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コラム

戦略から考えるデザイン (4) 『目的に則したデザイン組織の構築』

自動車業界におけるデザイン分野の戦略的マネジメントのあり方について探求していくコーナーです。

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第 4 回 『目的に則したデザイン組織の構築』

【自動車の魅力度】

JD パワーが実施する米国の自動車商品魅力度調査(APEAL)では、新車購入の 90日後にデザイン、性能、装備、仕様等の満足度をユーザーが評価し、その評価ポイントをランキングで発表する。

この調査結果によると評価 1000 ポイント満点中、800 ポイント未満の自動車メーカーの車両を購入した人は平均で約 2000 ドルの値引を受けているが、800ポイント以上の自動車メーカーの車両を購入した人の値引額は平均で 10% 低い1800 ドルとのことである。
デザインに代表される商品魅力度の高い商品は大幅な値引をせずとも販売できるため高い収益性を保つことができるが、そうでない商品は大幅な値引をすることになり収益性を低下させる。だから、自動車メーカーは戦略的にデザインに投資すべきだというのがこの調査結果から読み取れる示唆である。

だが、この調査で上位にランクされたのは、1 位ポルシェ、2 位 BMW、3 位メルセデス・ベンツ、4 位以降ジャガー、レクサス、アウディの順で、上位は高級車ブランドに占められている。

このことは、商品のデザインが評価されたものというよりは、人気ブランドの商品を手にした顧客の満足度が高い(所有欲を満たした)ということに過ぎず、デザインを議論するための材料としては必ずしも適切とはいえないかもしれない。

そこで、自動車メーカーの事例に囚われず、戦略的にデザインを位置付けていると考えられる異業種の事例を用いて、自動車メーカーにおけるデザインのあり方を考察していきたいと考える。

【デザイナーを組織のトップに置くファッション業界】

まず、デザインを最も重視していると考えられるファッション業界の事例を以下にて考察する。

エルメス、ルイ・ヴィトン、シャネルなど高級ブランドから、カルバン・クライン、H&M など中級、大衆ブランドまでファッション業界の商品開発においては、基本的にデザイナーがプロジェクトリーダーである。

日本の自動車業界では主査制度の下、1 人のエンジニアが開発プロジェクトのリーダーとなり、各関係部署と連携し新車開発を進めるが、ファッション業界では、デザイナーがいわば主査となって商品開発を進めるのである。

この場合、主査であるデザイナーは必ずしもインハウスの人間(社員)ではなく、有期契約を外部の人間であることが寧ろ多い。
グッチのトム・フォード、ディオールのジョン・ガリアーノ、H&M のステラ・マッカートニーなどみな外部のデザイナーである。

だが、プロジェクトのトップに立つデザイナーが社内の人間であろうと社外の人間であろうと、彼に与えられる権限と責任は自動車メーカーの主査の比ではない。

自動車メーカーの主査(通常は部長クラス)にも社長と同様の権限と責任が与えられるが、あくまで特定の商品開発の範囲と期間においてであり、通常は常設のライン(通常トップは役員クラス)の権限や責任を上回ることはない。これに対して、ファッション業界では当該デザイナーの任命期間中は常設組織の全てが彼の指示命令によって動くことになる。

その結果、デザイン主導の経営や商品開発、マーケティングが実現しているのである。デザインの影響力が絶大な業界だからこそこのような組織の設計、運用になっているわけで、業界特性や戦略の異なる自動車業界にそのまま持ち込むことは難しいかもしれない。

【デザインを組織的にマネジメントする家電業界】

そこで次に工業デザインの性格がより自動車に近い家電メーカーのデザイン組織運営を、ソニー、東芝、松下電器産業 3 社の事例をもって確認する。

<ソニー>

ソニーのデザイン部門の特徴はそれが各製品事業部に属しているところにある。これは、歴代社長がデザイン部門の役員を経験しているという同社の歴史や、デザインを経営の主軸に置くという同社の企業文化や戦略と大いに関係がある。

ソニーでは、デザイン部門が企画、開発、決定まで主導し、商品への関わり方が深い。商品を梱包するパッケージデザイン、店舗でのディスプレイデザインなど実際に消費者が体験するところまでがデザイン部門の業務スコープである。このようなことはデザイン部門が事業部内に深く入り込んでいなければ実現できない。

