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コラム

自動車用金型業界に求められる使命

◆自動車用金型で国内2位の富士テクニカと3位の宮津製作所が事業統合を発表

富士テクニカは宮津の事業を買収し、宮津は事業譲渡後に特別清算手続きに入る。富士テクニカは企業再生支援機構から8割の出資を受け入れ、経営基盤を強化する。富士テクニカの社長にはスズキの和久田俊一氏を送り込んで経営を再建し、3年後の黒字転換を目指す。

経産省は、2社の経営統合について、企業再生支援機構に出した意見書を公表。「金型産業は世界同時不況以降の受注の大幅減少、アジア諸国の産業の急速な発展など大きな環境変化に直面している。主要2企業の経営統合は極めて大きな意義を持つ」の意向を示した。
宮津は2つある国内工場のうち、太田工場(群馬県)を閉鎖。従業員450人のうち、130人規模の希望退職を募る。宮津の主取引銀行の足利銀行は50億円の債権カットに応じる方向。
富士テクニカは支援機構から53億円の出資を受け、現経営陣は退任する。同社は昨年9月、産業活力再生特別措置法(産活法)に基づく債務保証制度を利用して静岡銀行などから20億円の協調融資を受け、危機をしのいでいる。

<2010年09月20日号掲載記事>

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【国内最大の金型メーカーの誕生】

自動車用プレス金型市場が再編に向けて大きく動き出すこととなった。国内シェア 2 位の富士テクニカが、企業再生支援機構からの支援を受け、同 3 位の宮津製作所を買収することが発表となった。両社の統合により、国内シェアトップの自動車用プレス金型メーカーが誕生することとなる。

新聞報道によれば、宮津は、国内 2 工場のうちの太田工場を閉鎖し、人員削減を行った上で、全事業を新会社に譲渡し、特別清算手続きに入る。富士テクニカは、再生機構から約 53 億円の出資を受け、宮津製作所の事業を継承し、統合新会社となる。その際、DES (デット・エクイティ・スワップ:債務の株式への転換)や DDS (デット・デット・スワップ:既存債務から別条件の債務への転換)を実施し、健全な財務状態を確保する。

【金型業界の厳しい事業環境】

自動車用プレス金型は、鋼板を主材料とする自動車の生産には欠かせない存在であり、特に外板用の金型は、自動車の外観デザインの出来栄えを左右するため、高度な仕上げ技術が求められる領域である。高品質・高精度な製品を短納期で供給する、この高度な技術力が、日本の自動車産業におけるものづくりの象徴的な存在でもあった。

しかしながら、近年は、CAD/CAM 等のデジタル技術の高度化に伴う熟練技術の存在感の低下や、韓国・中国等の新興国の金型メーカーの技術レベルの向上、過剰な生産能力に伴う価格競争の激化などにより、市場環境は年々厳しい状況にあり、国内メーカー同士の競合による疲弊感もあった。更にリーマンショック以降、国内外自動車メーカーの設備投資も大きく減退した結果、国内の金型メーカーの経営環境は更に悪化する方向にあった。

国内トップシェアであったオギハラは、2009年 3月に、タイのサミットグループの傘下となった。そして、2010年 4月には、館林工場を中国 BYD に売却した。中国 BYD による買収については、以下メールマガジンにおいても取り上げたが、国内の自動車用プレス金型メーカーが厳しい事業環境にあると同時に、その高い技術力は、新興国勢力から見れば喉から手が出るほど欲しいものであることは間違いない。

『買収戦略の費用対効果』

こうした国内自動車産業の競争力の象徴ともいえる存在を防衛する意味でも、政府主導で再生機構の出資という支援に踏み切ることになったのだと考える。

【両社統合に伴う戦略】

今回の統合により、国内トップシェアを誇る財務体質も改善された自動車用プレス金型メーカーが誕生するわけだが、その事業環境は決して安泰というわけではないだろう。

富士テクニカは、今回の統合を伴う事業再生計画として、事業統合、事業構造改革、金融支援の 3 つの施策を掲げている。

(1)事業統合(ストラクチャー)
国内勢同士の消耗戦を背景とする低収益体質からの脱却

(2)事業構造改革
新興国生産拠点の増強・活用によるコスト競争力の強化

(3)金融支援
両社の高い技術力・管理能力の融合による競争優位性の構築

このうち、(1)事業統合と(3)金融支援については、冒頭の報道の通り、今回の統合スキームにおいて実現するものである。統合後の具体的な施策となるのが(2)事業構造改革である。これまで、富士テクニカは中国 2 拠点、インドネシア 1 拠点、宮津はマレーシア 1 拠点を展開してきた。静岡(富士テクニカ)、群馬(宮津)の 2 つの国内工場をマザー工場と位置づけ、高い技術力、管理能力を集約し、このノウハウを新興国の生産拠点に移転していくことで、新興国の生産拠点の増強を図り、コスト競争力を高める、というのがこの事業構造改革のストーリーとなっている。

【自動車用業界の変化への対応】

生産拠点の最適化という考え方自体は、昨今の自動車業界のトレンドでもある。筆者は、短期的にはこうした戦略が即効性が高いものとなると考えるものの、これからの自動車用プレス金型業界の将来像を推察すると、中長期的には、もっと大きな事業形態の変革も視野に入れていくべきではないかと考える。

これまでは、モデルの多様化を進め、大量生産から多品種少量生産へ移行してきた自動車メーカーのニーズに応え、高品質な金型を短納期で供給できることが、日本の大手金型メーカーの強みとなってきた。

しかしながら、現在、環境対応技術の開発や新興国勢力の台頭の中、慢性的に不足してきた開発リソースを補うために、自動車メーカー自身もクルマの生産の在り方を再考し始めている。

例えば、成熟する先進国市場においては、車種毎の販売台数の偏りは年々大きくなってきている。特に昨今は環境対応車へのニーズの高まりや各種助成制度もあり、外観よりも環境性能を重視する消費者は確実に増えてきている。ホンダは、既に国内での販売車種削減を進める方針を発表しているが、消費者ニーズの多様化に伴い、増やし続けてきた車種ラインナップを絞り込む動きが今後も増えることが予想される。

また、拡大基調である新興国市場において、スモールハンドレッドに代表されるような新興国勢力が着実に台頭してきている。先進国の自動車メーカーも低価格車投入の準備を進めているが、今後予想される厳しい価格競争に対応していくためにも、品質基準の最適化、いわゆるデグレードを含めた原価低減に取り組む必要性も問われている。

更に、こうした新興国勢力や電気自動車に代表される新たなクルマを開発する新規参入事業者が増えてくることが予想される。こうしたメーカーにおいては、これまでの自動車メーカーとは全く異なるクルマ作りをする可能性もある。

こうした事業環境の変化の方向性も見据えて、金型設備としてではなく製品として供給できる事業や、顧客の製品開発の共通化をリードしていく事業、材料転換に対応した事業、等々、既存概念に捉われない事業も考えていくことが求められるであろう。

自動車用プレス金型製造事業そのものが装置産業化していく過程で、日本型ものづくりの競争力が活かせる余地が徐々になくなり、新興国勢力とのコスト競争に追われてしまうだろうという意見もあるかもしれない。これまでと同様の事業形態を継続していれば、こうした流れは避けられないものとなるかもしれない。しかしながら、これまで培ってきた高い技術力を活かし、新たな時代を迎えつつある自動車業界の変化にも柔軟に対応し、新たな事業形態を見出すことができれば、業界全体を再建させることも可能となるのではないだろうか。それが、国内の大手自動車用金型メーカーに求められる使命ではないかと考える。

<本條 聡>

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