「トヨタ、米国の株主から疑問の声、「収益よりGMを抜くシェ…」

◆トヨタ、米国の株主から疑問の声、「収益よりGMを抜くシェア拡大優先?」
2006年までに世界生産を850万台に増加するという強気の拡大計画が裏目に?

<2005年03月23日号掲載記事>

——————————————————————————–

トヨタは昨年の世界販売を前年比 11 %増の 747 万台に乗せ、二年連続の最終利益一兆円超えも確実で、世界第二位の座を確保するなど着々と世界トップのゼネラル・モーターズ(GM)を追撃する体制を整えつつある。

今後の具体的な目標は、2010年に世界シェア 15 %などとした「グローバルマスタープラン」と、2006年の世界販売 850 万台の実現である。

しかし、それら目標に対し、一部株主から疑問の声が出ているというのが今回のニュースである。

それによるとシェア拡大という目標の実現性に異を唱えているわけではなく
シェア拡大を追及するあまり、無理が生じ人件費や研究開発といったコストが増加、収益性が悪化するのではないかということを懸念しているのである。言い換えれば、シェア拡大に企業体力がついていかないのではないかということが懸念されている。

また、記事では、トヨタの目標設定に対し、これまであらゆる業界で問題を引き起こしてきた収益よりもシェアを重視する日本の伝統が影響しているのではないか、とまで言っている。

今回のニュースに限らず、トヨタと資本市場の関係はそれほど良好な状態であるとは言いがたい。

トヨタの利益は上述したように 1 兆円超とずば抜けたものがあるが、それに比して資本市場が評価するものさしである株価は低迷しており、株価が利益の何倍あるかを示す PER (株式時価総額÷当期利益)は 7~ 11 倍程度に留まっている。

奥田会長も、2006年世界販売台数 850 万台を発表した昨年 11月の「我々は出来る、そして、我々はやる」(We Can & We Will)と題したプレゼンテーションのあとで、記者の質問に答えて、トヨタの株価が理想的とはいえないことを認めている。

株価は、投資家のその企業に対する将来の期待を映すと言われ、その期待は主に株主への配当金といった形で実現される。(厳密に言うと企業は株価上昇、自社株買い、株式分割といった手段で株主に報いることもあるが、ここでは省略する。)配当金は企業の手元に残った利益から株主に対して支払われるものであり、利益のうち配当金に回す割合のことを配当性向という。

トヨタの配当政策は業績に変動しない形の安定配当が基本路線であり、ゴーン社長自ら将来的な配当性向をコミットした日産等とは一線を画す。そのため、稼いでいる分、もう少し株主への配当に回してくれても良いのではないかという意見に代表されるように、IR に関して改善の余地ありという声が投資家からはあがっていた。

但し、今回の株主の意見はよく聞かれる上述のものとは多少異なり、株主が資本政策のみならず、事業戦略、事業計画に対してまで疑問を投げかけているという状態である。

では、果たして、シェアを追求することで収益性は悪化するのだろうか。

元来、自動車製造業は規模の経済が効く業種として知られている。つまり売上規模が大きくなればなるほど、その分、固定費が分散され、且つ変動費にもボリュームディスカウントが適用され、結果として利幅は広がるというものである。トヨタはその王道の戦略を系列サプライヤーと一丸となって推進しており、実際トヨタの業績に比例して、デンソー、アイシン精機といった系列サプライヤーも最高益を記録している。

つまり、これまではシェア拡大に伴って、収益性も向上してきたのである。

しかし、更なるシェア拡大により規模の経済を享受するためには系列サプライヤーを含めて、それに対応するだけの体制(オペレーション、人材、インフラ等)を整える必要がある。万が一、トヨタの規模拡大に系列サプライヤーがついてこれなければ、部品調達単価上昇、品質低下といった事態を招く危険性もある。

トヨタ自身もその危険性を認識しており、未然に防止するための施策を展開し始めており、今週報道されたニュースの中でもそれを垣間見ることができる。

1.「VI (バリュー・イノベーション)活動」
05年度からの新中期原価低減運動。これまでに展開してきた「CCC21 活動」をさらにレベルアップしたもので、原価低減活動を「商品化段階」から「先行開発段階」に前倒しするとともに、対象を部品の「品目単位」から複数の部品を融合した「システム単位」に発展させる。サプライヤーの協力を得ながら浸透することで、グローバル競争に勝ち抜く持続的な成長を目指す。

2.「品質管理体制の抜本的見直し」
「世界でダントツ品質の実現と維持」を目標として、部品サプライヤーを対象に、品質管理体制の抜本的な見直しに着手するもの。サプライヤーが部品や資材を調達する仕入れ先も含めて問題点を把握するとともに、その対応策を講じる。品質管理に関する最低限の「統一ガイドライン」を作成して、サプライチェーン全体で活動をレベルアップし、海外拠点で日本並みの品質を実現することを目指す。

こういった施策実施の結果として、グループ全体で体制が整わなければ株主が懸念する、シェア拡大による収益性悪化は現実のものとなりかねないだろう。

また、今回の疑問の声は米国の株主からあがったものだという。シェア拡大の目標実現にはオペレーションを含めた海外での体制整備が必須であるが、体制整備には IR も含まれる。IR もグローバル対応し、シェア拡大の制約とならないようにする必要があるだろう。

<秋山 喬>