販売も自由化する自動車保険

◆カカクコムインシュアランスが来店型保険総合ショップを 5月 29日に開店

JR 新橋駅前に「価格.COM 無料相談窓口」、ブースを 10 程度用意する

<2006年 5月 29日号掲載記事>

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インターネット上で価格比較サイト「価格.com 」を運営する(株)カカクコムは、100% 子会社の(株)カクコム・インシュアランスを通じ、来店型の保険総合ショップを JR 新橋駅近くに開設する。サイト同様に生命、損害保険会社 25 社の保険商品を幅広く取扱うとのことである。

【価格.com とは】

価格.com とは、1997年に開設された、あらゆる商品の比較情報を消費者に提供する会員登録無料のインターネット比較検索サイトである。実際に商品を使用した人の口コミ情報を重要視し、ユーザー視点の情報を提供することで多くの支持を獲得している。

現在、月間利用者数は 795 万人に上り、価格比較サービスは 12分野(パソコン、家電製品、ペット、自動車など)、料金比較サービスは 11分野(自動車保険、生命保険、資格学校、証券会社、葬儀など)と多岐に亘っている。他にもホテル予約情報、飲食情報、選挙時には各党のマニュフェストの比較まで提供している。

同サイトを運営する(株)カカクコムは 2003年 10月に東証マザーズ上場、2005年 3月には東証 1 部上場と急成長を果たし、2005年 3月期の連結決算で売上高 21 億 4,000 万円、純利益 4 億 8,000 万円を計上している。

【自動車保険の流れと価格.comの位置付け】

自動車保険は 1998年に完全自由化した。それ以前の保険料率は自動車保険料率算定協会が算出したものを保険会社が使用することを法律で義務付けていたが、同年に廃止されたことを受け、外資系損害保険会社の新規参入が活発化した。

外資系損害保険会社が、従来に比べ格安な自動車保険を消費者に直接提供可能とした仕組みについては、大きく分けて以下の 4 つになるだろう。

(1)消費者への直接販売による中抜きの実現
従来、保険商品は保険代理店が販売するため、通常 15% 前後の手数料が発生していたが、通信販売やインターネットで販売するため代理店手数料が掛からなくなった。

(2)社員数の削減
通信販売やインターネット販売で消費者にダイレクト販売するため、少ない社員数での運営が可能となり、固定費の削減が可能となった。

(3)事故後処理費用の軽減化
事故車の損害確認作業を既存の保険会社が起用する企業へアウトソーシングすることで、自社で専任スタッフ抱える必要が無くなった

(4)個々のリスクに見合う料金設定の提供
加入者の使用目的や年間走行距離、免許の色、使用する車の安全装備等の項目によってリスクを細分化し、個々のリスクに見合った保険料率の設定が可能となった。

しかし、リスク細分化の方法が損保会社によって異なること、また、インターネットの普及により消費者が複数の商品情報を簡単に入手できるようになったことから、消費者は実際に見積りを取らないと比較が難しいものになっていた。

そこで、ダイレクト保険の指南役として、価格.com などが提供するインターネット上の一括見積りサイトがその判断をしやすくする役割を果たしたのである。その他事業者としては、保険スクエア bang、インズウェブ、カービュー、イオン保険マーケットなどがある。

【自動車保険の現状】

2004年度の自動車保険の総市場規模は約 3 兆 5,000 億円であるが、その内、ダイレクト保険の主要 5 社(アメリカンホーム、チューリッヒ、アクサダイレクト、ソニー損保、三井ダイレクト)の市場占有率は 3.2% となっている。

一方、既存の業界プレイヤーである損害保険会社の大手 5 社(東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上、あいおい損保、日本興亜損保)の市場占有率は約 80% を占める。

つまり、自動車保険が完全自由化されたとはいえ、総市場から見ると損害保険業界は全国に既存保険代理店網を持つ従来の損害保険会社による寡占状態が続いているのである。
何故、価格が安いダイレクト保険が思うように伸びていないのだろうか。1 つの見方としては、実際に事故を起こした際の対応を心配している消費者が思いのほか多く存在しているというものがある。

例えば、ダイレクト販売で後発となるソニー損保の売上高は好調に伸びているが、保険料金は他のダイレクト保険と比較して特別安いわけでもない。しかし、ソニー保険の事故対応は、事故受付:24時間 365日体制、1 事故 1 担当制を取っており、サービス拠点数もダイレクト保険を取扱う損害保険会社で最も多い 16 拠点となっている。

【(株)カカクコムの施策】

(株)カカクコムは同社が提供する一括見積りサイトへのアクセスが順調なことから、(株)カカクコム・インシュアランスを 100% 出資で 2001年に設立し、ダイレクト保険の取扱いに加えて従来の大手損害保険会社との代理店契約を締結し、保険事業を拡大してきた。

また、自社が提供する一括見積りサイトでは知ることが出来ない定性的な情報(上記の如く、契約数の増加に影響を与えるであろう、事故後の処理対応や緊急時の受付の実態など)も含めた情報を提供することも可能とする、無料相談対応を 2005年 4月より電話、メール、郵送に加え開始した。毎月の相談数は増加し開始当初の 20 倍まで急伸した。

今回の施策はリアルな保険代理店窓口を設けるとともに、ユーザーの満足度を更に向上させるため、来店型の相談窓口を設けることにしたのではないだろうか。

つまり、(株)カカクコムは通信販売やインターネットに加え、直接消費者と対面できる窓口を持つことを求めたのであり、引続き相談者が増加するようなことになれば、店舗展開を拡大することも有り得るだろう。

【価格.com VS 自動車ディーラー】

現在、新規の自動車保険客を取り込む保険代理店で大きな勢力を持つのは自動車ディーラーである。何故ならば、新車購入と同時に自動車保険を付保出来る優位性があるからである。一方、価格.com の来店型保険総合ショップの開設は、今後、ディーラーにとって競合となり得るかもしれない。バーチャルの代理店 vs リアルの代理店の構図とも取れることから、下記にて両者を比較してみたい。

●項目:
(1)業態 (2)取扱い保険社数 (3)消費者への対応方法 (4)メリット

●価格.com

(1)保険代理店
(2)25 社(ダイレクト保険+既存損害保険)、フレキシブルに増加
(3)一括見積りが可能、専門スタッフ(ファイナンシャルプランナー)が対応
(4)保険商品が多種多様、より詳しく知りたい場合は専門スタッフが電話及び訪問し、直接アドバイスする

●自動車ディーラー

(1)保険代理店
(2)複数の既存損害保険会社、契約会社の商品に限定
(3)セールスマンが対応
(4)自動車購入時と同時に契約が可能、対面でアドバイスが可能

【自動車ディーラーへの示唆】

現在ではダイレクト保険と既存損保の両者の商品を取扱っている価格.com と比べ、自動車ディーラーは商品の多様性に欠けるため、自社が取扱う保険商品を売る為には、より説明能力を高めることが重要ではないだろうか。

例えば、家電ショップでは、より豊富な商品知識を持つ店員は消費者目線で商品を説明し、顧客の信用を勝ち取り、セールスを上げることが出来る。商品が多様化し、販売窓口が多岐に及ぶ自動車保険も同じことが言えるであろう。

数年後には銀行も自動車保険を取扱う予定があり、今後ますます競争が激化する見通しである。自動車ディーラーも価格.com がリアルな販売代理店に進出したように、ダイレクト保険を取扱う逆進出等の対抗策も考えられるだろう。

<大谷 信貴>