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コラム

戦略から考えるデザイン (1)  『トヨタ ヴォクシー / ノアがフルモデルチェンジ』

自動車業界におけるデザイン分野の戦略的マネジメントのあり方について探求していくコーナーです。

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第1回 『トヨタ ヴォクシー / ノアがフルモデルチェンジ』

【ノア・ヴォクシー トヨタの商品企画】

トヨタのノア、ヴォクシーがフルモデルチェンジし、6月 27日より全国のネッツ店及びトヨタカローラ店で販売を開始した。

国内の新車需要が伸び悩み、新車効果の短期化が業界全体の頭痛の種になっている中、2001年 11月に発売された両モデルは大成功を収めてきた。以下は両モデルの平均月間販売台数の年次推移だが、発売から 6年間経っても販売台数が大きく崩れておらず、特にヴォクシーの場合は殆どブレがなく、フルモデルチェンジ直前の今年の月販台数が昨年のそれを上回るという驚くべき結果を残している。

.                  ヴォクシー   ノア
・2002年    6,500    8,090
・2003年    4,700    7,230
・2004年    5,240    6,430
・2005年    6,080    6,070
・2006年    5,300    4,520
・2007年    5,550    4,080

※2007年は1~5月の平均台数

出所:自販連・乗用車販台数データ

ノア、ヴォクシーの成功の要因は、ターゲットカスタマーを明確に絞り込み、ターゲットカスタマーのライフスタイルや使用シーンを想像しながら彼らがクルマに対してどのようなモノ・コトを期待するかを構想した商品企画の精緻さと、企画を製品開発戦略やチャネル戦略に落とし込む際のムリ・ムダ・ムラのなさにあると思われ、日頃弊社が唱えている企画品質の高さが勝因と考えられる。

初代のノア・ヴォクシーの商品企画ではおそらく次のようなターゲットカスタマーを想定したことであろう。

・小学生未満の子供を持ち、経済的にはそれほど裕福ではなくても頻繁に家族揃って遠出をすることを楽しみにするような若いファミリーで、クルマは快適な移動空間であることが最も重要

・従って、そのニーズは、運転者の負荷が少ない操作性、遊び代や生活費を犠牲にしない価格設定や燃費性能、出来るだけ多くの人が乗れる空間(横幅よりも 3 列シートが配置できる長さと室内で動きやすい高さを重視)、出来るだけ荷物が多く詰める空間(多彩かつ簡便なシートアレンジなど)といった実用性(パッケージングやファンクション)に主眼が置かれる

・夫はライフサイクルの一時期はやむを得ないと購入決定権を妻に譲っているが、本当はスタイリングやパフォーマンスへの拘りを完全には放棄していない

従って、製品開発上は次のようなことが計画に織り込まれたに違いない。

・商用車とボディを共用していた 前任のタウンエースのパッケージング(1 ボックス、FR レイアウト)は捨てて、FF レイアウトのミニバンとし、乗用車ライクな操作性とする

・普遍的な駐車性を考えて全幅は広げないが、室内長と室内高は安定性を損なわない範囲で極力大きく取る

・デザインは外観面(エクステリア・デザインやカラーリング)以上に実用性の高いインテリア・デザインを基本とするが、差別化を望むユーザのために外観を変えた 2 車種を設定し、カスタマイズ用品も準備する

・リーズナブルな価格設定を実現するために、出来る限り既存のパッケージやパフォーマンスに関する技術資産を流用するとともに、新しいレイアウトや燃費性能を実現するための投資の償却スピードを早めるためにも雰囲気を変えた 2 車種を用意する(チャネル間での競争効果で規模の経済を達成するため)

【フルモデルチェンジにおけるデザイン戦略】

初代ノア・ヴォクシーは正にこのような商品企画、製品開発戦略を忠実に再現したデザインであったと思う。

そのノア・ヴォクシーが 2 代目になった。2 代目の商品企画も大成功を収めた先代と基本的には同じはずで、とりわけ今回のフルモデルチェンジにおいては顧客のリテンションが重視されたものと考える。

通常、既存車種のフルモデルチェンジを実施する際には、大きく分けて 2 つの戦略がある。そのどちらを取るかによってデザインや基本性能の変更は決まってくる。

1 つは既存顧客のリテンションを戦略とすること。先代モデルが新型車の投資負担をペイできるだけの十分な顧客基盤を獲得している場合、当該顧客基盤を維持・継続することを優先することが理にかなう。

もう 1 つは新規顧客の獲得を戦略とすること。車種名やセグメントを踏襲しつつも、全く新しい商品に変更して従来モデルと決別するもの。先代モデルが十分な顧客基盤を獲得していない場合、先代モデルの顧客層以外により大きく、成長している市場がある場合、商品的に先代モデルの買い替えが期待できない場合に、この戦略が採用されることが多い。

今回のノア、ヴォクシーについては前者の戦略を取っていると思われる。

というのも、ミニバン(や SUV)には一種中毒性のようなものがある。一度、見晴らしがよく広々とした車内空間を体験してしまうとセダンに乗り換えたときに違和感があり、次もやはりミニバン・セグメントの中での選択になりやすい。

とりわけノア・ヴォクシーの場合は、先代が想定していた顧客層が小学生未満の子供を持つファミリーであったから、今回もまだ家族で一緒に連れ立って出かける子供がいる可能性が高く、リテンションの対象として考えやすい。

しかも、延べ 80 万台の顧客基盤を獲得している為、その顧客基盤だけを対象にしたビジネスでも十分に採算が取れる。ただし、前回と同じ顧客に買ってもらうわけだから、先代からの変化・向上を可視化しなければ買い替えてはもらえない。そこに今回のノア・ヴォクシーの商品企画上の最大の留意点があったと思われる。

