アフターマーケットの成功者たち(5)『アイケイコーポレー…』

国内製造業の屋台骨たる自動車産業。国内 11 社の自動車メーカーの動向は毎日紙面を賑わしている。

しかし、消費者にとって、より身近な存在であるはずの自動車流通業界のプレーヤーについては、あまり多く知られていないのも事実である。

群雄割拠の国内の自動車流通・サービス市場において活躍する会社・人物を、この業界に精通する第一人者として業界内外で知られる寺澤寧史が、知られざる事実とともに紹介する。

第 5 回は、日本唯一のバイク買取チェーンであるアイケイコーポレーションを紹介する。

第5回『アイケイコーポレーション』
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「日本の自動二輪車産業の市場規模と市場成長率は」と聞かれても、即答できる読者はそんなに多くないのではないだろうか。
2003年の自動二輪車の生産台数は 183 万台(前年比 86.5 %)、販売台数 76 万台 (前年比 98.6 %)、輸出台数 128 万台 (前年比 90.3 %)、保有台数 1,336 万台(前年比 98.7 %)と二輪メーカーの現地生産の加速や国内需要の減退も相まって、全ての指標でマイナスを記録している。

自動二輪車の新車販売店は、メーカー資本傘下の強力な販売力を保有しているディーラーや地場の有力企業が正規ディーラーとしてアポイントされている四輪店と比較すると、元々自転車販売店やサブディーラークラスの独立系販売店を中心として組織され、中小規模の事業者が殆どを占める構造となっている。

この中で中古バイク買い取りに専業特化して急成長を遂げている企業が、今回、登場いただく『アイケイコーポレーション』である。
アイケイコーポレーションの社名を聞いて、業態を言い当てられる読者の方は、かなりの業界通である。
バイク愛好者の中でもまだまだアイケイコーポレーションは意外と知られていないのではないか。

その規模を四輪車での買い取り専門店のナンバーワン企業として知られているガリバーインターナショナルと比較してみると以下の通りである。

ガリバー アイケイ
*総保有台数(万台) 7,306 1,336
買い取り台数(万台/年) 30 10
店舗数 500 31
一店当り買い取り台数(台/年) 600 3,225
*買い取りシェア(%) 0.4 0.7

*四輪車、二輪車の日本における総保有台数
*買い取り台数シェアは、買い取り台数÷総保有台数

確かにアイケイコーポレーションの買い取り台数規模は、ガリバーインターナショナルの 1/3、店舗数は 1/16 の事業規模ではあるものの、一店舗当りの買い取り台数では、5.4 倍とガリバーインターナショナルの買い取り効率を遥かに上回る日本初にして唯一の中古バイク買い取り専門チェーンである。そもそも中古バイクの買い取りは、これまでメーカー系販売店や新車販売店が、本業の新車販売の付帯業務として下取り、買い取りという形で行ったり、個人経営の買い取り業者が地域密着で事業を行うというものであった。

アイケイコーポレーションのように 、 中古バイク買い取りを全国展開している事業者は、レッドバロン(旧ヤマハオートセンター)がある。しかし、レッドバロンは二輪新車販売店(全国約 240 店舗)で新車販売をメイン業務に中古バイク買い取りは付帯業務としてユーザー保有のバイクを買い取っているのに対し、アイケイコーポレーションは、あくまでも中古バイクの買い取り専門に特化しているところに特徴がある。

アイケイコーポレーションの事業概要は以下の通りである。

(1)1998年 9月設立であり、加藤義博社長は 1971年生まれで 33 歳、石川秋彦会長は 1964年生まれの 40 歳、従業員平均年齢 28 歳で、前身の「メジャーオート有限会社」創業からまだ 10年という若きベンチャー企業である。
2003年現在の資本金は 9,932 万円、従業員数 383 名、売上高 84 億円と設立から僅か 5年で急成長を遂げている。前期に札幌、松山に出店し全国ネットを実現したのに加えて、2004年 2月より、関東エリアにて格闘家のボブサップを起用し、バイク王のテレビ CM を開始、7月より i-mode 公式サイト「バイク王」のサービスが開始になるなど一貫して攻めの経営が続いている。

