誌、TV等で見かける環境用語を取り上げ、自動車業界との関係を探っていくコラムです。

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最終回 『電気自動車が実現するモビリティとしての省エネ』

今回でこのコラムも 10 回目となりました。多くの読者の皆様に支えて頂き、筆者も一つ一つ勉強しながら執筆してまいりましたが、今回で最終回となります。連載中に貴重なご意見、温かいお言葉等、多数頂きましたことをこの場を借りて御礼申し上げます。

最終回の今回は、筆者が個人的に将来のモビリティを代表するものとして大きく期待を持っている電気自動車について、そのエネルギー効率の素晴らしさ、つまりいかに省エネ製品なのかを筆者なりに紹介したく考えております。

【電気自動車の省エネを実現するモーター】

読者の皆様もご存知の通り、電気自動車と従来の自動車とで構造が大きく異なるのは、キーコンポーネンツとして高性能モーターと大型二次電池が利用されている点です。その中で、大型二次電池は、よくその性能や開発動向が注目されていますが、実はこの高性能モーターこそ、電気自動車の省エネを実現する最も重要な部品なのです。

では、具体的にそれぞれの部品を機能的な観点から既存のガソリン自動車と比較してみると少し分かりわかりやすくなります。高性能モーターがエンジンであり、大型二次電池がガソリンタンクという事になります。

ここで読者の皆様の中には、「なんだ、あれだけ騒がれているリチウムイオン二次電池はガソリンタンクの代替か、それならエンジンの代替に当るモーターももう少し注目されるべきでは?」、そう思われた方もいるのではないでしょうか。

厳密には動力源となるエネルギーの形が異なりますので一概には言えませんし、モーターは古くからある技術なのに対して、電気自動車に使われるような高容量、高出力の大型二次電池は近年生まれたばかりであり、その点から注目が集まっても仕方ないのかもしれません。

しかし、冒頭でも紹介したとおり、このモーターが持つ電気エネルギーを運動エネルギーに変換する際のエネルギー変換効率こそが、電気自動車の持つ「環境に優しい」という特徴を証明できる真の理由であり、大型二次電池はそのモーターを動力とするモビリティを世の中に出すために開発されたとも言うべき技術なのです。

大型二次電池の発展により、モーターで動くモビリティの市場投入が可能となったわけですが、では実際にそのモーターで動く電気自動車というモビリティが、どれだけ従来のガソリン車に比べて省エネであるかについて見ていきたいと思います。

【カロリーで表す電気自動車の省エネ率】

モーターがエンジンに変わり、電気というエネルギーを自動車の動力に変える事で、どれだけモビリティとしてのエネルギー効率が向上しているのでしょうか。先日、ある説明会に参加した際に自動車が走行に必要とするエネルギーをカロリーで表すというおもしろい例えがありましたので、ご紹介したいと思います。

エネルギー換算の前提は以下の通りです。

電力:1kwh=860kcal
ガソリン:1L=34.6MJ (メガジュール 熱エネルギー)、1MJ=239kcal

上記換算式をもとに先日販売予約が始まった日産自動車の「リーフ」と、同クラスの車種としてティーダのエネルギー使用量を計算してみました。なお、日産自動車の「リーフ」及び「ティーダ」の燃費は以下の通りに設定しました。

リーフ:6.7km/kwh(=160km/24kwh)
ティーダ:20km/L

上記の条件をもとに両車が1km 走行するのに必要なカロリーを次の通り計算してみると、以下の通りとなりました。

★電気自動車「リーフ」
1km当りの消費電力:1/6.7=0.149kwh
1km当りの消費カロリー:0.149×860=128.35kcal

★ガソリン自動車「ティーダ」
1km当りの消費燃料:1/20=0.05L
1km当りの消費熱量:0.05×34.6MJ=1.73MJ
1km当りの消費カロリー:1.73×239=413.47kcal

つまり、上記計算から 1km 走行するのに必要なカロリーはガソリン車のティーダが 413 kcal、それに対して電気自動車のリーフが 128kcal であり、いかに電気自動車のモーターのエネルギー変換効率が高いかがわかります。

このカロリーをオニギリに置き換えると、コンビニエンスストアの梅おにぎりのカロリーが約140kcalですから、電気自動車はオニギリ一個で実に1kmも走る事になります。また、この 129kcalという数値は成人男性がおよそ2,000 歩歩くのに消費するエネルギーであり、このエネルギーで自動車という鉄の塊を1km動かすと言うのだから、その省エネ度合いが分かってもらえると思います。

また、同様の計算で日産リーフはカツカレー20杯分のカロリーで充電容量が満タンとなり、160km ものドライブを楽しめます。(カツカレー一杯のカロリーは約1,000kcalです。)

上記の通り、モーターを動力源とする電気自動車がガソリン自動車に対して非常にエネルギー変換効率が高く、省エネ性の高いモビリティである事を理解いただけたと思います。

【社会全体を見た時のエネルギー使用効率(Wheel to Wheel)】

ただ注意が必要なのは、モビリティ単体の枠を超えてエネルギー社会全体から見た場合、両者のエネルギー効率は異なってきます。

つまり、電気自動車に供給される電力も発電所等で化石燃料から発電されて供給される所謂二次エネルギーであり、発電時や送電時に生じるエネルギーロスから、電気自動車に充電される時点で既にエネルギー使用効率が下がっているというものです。

そこで、経産省が施行している省エネ法にて、日本国内にて供給された電力のエネルギー換算率が以下の通り定められていましたので、以下の数字をもとに同様の計算を行ってみました。

二次エネルギーとしての電力: 1kwh=9.28MJ (夜間電力)、1MJ=239kcal

★電気自動車「リーフ」
1km当りの消費電力:1/6.7=0.149kwh
1km当りの消費熱量:0.149×9.28MJ=1.38MJ
1km当りの消費カロリー:1.38×239=330.47kcal

計算の結果、この場合でも1km走行するのに必要なカロリーは330kcalであり、ガソリン車の消費カロリー(413kcal) に対して 2割近く低く、社会全体から見てもエネルギー使用効率が高いモビリティであることがわかります。

少なくとも、今後は電力の中でも1 次エネルギーと分類される原子力を含めた太陽光や風力といったクリーンエネルギー発電の比率が増えていくことが予想されるので、1km当りの消費カロリーはより129kcalに近づくと思われます。

【省エネモビリティとしての発展】

将来的に再生可能エネルギーが発展し、全ての電力が再生可能エネルギーにより賄えるようになったとしても、エネルギーは生活していく全ての機器に共通に配分されるものであり、そのエネルギーの配分を受ける製品の立場からは、できるだけその使用量を減らしていく義務があります。

そういう意味でも、現在は電気自動車というだけで「環境に良い」と言われがちですが、今後は電気自動車が引き続き社会に対する価値貢献を高めていく為に、軽量化やモーターの高性能化を通じたより一層の省エネ化が求められてくるでしょう。もしかすると 10年後はその電費(km/kw)又は、その消費カロリー(km/kcal) で電気自動車の価値が決まる世界になっているのかもしれません。

ただ今回、電気自動車のカロリー計算をしてみて、人間の2,000 歩の消費エネルギーで1km 走れる自動車が生まれてきた事実に感動するとともに、この素晴らしいモビリティを開発した人類に尊敬の念を持たずにはいられません。

環境問題、資源枯渇問題から生まれたこのエコロジーという概念。ここからまた新しい人類の発明が生まれる事を願って、本コラムの締めくくりとしたいと思います。ご愛読有難う御座いました

<尾関 麦彦>