マーケティングにおける顧客志向型情報発信

(佐世保観光情報をGSから発信へ、ドライバーにバーガーマップ配布)

長崎県佐世保市の全ガソリンスタンドで「佐世保バーガー」のマップを配布へ。37 社で組織する佐世保 SS 委員会が発案。20 万枚を配布。

<2005年7月14日号掲載記事>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

長崎県佐世保市の全ガソリンスタンドが 16日から同市内の佐世保バーガー店の所在地を記した特製の地図を配布する。原油価格高騰の影響を受けて各社がしのぎを削る中、系列店の枠を超えてガソンリンスタンドを観光情報の発信拠点にする試みであり、石油業界が地域で一体となって取り組むキャンペーンで全国的にも珍しい事という。

同市内のガソリンスタンド業者 37 社で組織する佐世保 SS 委員会が、車で佐世保バーガーを食べに訪れる観光客が年間 65 万人もいることに着目。近県からの観光客も佐世保で給油するようにと発案したものである。マップには事業に参画する 64 のガソリンスタンド、市内のデザート店等の情報、クーポン券等を掲載し、今後は行楽シーズンや年末年始に合わせて更新して配布する予定とのこと。

本件はガソリンスタンドと飲食という異業種の情報を「地域」の切り口で発信することにより、効率良く潜在顧客の獲得を狙ったものである。

今日は IT の発達で個人が欲しい情報を自由に取りに行くことが出来る。しかし、一方では情報を発信している側が「待ち」の姿勢となることも多く、購買や利用を活性化させる為には、如何にして情報を潜在顧客に到達させることが出来るか、その機会を能動的に提供することが重要となってくる。本コラムではいくつかの事例を挙げて考察したい。

【ガイドブックの歴史】

美味しいレストランや優良なホテルを紹介するガイド本の元祖といえば、三ツ星によるレーティングで世界的に有名な旅行案内書「ミシュラン・ガイド」である。

本書は 1900年、フランスのタイヤメーカーである「ミシュラン」が 自動車普及を目的に道路や宿泊施設、レストラン等の情報を記載した情報本を運転手に配布するために創刊したのが始まりである。

雑誌社ではないタイヤメーカーが何の為にわざわざそのようなことをするのかと疑問に思うが、実は顧客サービスというのは表向きで車による旅行を促し、タイヤを早くすり減らすことで販売拡大を狙ったものともいわれている。

当時、配布されたガイドの表紙の色が赤だったため赤本と呼ばれ、主に各地のホテルやレストランを予算に応じてランク分けをし、ポテンシャリティーを評価している。また、1926年に発刊した表紙が緑色の緑本は地域の歴史、美術、建築、ドライブコース等の名所案内を編集している。

当時のミシュランが本気でタイヤを売る為にガイドブックを作成したのかは定かでないが、1 世紀ものあいだ継続し定番化しているガイドブックのおかげでタイヤメーカーとしてだけでなく、車に関係が薄い人でも名前を知っていることは企業にとってアドバンテージとなる。

ミシュランのフィロソフィーは、「モビリティと旅行の改善にあらゆる点から貢献することであり、自社で生産するタイヤを通じてばかりでなく、ガイドブックや各種の地図の発行でも実現していきます。」というものであり、タイヤ販売後のセグメントへのアプローチを重要視している。

尚、遂に「日本」を紹介したガイドブックを 2007年 2月発行に向けて準備中とのニュースがあったので期待したが、初版は日本を観光するフランス人を対象にフランス国内で販売するとの事であり、日本での普及はまだ先の事になるようである。

【情報を能動的に発信するアプローチ】

上述のミシュランはタイヤメーカーがタイヤ市場のセグメントに接する顧客に対しより多くのサービスを提供することで、顧客との信頼関係を向上させている事例であり、企業の広告宣伝活動として大成功であるといえよう。

最近の別事例として、この 7月 7日に(株)リクルートから地域情報に特化したクルマ情報紙「カースマイル」が創刊となった。本紙の特徴は従来とは異なる編集で情報を発信していることである。

1.地域密着型(消費者のクルマ購入距離を考慮し、都市圏を 12 版に分割)
2.新車と中古車を比較検討できる
3.フリーペーパー

従来、個人が新しくクルマを購入したい場合は、新車、中古と分かれたセグメントの情報を雑誌・ Web ・ディーラー等で収集し、その中から自分の欲求に合ったクルマ選びをするといった、情報を纏めていく作業が必要であった。しかし、現在は「自分のライフスタイルに活用する為のクルマ選び」といった観点で選択することが主流となりつつあり、そのニーズに対応するものである。

クルマの買い替え需要は 4~ 5年サイクルとなっており、いざ購入しようと思ってもマーケット事情が分からない人が多く、専門的な知識を有している(クルマ好きな)方はクルマ選びを楽しむことが出来るが、そうでない方には一苦労であり、買い替えを遅らせてしまう要因となっている可能性が高い。

そこで「カースマイル」はクルマ選びに関し、「地域」を切り口にした情報提供をすることで従来の分散した情報を顧客視点で編集しており、地域ディーラーによる店舗紹介&新車紹介は新しい切り口の情報発信といえる。また本紙は気軽に手に取ることができる生活導線上(コンビニ、駅、レストラン等)に配置され、身近な情報として買い替え需要の喚起とサイクル短縮化を目指している。

更に紙面にはクルマ購入ガイド(購入資金の調達方法、車両登録等の法規上の手続き、車種別の活用術、新車&中古車選びの方法)のお得な情報を合わせて掲載し、買い替えの垣根を低くしている。

【成長戦略と新たな顧客獲得の為の情報活用】

ガイドとは水先案内人のようなものであり、受け手に取って非常に役立つことが原点であるが、一方で発信者(作成者)のマーケティングを探る意図によって作成されているのも事実である。

マーケティングにおいて企業が取り得る成長戦略には以下の 4 つがある。

1.隣接するセグメントに進出する。
2.セグメントを更に細分化する。
3.新たなセグメントに進出する。
4.市場全体を細分化し直す。

※「コトラーのマーケティング・コンセプト」東洋経済新報社より

上述で紹介している 3 事例は、上記 の 1.~ 4.を上手くミックスして新たな顧客へアプローチし、市場活性化による販売増を目指しているものといえる。

自動車業界という一見、成熟産業と思われる業界においても上記 4 つの視点から業界全体、一つの製品、一つのサービスを見直してみることが今後の成長を支える一歩と成り得るものであろう。

最後になるが、佐世保バーガーについて説明する。佐世保はハンバーガー発祥の地であり、1951年アメリカ海軍から教わったものとされている。特徴は通常の倍以上の大きさで、厳選素材を一つ一つ使った手作りというのがベースとなる。地元では“呑んだ後のシメにはラーメンでなく、バーガー”と言われてるというが事実であろうか。尚、東京では中野のザッツ・バーガー・カフェで1個 683 円で賞味できるとのことであるが、筆者は普通に(呑む前に)食べに行きたいと考えている。

<大谷 信貴>