ただ、その反面、事業部別にデザイン組織が存在することから、全社的、製品横断的なデザインの統一性、一貫性を欠きかねないという潜在的な問題が生じる。そこで、同社では全社のデザイン部門を横串で通すクリエイティブセンターを設けてこの問題に対処するとともに、最近ではプロジェクトチームによる開発体制も取りつつあるという。

<東芝>

東芝と松下では、デザイン部門は事業部には属さず、全社横断組織となっている。このうち東芝は、デザイン部門を本社の戦略部門としてコストセンターに位置付けている。

事業部に従属しない立場からデザインを提案でき、また、同グループ内にある営業企画部門、マーケティング部門等と共にブランド、デザイン、広告を連動させ消費者への商品訴求力を高めることが出来るというメリットがある。

また、同グループは東芝本体の中長期戦略を立てる役割を担うことから、事業部の個別最適的なデザインではなく、全社戦略に則った全体最適的なデザインが可能になるという長所がある。生活シーン全体で統一感のあるデザイン、抱き合わせで買ってほしい商品群を貫くデザインが実現しやすくなる。

しかし、その反面、各事業部との距離があることから、ソニーのように商品に深く入り込むことが出来ず、商品の単位でパッケージから陳列棚まで一貫したデザインは作りにくいといったをがないデメリットがあるものと思われる。

<松下電器>

松下電器産業のデザイン組織は東芝型(全社横断デザイン)だが、デザイン部門を分社してプロフィットセンターとしているところに特徴がある。

元々同社のデザイン組織はソニー型(事業部別デザイン)だったが、 2002年に東芝型に変更した。目的は正にブランドアイデンティティーの統一である。その際にデザイン部門を集結させるだけでなく別会社化したのである。

デザイン部門の分社化により、デザイナーは各事業部に対して営業活動を行ない、事業部のニーズや意向を汲み上げ、期待される成果を出すプロフェッショナリズムを求められることになる。分社化の目的はそこにあり、デザイン品質の底上げを期待したものである。

しかしながら、この組織体制では全社横断的な全体最適的なデザインよりも顧客である事業部の意向に基づく個別最適なデザインが引き続き優先されるおそれがある。また、逆に長期的な商品開発や、収益性は薄くても戦略的に重要な商品開発であっても、短期的な収益性の観点からデザイン部門の協力が取り付けにくくなるという問題もあろう。

上記の通り、3 社のデザイン部門の組織のあり方は、各社の戦略の違いを物語っている。「組織は戦略に従う」という格言はデザイン組織にも当てはまるのである。

【自動車メーカーのデザイン組織の変化】

自動車メーカーのデザイン部門は開発部門に属していることが多かったが、90年代移行の組織改革で独立組織とする企業が増えた。だが、一度商品開発プロジェクトがスタートするや、そこではチーフエンジニアの傘下に入る体制はあまり変わっていない。

その中で特徴的な組織変革を行なったのが日産自動車である。1999年にスタートした日産リバイバルプランの中で、同社もデザイン本部を製品開発本部から独立させたが、同時に二つの変革を行なった。

第一に、デザイン本部のトップを部長格から役員格に引き上げ、経営に参画させた。

第二に、主査制を廃止して、デザイン、エンジニアリング、宣伝、商品企画の 4 人のチーフの合議制に変更した。

その結果、常設のラインにおいても非常設のプロジェクトにおいても、デザイン部門の発言権の確保、自己管理・自己責任の体制が明確になった。

現在の日産は販売面で思うような成果が得られていないため、こうしたデザイン組織改革があまり評価されていない(一般的に、販売結果が悪いときはデザインのせいにされことが多い)ようだが、筆者自身は画期的だと考える。経営を変革したいと思えば、意識を変えなければならず、意識変革に最も有効なのは組織と人事という目に見える改革だからである。

ほとんどの自動車メーカーが主査制度の下、 エンジニアをトップに据えて開発プロジェクトを推進しており、デザイン部門はその中での役割に留まっているなかで日産自動車のデザイン組織の設計と運用がどのような変革をもたらすのか、長い目で注目していきたい。

<大谷 信貴>

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