業界とのインターフェイス構築が自動車業界向け売上を左右する

◆荒川化学工業、シリコーン樹脂を自動車のエアバッグ塗工剤に応用へ
来年を目標に環境配慮型シリコーン事業で自動車関連市場に参入する。

<2006年05月30日号掲載記事>

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荒川化学工業は2007年を目標にシリコーン事業で自動車関連市場に参入する。
紙や布、フィルムなどのコーティング材料に採用されているシリコーン樹脂を自動車のエアバッグ塗工剤に応用する。

シリコーン樹脂は耐熱性や気密性などに特徴があり、紙、フィルムなどのコーティング材料に使われてきた。同様の特徴を求められるエアバッグにも応用できると判断。自動車関連市場への参入を決めた。溶剤を使わない環境配慮型シリコーンの採用を働きかける。
技術導入しているフランスのローディア(パリ市)製シリコーン材料は欧州や米国でエアバッグ向けにシェアを拡大している。さらにエアバッグの標準装備が運転席と助手席に加え、サイド部分にも拡大していることから需要増を見込む。

2006年 3月期決算において、トヨタが日本の製造業で初めて売上高 20 兆円を上回り、世界トップの GM に肉薄したことに代表されるように、日本の自動車業界は総じて好調を維持している。

そして、この記事のケースのように非鉄金属、化学品、繊維といった様々な素材メーカーが業績好調な自動車業界を重点業界と位置付け、新規参入、売上規模の拡大を目指す動きを見せている。

素材メーカーにおいては、これまで、様々な業界に向けて均一的な素材・材料を供給するというあくまでマス対応が戦略の中心であり、収益性が低下する業界別、顧客別のカスタマイズにはそれほど踏み込まなかったというのが基本的なスタンスだったといえるだろう。(従来より、自動車業界が最大の顧客であった鉄鋼業界は自動車業界対応を重点的に行ってきていたが。)

しかし、昨今の自動車業界の好調を見るにつけ、他の素材メーカーも自動車業界の場合は自動車業界向けに製品、組織体制等をカスタマイズしたとしても、十分なマス、収益性が確保できるのではないかと考えるようになったものと思われる。

具体的な動きとして、素材メーカー各社においてはこれまで一般的であった製品別組織を一部見直し、グループ会社も巻き込む形で、自動車業界向けの製品横断型の組織体を設置する、というケースををよく目にするようになった。

そうすることにより、従来、それぞれの製品別組織に散らばっていた自動車業界向けの製品、技術を一元的に把握し、組合せによる新製品開発等の相乗効果を生み出すことが狙いといえる。

一方で、このような素材メーカーの動きは自動車業界側にとっても、歓迎すべきことである。現在、自動車業界は安全、環境といった世界規模での課題に対応していくために、自動車という製品の仕組みを抜本的に変えていく必要に迫られているからである。例を挙げれば、安全性能向上のために車両の電子制御が進展しているほか、環境問題に対応していくためハイブリッドカーや燃料電池車の開発、実用化も着実に進んでいる。

結果的に、自動車は機械だけではない様々な技術の集合体になりつつあり、自動車業界がこれまで得意ではなかった異業種の知恵、技術を取り入れる必要にも迫られている。実際、自動車メーカーは熱心に様々な分野の異業種エンジニアを中途で採用している。

弊社では昨年、自動車業界において開発関連業務に従事している方 952 名を対象に新技術の導入が期待される分野について、アンケートをとったのだが、ナノテクノロジー、環境・エネルギー、通信・ネットワークといった分野を押さえて素材・材料がトップとなった。実に 64 %の人が期待しているという結果になったのである。

そして、自動車業界側が素材メーカーに対して期待しているのは、従来、素材に対して求められてきた QCD といった分野というよりは、新技術を活かした機能の向上ということもアンケート結果で明らかになった。

しかし、機能性向上といっても自動車業界に対しては革新的な素材・材料とその活用方法(=自動車業界にとっての嬉しさ)をあわせて訴求、提案していかないと採用、素材メーカーにとっての売上拡大にはつながってはいかない。そして、そうするためには、自動車業界との距離を従来より緊密なものに変化させていくことも素材メーカーにとっては必要になってくると思われる。

現状としては、自動車業界、特に自動車メーカーは素材・材料に関する見識をそれほど有していないし、逆に素材メーカーは自動車業界側のニーズを把握していないために、シーズとニーズのギャップが少なからず生じているという状態にあるだろう。

であるため、異業種側の知恵、技術が自動車業界に導入され、結果として素材メーカーの売上が拡大するためには、そのギャップを埋めるインターフェイスともいうべき存在が必要になる。そして、これまでそのインターフェイスの役割を担っていたのが部品メーカーであったり、自動車業界の OB であったりしたわけである。

そういう意味では、素材メーカー各社は現在、自動車業界を攻略するうえでの内部体制を整えるステージにあるわけだが、今後は自動車業界とのインターフェイスをいかに構築していくかということが非常に重要なテーマになってくるものと思われる。

インターフェイスの構築としては、まずは部品メーカーと共同開発を積極的に行うなど、自動車業界とのネットワーク、アライアンスを現状より一段強化するということが考えられる。

そして、それを更に推し進めたものとして、事業ドメインをバリューチェーンの下流に広げ、自らが部品メーカー化してしまうという形も想定されるだろう。

異業種からの技術導入は今後の自動車業界発展のためにも必要であり、素材メーカー側としても現在の取り組みにおいて個別案件を生み出すに留めず、売れ続けるための仕組み=自動車業界向けのマーケティングの仕組みを構築することが重要である。

<秋山 喬>