駅ナカとの比較から考えるスマートIC導入のアプローチ

◆国交省、高速道路の「スマートIC」、導入を本格化すると発表

<2006年07月10日号掲載記事>

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【スマートIC導入は地方公共団体が主体】

国土交通省は、高速道路の SA や PA から ETC 搭載車に限って乗り降りできる簡易型のインターチェンジ(スマート IC)導入を本格化すると発表した。本格導入のための実施要項を明らかにしたもので、同省は年度内にも実験中の 31カ所を常設に切り替える。今後導入が必要と判断する自治体が高速道路会社などと地区協議会を設け、費用対効果を検証する。

周知のとおり、スマート IC とは ETC 専用のインターチェンジのことで、小型で低コストであることが特徴だ。これを一般道に隣接する SA、PA に設置し、ランプ構造を省くことで、コストをかけずに高速道路の利便性を向上させるというのが、現在、行われている実験の要旨である。

現在、実験中の SA、PA の多くで、実験結果速報が公開されているが、それを見ると利便性の向上により、利用者数が増加しており、地方自治体側の導入意欲も高いようである。
そのような状況を踏まえてか、今回、国土交通省が発表した実施要項においては、今後、スマート IC の設置を要望する地域では、地方公共団体が主体となって、その設置について発意した上で、コストについても地方公共団体が基本的に責任を負うという方針が打ち出されている。

コスト負担については、料金徴収施設の設置(つまり SA、PA の敷地内の話)は高速道路会社、SA、PA と接続道路を結ぶアクセス区間の整備は地方自治体と分担がなされているものの、整備後の管理運営のコストも、高速道路会社はそのスマート IC の収益の範囲内でしか負担しない。

スマート IC の導入コストは安いとはいえ、 1 カ所あたり 1 億円以上であり、利用者が少なくコスト割れした場合は、すべて地元が負担する可能性を含んでいる。

上記のような事情もあり、スマート IC の導入が利用者に今以上の利便性向上をもたらすのは間違いないものの、スマート IC の導入が加速するためには、地方公共団体が主体となってスマート IC 導入 の費用対効果を評価し、また費用対効果が見込める絵を描いて、高速道路会社等の関係者をうまく巻き込んでいけるかが重要になるといえるだろう。

【高速道路会社との共存共栄関係】

スマート IC の導入は 2005年 10月 1日をもって、民営化された高速道路会社各社(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社の 6 社)にとっても大きな関心の的となる。

高速道路会社各社は民営化後、 SA、PA 事業を高速道路事業と並ぶ中心的な事業と位置づけており SA、PA からあがる収益を今後、最大化する必要に迫られているからである。
それを裏付けるように、現在は東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社の 3 社に分割されている日本道路公団が、2004年に民間コンサルタント会社に委託する形で SA、PA 事業の事業拡大及び高速道路の多機能化方策の検討案をまとめている。

報告書の概要では、「公共性」と「顧客志向」とを両立させながら、高速道路内での収益機会を逃さずとらえ、高速道路外の市場へも進出を図る必要があるとしている。また、高速道路ユーザーの基本ニーズ充足から、潜在ユーザーや社会ニーズの充足までを視野に入れることが必要であるとしている。

具体的には、ナショナルブランド誘致、フードコート導入等による物販、飲食事業の改善提案や、その延長線上としてブランド力を有する土産品や地域色の高い優良な土産品、書籍、CD、ファッション雑貨、ドラッグストア、アウトドア衣料、ペット用品店などを SA、PA にて取り扱うことが報告書には盛り込まれている。

また事業の多角化として、クレジットカード事業、旅行代理店やホテルなどの旅行事業、SA、PA やインターチェンジ周辺の敷地を活用したロジスティックス事業、ディベロッパー事業も視野に入れるという提案もなされている。

このように高速道路会社にとっては SA、PA 事業の拡大が急務であるわけだが、スマート IC が整備されれば SA、PA の利用者も増加し、一方で SA、PA が魅力的かつ利便性の高い場所になればスマート IC の潜在利用者数も増加するというように、両者は共存共栄関係にあり、SA、PA の内と外とを一貫して構想したほうが効果的でもあるため、スマート IC 導入にあたっても地方公共団体と高速道路会社とが上手く協業しながら取り組んでいく必要があるだろう。

【参考事例となる駅ナカ】

そして、今回のケースのように利用者の動線を変え、利用者の利便性を高めながら、事業者側の収益にもつなげていく取り組みとしては、昨今話題の駅ナカの事例と共通点があり、参考になる部分もあるのではないかと考える。

