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コラム

自社の強みを生かすことが業界の常識を変えることにつながる

◆スズキの鈴木修会長、OEM戦略を拡大していく可能性を示唆

<2006年11月1日号掲載記事>

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【自動車業界において存在感を増すスズキ】

現在、日本のみならず世界の先進国では「日々の移動手段としてのコア機能に特化することにより、低価格化を実現するクルマ」と「移動手段以外の快適性・満足感の最大化を享受するためのクルマ」という二つの大きな流れが存在している。すなわち、低価格商品と高価格商品の二極化ということである。

一方で、現在はまだまだ自動車の普及率が低い BRICs に代表される新興国も今後、徐々にモータリゼーションを迎えることが予想され 1990年には先進国のみで世界販売台数の 8 割がカバーできていたものが、2010年には先進国に BRICsを加えないと 8 割がカバーできないという状況になると見込まれている。そのような状況下においては、先進国をターゲットにした現在の主要自動車メーカーの商品ラインアップだけでは不十分であり、更に低価格帯の商品開発が必要になる。

実際、トヨタは新興国市場向けに 80 万円を切る乗用車を開発、2010年前後にまずインドで発売することを 2006年 5月に発表している。

このように先進国であっても、新興国であっても低価格帯の商品が求められる状況に変化しつつある現在において、低コストで自動車を開発・生産できる強みを持ち、インド、パキスタン、ハンガリーといった新興国に早い段階から進出していたスズキが自動車業界において存在感を示しつつある。

スズキは元々、GM が 20 %の株式を保有しており GM グループの一員であったわけだが、GM が昨今の経営不振を受け株式の大部分を 2006年 3月に売却したため、独立色が強まり、一層、他メーカーの注目を浴びる存在となっている。

【存在感の表れともいえるOEM供給】

2006年 9月中間決算発表の場において、スズキの鈴木修会長は OEM 供給を積極化していくことを発表した。

現在、既に、国内で日産やマツダに軽自動車、欧州でスバルとフィアットに小型車を供給しているが、今後、2008年から GM 傘下のオペル向けに OEM 供給を開始する予定のほか、日産にはインドで生産する欧州向け小型車を供給する計画である。

数値としては 2006年度、四輪車全体の販売台数が 222 万 1000台で、このうち OEM 供給は 5.6 %の 12 万 5000台になることが見込まれているが、2009年度には世界販売目標 300 万台のうち、OEM 供給を 10 %程度にする方針を打ち出している。

このような OEM 供給の引き合いがあることが、先進国における低価格帯商品のニーズの大きさを物語っているであろう。一般に自動車業界における OEM 供給というと、OEM 供給する側が工場の稼働率を維持するために行うといった印象が強いが、今回のケースでは少し趣が異なる。OEM 供給する側であるスズキのほうが立場が強い。

それは、日産の 2006年 9月中間決算発表にて、ゴーン社長が不調の国内販売について質問された際に「(スズキとの) 2 社間の契約で軽自動車の供給増大を要望しても無理だった」との回答をしていることからも明らかである。

また、通常、OEM 供給は受ける側にも、行う側にもメリットがないと成立しない。

OEM 供給を受ける側からすると、いくら市場全体としては、低価格帯の商品に対するニーズがあるといっても収益性が低く、自社での販売台数を前提に生産を行ったのでは到底割に合わない状態であるならば、低コストで製品を生産できるスズキから OEM 供給を受け、その分、経営資源を販売面に投入したほうがよいという判断となる。

一方で、OEM 供給を行うスズキからすると、大きな販売コストをかけずに顧客となる OEM 先を獲得することにより大量生産が可能となり、生産コスト低減により競争力を強めることが出来る。自社ブランドでの販売を考慮に入れても生産量確保によるコストダウン効果は大きい。

