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コラム

AYAの徒然草(82)  『「命」を伝える』

仕事で成果を出すことにも自分を輝かせることにもアクティブなワーキングウーマンのオンとオフの切り替え方や日ごろ感じていることなど素直に綴って行きます。また、コンサルティング会社や総合商社での秘書業務やアシスタント業務を経て身に付けたマナー、職場での円滑なコミュニケーション方法等もお話していくコーナーです。

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第 82 回 『「命」を伝える』

最近、とても悲しいことがありました。昨年 12月にある方の訃報を受け、私の頭の中は真っ白になりました。それから 2 ヶ月が経ちますが、悲しみはまだ消えず、「もっともっとたくさんお会いして、いろんなことをたくさんおしえて欲しかったなぁ」という気持ちが残っているのです。

私が住友商事に入社したときに配属された部の一番上の上司、当時の部長さんが 2 ヶ月前に病気で亡くなったのです。その方は、私が社会人になって初めて会ったいわゆる「偉い人」です。つまり、私にとっては雲の上の存在の方で、当時、私のような新入社員が直接話をすることすら恐れ多いと思っていました。その方と話をするときは極度の緊張のせいでぎこちない会話となり、後で自分がなにを話したか思い出せないこともあったほどです。そんな状態ですから、私の言葉は変な日本語になっていたようで、いつも皮肉たっぷりに怒られたものでした。

たとえば、私はこんな報告をしてしまったことがありました。「○○部長が先ほど申されたことは、今、完了されました」と、尊敬語も謙譲語もめちゃくちゃで、わけのわからない言葉を発していたんです。でも、その方は、そんな私のミスをいつも笑い飛ばしてくれるほど器が大きく、そして、冗談交じりでこんな言葉で返してくれたものでした。「ありがとう。じゃぁ、僕はそろそろお昼ご飯でも召し上がりに行くかな。あややも一緒にいただくか?」というように。もう何年も前のことになりますが、このようなほんのささいな会話も鮮明に覚えているほど、私はその部長さんが大好きだったのです。

私がその方と最後にお会いしたのは、ちょうど 2年前のことでした。新宿で美味しいお酒とお食事を共にしました。亡くなられた後で聞いた話ですが、今からちょうど 2年位前から闘病生活が始まり、入退院を繰り返すようになったとのことすので、私がお会いした頃は、その直前だったと思われるのです。そういえば、その食事の最中にこんな会話をしたことを思い出しました。「実は近いうちに病院で検査を受けることが決まっていて、今から憂鬱だ」と、下を向きながらおっしゃっていたのです。私はまさかそれが生死にかかわるような大病の検査とはつゆ知らず、「じゃあ、今日はお酒をたくさん飲んでアルコール消毒をしておきましょう!」と冗談を言って元気づけ、二人で笑いながら美味しいお酒を飲んでいたのです。

あのとき見た笑顔が最後の笑顔かと思うと、涙が出てきてしまいます。もう二度とあの優しい笑顔に会えないのかと思うと、悲しみが込み上げてきます。私は神様にお願いしたいです。もうこれ以上、私の大切な人を連れていかないで下さいと。わがままかもしれませんが、例外を作って、私の大好きな人たちだけは、私との別れをなくして欲しいです。こんな悲しい気持ちになるのはもうイヤです。そして、「もっとたくさん会っておけば良かった」と後悔するのももうイヤです。私は、「死」というものを受け入れるのに人よりも時間がかかるようで、しばらくの間はこんなふうに心の整理ができないのです。
しかし、先日、心の整理のきっかけとなることがあったのです。それは、今、上映中の映画「旭山動物園物語」を観たときでした。旭山動物園の園長さんのおかげで、私の心境に少し変化があったのです。
私は、映画の中で、人間と動物の心が通い合う姿を見て、とても心が温まりました。また、旭山動物園が、日本最北という厳しい環境でも、廃園の危機状態から日本一の入園者数を誇る動物園にまで育ったというサクセスストーリーにもとても感動しました。そんな素晴らしい物語の中心人物である園長さんのお人柄を素晴らしいと思うと同時に、私も一度、旭山動物園へ行ってみたいなぁと思いました。
映画を観てそんな気持ちになった私は、その足でそのまま本屋さんに出向いていました。旭山動物園の園長さんの書いた本があると聞いたのですぐに買って読んでみたのです。すると、その本には、驚くべきことが書いてありました。
旭山動物園では、動物の「死」もちゃんと展示すると書いてあったのです。つまり、年をとって立てなくなり今にも死にそうな元気のない動物や、不幸にも怪我をして痛々しい姿になってしまった動物たちも、旭山動物園では元気な動物と同様にちゃんと展示するそうなのです。もちろん、それらの動物の檻の外には、「動けなくなりました」と看板を掲示したり、残念なことに死んでしまったら「死にました」というお知らせもちゃんとします。
そして、そればかりではなく、その動物が生きてきた証もちゃんと残すのです。それはこのようなことです。「この動物は、いつどこで生まれて、両親は誰で、生きている間は誰との間で何頭の子どもを作って、いつから病気になって立てなくなり、そして死んでいったか」ということをニュースリリースし、報道機関に報道依頼をするそうなのです。それを受けた新聞社などはちゃんと記事を書き、写真を黒枠で掲載して、動物たちの生きてきた証を残してくれるそうなのです。

私は、動物園は元気で生き生きとしている動物の姿だけを展示するものと思っていました。子どもたちが元気な動物を見たり触ったりして楽しい時間を過ごす所だと思っていたのです。しかし、園長さんは、それだけでは子どもたちに「生」と「死」をおしえることはできないと言うのです。死んだときに死んだことを認識してもらわなかったら、生きているときの素晴らしさを感じてもらえないと。死んだことに気づいてもらえれば、「命」というものが生きているときだけ輝いているものだと認識できるようになる、と書いてあったのです。つまり、「死」があるから「生」が輝かしいものになる、ということを伝えているのです。

さきほどお話しした通り、私は「悲しみ」という感情のコントロールが器用にできません。だから、大好きだった昔の上司の死もなかなか受け入れることができません。でも、旭山動物園の園長さんの言う通り、「死」があるから「生」の部分の輝かしさが存在するということを理解すれば、自分の周りに起きてしまった「死」を穏やかに受け入れられるかもしれないなぁと思い始めました。そう思えた瞬間、私は、旭山動物園の園長さんから、「命」についてとても大切なことをおしえてもらったような気がしてきたのです。

旭山動物園は、きっと、あの園長さんのように「命」の大切さを伝えられる方が頑張ったからこそ、廃園を免れて起死回生したんですね。本当に良かったと思います。だって、子どもたちに、ううん、大人にも、「命」の大切さを伝えることのできる貴重な場を無くすことは、とても惜しいことですから。

<佐藤 彩子>

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