「通過する駅から集う駅へ」というコンセプトで表現されるように利用者の利便性を高め、駅ナカを新しい収入源として、重点的に強化する動きが、各鉄道会社で盛んになっている。

その代表格である JR 東日本のブランド「エキュート」は大宮駅(埼玉)と品川駅(東京)で成功を収め、2007年度中には立川駅(東京)にも展開する計画を立てている。

駅ナカ開発の手法としては、キヨスク任せの店舗開発でなく、メーカー、外食などと共同開発した新ブランド、新業態を中心に出店させ、その殆どの店舗においては電子マネー「Suica」による決済が可能である。

駅ナカで展開される店舗としては物販、飲食が代表的であるが、会社の行き帰りに立ち寄れるといった利点を活かして、大型のフィットネス施設も上野駅などでは展開されている。

また、駅ナカに注目しているのは JR だけではない。東京メトロは、表参道駅に 2005年の年末に、商業施設「Echika (エチカ)表参道」をオープンした。これは 2006年 1月に完成した「表参道ヒルズ」との連動企画ともいうことができ、「Echika 表参道」は、そのプロローグとしての位置づけにもなっている。

駅ナカ開発において鉄道会社は主にディベロッパーの役割を果たしており、出店店舗からのテナント料が新たな収益源として見込める。また、JR 東日本の場合は、Suica を電子マネーとして利用してもらうことで、決済事業者としての顔も併せ持つことになり、決済手数料も新たな収益源として付加されることになる。

Suica は今や電子マネーのデファクトスタンダードを狙える立場にあり、駅構外のコンビニエンスストア等、さまざまな場所、店舗で使用できるようになってきているほか、JAL、みずほ銀行、ビックカメラ等との提携により Suica にクレジット機能を付加したカードの発行も開始され、クレジットカード事業の基盤ともなっている。

これらディベロッパー事業、クレジットカード事業などは、実際に SA、PA の事業多角化案としても上記報告書内に提起されているものであり、スマートIC 導入、SA、PA 活性化の立場からしても、駅ナカの事例を参考にして色々できそうだ、との感触を持つのではないかと思われる。

【駅ナカとの違いから考えるスマートIC導入のアプローチ】

しかし、スマート IC 導入のアプローチと駅ナカの事例とでは異なる点も存在する。それは駅ナカの場合は駅の既存の交通量、利用者数をある程度、固定的なビジネスインフラとして捉えることが可能であったが、スマート IC 導入の場合は、現時点ではまだそこが流動的という点である。

つまり、動線を変えるといってもあくまで利用者の立ち寄り、寄り道を促すことが主であった駅ナカに対して、スマート IC 導入の場合は、まったく新規の利用者動線を想定しなければならないのである。

そのため SA、PA 周辺の地方公共団体が、いくら費用対効果が重要で、色々な可能性がありそうだとはいえ、どんな施設を誘致しようか、またどんな形で効果を享受するのがいいか等をいきなり考えるのは得策でないと思われる。

まずはスマート IC を導入しない場合に当該 SA、PA の利用者数はどの程度で、スマート IC を導入した場合にはそれがどの程度、増加しそうかを把握する必要があるだろう。それも観光客、ビジネス利用、近隣住民といったそれぞれの立場からスマート IC が導入された場合の当該 SA、PA がどう映るのかをシミュレーションするのである。

その場合は、仮に当該 SA、PA の一つ前の SA、PA、もしくは、一つあとの SA、PA においてスマート IC がオープンした場合、しなかった場合に、利用者からの見え方がどう変化するのかという点も想定に入れておくことが求められる。例えば、ある観光地があった場合に一つあとの SA でスマート IC が導入されなければ当該 SA が最寄のインターチェンジとなるが、導入された場合は最寄ではなくなる、など。

このように考えるといくら地方公共団体がスマート IC 導入の主体になるとはいっても、各地方公共団体間の利害が対立するようなケースがでてくることも想定されるため、その場合は高速道路会社が調整役になる必要があるだろう。

そして、ある程度、利用者の全体数やその属性の特徴をイメージすることができたら、その上ではじめて、どのようにそれら利用者の利便性を向上させ、結果としてどのように効果を享受するのかを考える段階に移るべきだろう。

多くの地方共同体がスマート IC に導入に積極的だったとしても、このようなアプローチを取ると利用者からの見え方(ポジショニング)、や想定される利用者の属性はおそらくそれぞれ異なる結果になる。やはり横並びの取り組みではいけないということである。

<秋山 喬>