この商品企画がデザイン戦略にもそのまま反映されている。

外観スタイリングやカラーリングは、一言で言ってキープコンセプトであり、目新しさは殆どない。先代レイアウトを踏襲したことに見られるとおり、パッケージングにも殆ど変化がない。

デザイン面での違いは、インテリアの意匠性と機能性に見られる。先代の商品企画コンセプトをより磨き上げたレイアウト、デザイン、設計になっている。

例えば、日常的には奥様が運転することを想定して、視認性を高めるためにベルトラインを下げ、リアビューはもちろんサイドビューも見通せるモニターも装着した。また、乗降性を高めるためには運転席シートやステップ高を下げ、チャイルドシートを装着したまま外側に回転可能且つロングスライド可能なシートを装備したり、子供用のアシストグリップをセンターピラーの低いところに装着したりしている。

2 列目シートのウォークスルーを可能にすることで広々感をいっそう高める一方で、スタイリングやパフォーマンスに拘るお父さんのためにシフトレバーをインパネに移動してアルミ調のセンタークラスターパネルを起したうえでせり、パドルシフトやオプティトロンメータの採用も行なった。

いずれも定番の地味な改良であり、もしかするとデザイナーにとっては活躍の場が少なく面白くない仕事のように思われるかもしれない。だが、「デザインは戦略に従う」というのがカーデザインのルールであって、戦略がリテンションのためのキープコンセプトなのであれば、デザインのフォーカスも定番改良型デザインになることは当然のことである。

携帯ミュージックプレイヤーなら iPod、サイクロン式掃除機ならダイソン、ワンセグ携帯なら AQUOS 携帯、カップ焼きそばならぺヤングなど、市場でリテンションに値するだけの顧客基盤を持つ商品には、一目でそれとわかって安心できるアイコン、機能性の改良にフォーカスした定番改良型デザインが求められている。今回のノア、ヴォクシーのデザインも例外ではなく、戦略に従ったデザインの典型だということができる。

【デザイナーの仕事】

上記に述べてきた通り、デザイナーの仕事は戦略を形や色にすることであって、戦略から離れて創造的なだけの絵を描くことではない。デザイナーは、商品の企画開発コンセプトを咀嚼し、運動性能や安全性、法規制、素材特性、部品間の干渉可能性、生産要件、整備性など様々な制約条件の下で、戦略を形や色に変えて顧客に伝えることを使命とする。
具体的には、商品の企画開発から関与し、デザインワークと並行しながら製品設計についてエンジニアとの折衝も行い、経営陣に対するプレゼンテーションも自ら行う。そのためにはデザイン以外の知識、ノウハウ、スキルが必要となってくる。

右脳で働くイメージが強いデザイナーとは全く異なる役割やスキルが求められているのが実態である。

また一言でデザインと言っても、エクステリアだけでなく、インテリアやボタンの形状、取り付け位置、色なども全てデザイナーから生み出されている。その意味では、今回のノア、ヴォクシーのフルモデルチェンジでも相当な労力がデザイナーに課せられたに違いないと思うのである。

実は多くのデザイナーが実用性のないデザインは決して売れないとの意見で一致しているし、経営者からしても同じ意見が多い。

例えば、デザイン家具ブームの火付け役となったイームズに代表されるミッドセンチュリーのデザインに影響を多く与えたとされる北欧デザインは 1930年代にデザインされたものであり、70年以上経った今でも高い評価を得ている。

なぜ評価が高いのかということだが、北欧デザインにはデザイナーが未来の生活を想像して、こんなものがあれば良いな、とか必要だろうな、というビジョンに基づいて作られているからと言われている。つまりそこには生活という実用性と未来という想像が融合したデザインが成立しているといえる。

クルマが 70年も使用され続けるというのは無理があるが、最近の自工会の車種別平均車齢データによると’06年 3月末現在の乗用車の平均車齢は 6.9 年となっており過去 10年間に亘り毎年伸び続けている。平均車齢とは現在使われている自動車の初度登録からの経過年数の平均値を表すものである。

クルマでも家具でも同じであるが、長く使われるためにはスタイリッシュであるという要因以外に、使い易いという実用性が備わっていなければならないことは共通している。

【デザインの本質】

デザイン(Design) の語源はラテン語の Designare で、その意味は「行為に先立って、その目的や方法を考えること」であり、つまりは何をどうやって実現するか考える行為ということである。

デザイナーは決して闇雲にデザインを描いている訳ではなく、ロジカルに目的と実現方法を考え、それをデザインに落とし込み可視化しているのである。

先述した通り、最近では可視化に留まらず具現化させるところまで役割の範疇が拡大しているようだが、それは必然かもしれない。何故ならば、生み出す商品のことを真剣に考え抜いたその想いは誰にも負けないのがデザイナーだからである。

つまり、デザイナーもエンジニアと同様にモノづくりのプロセスに関わる組織人なのである。そうであれば開発・生産部門に関して、組織・人事・プロセスが戦略テーマとなり、品質・生産性・収益性のロジックやマネジメントが追求されているのと同様に、デザイン部門に関しても戦略的なマネジメントが求められるはずである。にも関わらず、デザイン・マネジメントについて書かれた文献や情報は意外に少ないように思う。

本コラムでは、そのように一見、ブラックボックス的に思える デザイン分野の戦略的なマネジメントのあり方を組織、人事、プロセス等の面から自分なりに紐解いていきたいと考えている。

<大谷 信貴>

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