(2)バイク事業を通じて流通の革新に挑戦してきた同社では、全国無料出張買い取り、夜間出張(22時まで)、電話受け付け 24時間・ 365日無休、現金即払と自社をサービス業と位置付け、従来の業界常識を覆してきた経営を身上としている。

(3)リユースを通じて環境と共生する社会の形成に貢献するとの使命を果たすべく 2003年 11月から中古パーツ販売店を展開している。
加藤社長は、アイケイコーポレーションを中古車買い取りの専門業者からバイクライフの全てをサポートする「バイクライフの総合プランナー」でありたいと語っている。

それでは、アイケイコーポレーション創業の経緯について触れてみたい。

同社は、取締役会長石川秋彦氏、代表取締役社長加藤義博氏の両氏が、中古バイク買い取り専門店「メジャーオート有限会社を 1994年 9月に 300 万円の資本金で設立したことに始まる。

加藤義博社長は、高校卒業後、様々な業界で営業経験を積んだ後、宅建取得を目指し、専門学校に通う傍ら、学費を稼ぐために、バイクショップでアルバイトを始めるのであるが、これでまで培った営業ノウハウを如何なく発揮し、顧客へのサービスを徹底して行ったのであった。アルバイトの身分であったのだが、こうした顧客への対応振りが経営者の目にとまり、社員への登用、そして新店の責任者へと抜擢されることになる。加藤義博氏 20 歳の時であった。このときに、新店の店舗運営を一緒に任されたのが先輩社員の石川秋彦氏であった。この 2 人が率いた新店は順調に推移し、店舗黒字を計上していたものの、本体がバブル経済崩壊の波に呑まれ倒産してしまった。

加藤義博氏は、任されていた店舗の業績が好調であり、確かな手ごたえも感じ取っていたことから、石川秋彦氏と諮り、この店舗を買い取る形で新会社を設立、これが、前述したメジャーオートである。杉並区荻窪で産声を上げたメジャーオートは、わずか 20 坪あまりの店舗であっったという。この時、加藤義博社長は 23 歳であった。

これまでのアイケイコーポレーションの事業戦略を眺めてみると、加藤義博社長、石川昭彦会長は、当初の「法人単位での個別採算最大化」から「企業統合による経営資源の集中とバックエンドの統一」へと移行していったものと考えられる。

具体的には、1994年に(有)メジャーオートを立ち上げたことを皮切りに、1995年から(有)オーケイ、(有)キャブ、(有)バイク王、(有)スピード、(有)アイケイセンターを設立。2000年には(有)モトガレージオープンを設立するなど、それぞれ法人名=店舗名とし、原則一社一店舗のみの展開とすることにより、単独店舗採算を重視する戦略を志向した。

しかしながら、一法人・一名称の多店舗展開は、全て別法人組織における業務遂行となり、スケールメリットの享受ができない、中古バイクユーザーを広く囲い込むことが困難との見地から、2001年には、アイケイコーポレーション本体に経営資源を集中する方針に切り替え、2003年までに前述した 7 社を統合し、買い取り名称を「買い取りのバイク王」に変更したのであった。これにより、市場認知が一気に高まったのも事実である。アイケイコーポレーションの経営判断の迅速性、的確性を感じるのは、筆者だけではあるまい。

最後にアイケイの社名の由来であるが、石川・加藤の両氏によって設立されたことは述べてきた通りである。石川・加藤の頭文字に注目して頂ければ、すぐに分かっていただけよう。

日本の新車バイク販売は大型スクーターの登場で一部活況を呈しているものの、全体の需要が減少しているのは事実である。
そうは言ってもバイク保有台数は 1,300 万台と膨大である。アイケイコーポレーションは、顧客からの電話一本で、日本国中どこでも顧客の元に出向くことを信条としている。買い取るバイクをチェックしてパソコン入力すると査定価格が表示され、その場で即決できるシステムを駆使することで効率的な買い取りを実現している。

「寺澤さんね、中古バイク買い取りなんて原付ばかりで買値が付かないようなものばかりで、儲からないと思うでしょう。そこに落とし穴があるんです。ただ同然で仕入れた原付バイクも日本製ということでオークション出品すると、海外バイヤーに高く落札されるケースも多いですね。」と語る加藤義博社長の表情には、自信が溢れている。近い将来、株式公開を予定している同社の更なる飛躍に期待したい。

<寺澤 寧史>