しかし、いずれにしても世界販売台数の 10%、10台に 1台が OEM 供給によるものというのも大きな割合であり、戦略的に行っていくという意図が窺える。

【バッジの位置付け】

前述したとおり、自動車業界において、OEM 供給 というのは例外的なイメージがあるが、自動車業界以外に目を移すと、コンピューターやオフィス機器、デジカメなどの情報通信機器、テレビやビデオなどの家電製品など頻繁に行われており、販売元と製造元が異なる商品など身近にいくらでも存在する。

自動車業界において OEM 供給が例外的というのは、自動車のバリューチェーンの中で、生産というファンクションが重要な役割を占めているという根源的な理由に基づいている。多数の部品をすり合わせて開発し、組み立ててようやく一つの完成品に至るという製品特性を持つため、誰かに気軽に生産委託できるといった類の製品ではない。

そのため、自社のノウハウ、労力で生産したからには自社のバッジ、ブランドで販売する、したいというのは製品特性を踏まえると、自然な流れであり、業界の常識ともいえる。(資本関係に基づく OEM 供給は除いて考える。)

そして、そのような業界常識に照らし合わせると、今回のスズキの OEM 戦略というのは特異なものということができるだろう。また、OEM 供給は、ビジネスの継続性が必ずしも保証されていないため、長期的な OEM 依存は経営の不安定要因になるというデメリットもある。それでも低価格帯の自動車を求める世界規模の動きは一過性ではないという判断に基づくものであろう。

また、こういった戦略の特異性というのは言い方を変えれば、自社の強み、ポジショニングを生かした戦略であるともいえる。

「住商アビーム Auto Business Insight Vol.43」 にて弊社加藤がスズキに代表される軽自動車メーカーに触れているが

『そこでは「顧客防衛率」など端から眼中にない。ある特定のライフ・ステージやライフ・シーンにマッチするようにセグメントを絞り込み、そこでの商品性を徹底的に磨き上げて、フルライン・メーカーといえども安易に入ってくることの出来ない参入障壁を築くことで、あるライフ・ステージやライフ・シーンに来た人たちが嫌でもショッピング・リストに入れざるを得ないところに身を置いている。』

http://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3785.html

このようなブランドによる顧客防衛率を気にしないというポジショニング、戦略の延長線上に 自社のバッジに固執しない OEM 戦略というのも位置づけられるだろう。量販店中心の国内流通チャネルのため、営業力がそれほど強くない一方で、販売コストがかかるという自社の弱みを逆に生かす形の戦略ともとれる。

そして、OEM戦略の一方で、スズキは独自ブランドのスイフト、SX4といった世界戦略車が欧州等の先進国で高い評価を得ていることも注目される。日本ではスイフトが2006年次RJCカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。これも顧客防御率、ブランドに固執せず商品性を磨き上げるというポジショニング、戦略がもたらした成果といえるだろう。

【強みを生かすことが常識を変えることにつながる】

業界の常識に捉われない形で展開されるスズキの製品戦略について触れたが、同社の特徴であるグローバル展開にも同様の要素が見受けられる。

スズキはハンガリー、インド、パキスタン、中国といった新興国に海外生産拠点を設けているが、業界においてモータリゼーション進展の基準といわれる一人あたり GDP 2000 ドル を現在超えているのは、ハンガリーのみである。一方でインドに進出したのは 25年以上前の 1981年であり、現在では低価格帯の自動車を中心にシェア 45 %を獲得している。

これも低コストで自動車を開発・生産できるという自社の強みを認識し、その強みが生きる場を常識に捉われず探し求めた結果だろう。モータリゼーションが進展する前の新興国に拠点を設け、自社の強みを生かしてモータリゼーションの想定の水準より低い価格で自動車を提供してきたことが現在の高シェアにつながった。

そして、トヨタをはじめとする他の自動車メーカーがこのような動きに追随することで、一人あたり GDP が 2000 ドルを超えるとモータリゼーションが進展するという業界の常識自体が今後変わる可能性も出てくるだろう。

人と同じことはやらないと評されるスズキの事業展開は業界の常識に捉われず、自社の強みを生かすことが常識自体を変えることにつながるという好例ではないかと考える。

<秋山 喬>

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