横並びからの脱却が時代を創り、ブランドを創る

◆トヨタ、ハイブリッド車の利幅を2010年代の早い時期にガソリン車と同等に

<2007年05月10日号掲載記事>

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【ハイブリッド車の標準化がもたらすもの】

トヨタの瀧本副社長は、通信社とのインタビューの中で、現在主流の燃料であるガソリンや軽油について、中国やインドといった新興国での自動車普及にともなって価格がさらに上昇し、2030年ごろには自動車燃料に適さなくなる可能性があるとの危機感を示し「これに間に合わせるために、2020年ごろには(ハイブリッド技術を) 100 %標準にしたい」と述べた。

トヨタは 2010年代の早い時期にハイブリッド車を世界で年 100 万台販売する計画を打ち出しており、これはつい先日の決算発表にて公表された 2006年度の販売台数 824 万台でいうと、12 %にも相当する数字である。

また、瀧本副社長は、足元でも利益は出ているが、さらにコストを下げて利益を確保する必要があるとして 2010年代の早い時期にハイブリッド車の利幅をガソリン車と同等にしたいとの考えを述べている。

これは、現在、大きく先行しているハイブリッド車分野にトヨタが今後一層注力していくという姿勢を示したインタビュー結果であるが、競合他社が今後の技術戦略を考えるうえでも大きな影響を与えるものであるように思う。

それは、現在はまだガソリン車よりも数十万円程度高価で、消費者の関心こそ集めているものの特別なクルマであるハイブリッド車が 2010年前半から 2020年にかけて標準のクルマになっていくということを意味するものだからである。その過程においては価格もガソリン車に近づいていくだろう。

ガソリン車と同等の価格、条件になれば消費者は当然燃費の良いハイブリッド車を選択することになり、そういった極めて合理的な消費者の判断を覆すためには、それ以外でよほど消費者をひきつける商品の魅力がなければならないことになる。

【横並びからの脱却の必要性】

ハイブリッド車の技術で先行し、利幅をガソリン車と同等にすることを目指すトヨタに対し、競合他社は生産コスト等の面で追いつければよいが、そうでなければハイブリッド車が標準化するタイミングで、シェアを減らすか、身を削って利益を減らすかという状況に直面せざるをえなくなる。

トヨタが先行した年月、及び今後投入するであろう開発リソースの質量を考えると、これから追いつくことはなかなか難しいと思われ、このような状況で、後追い主義、横並び主義を取るのは非常に危険な選択肢と思われる。

そもそも、動力機関自体の変革というのは自動車始まって以来の技術革新であり、ハイブリッド車が標準化する X day までにどのような技術開発を行っていくべきかという点においては、各社とも非常に高度な戦略性が求められることになるだろう。

そして、このような状況を踏まえ、各社とも徐々に横並びではない選択をしつつあるように見受けられる。

例えば、ホンダはディーゼルエンジンに注力する姿勢を示しているし、三菱自動車は電気自動車に注力するという姿勢を明確にしている。

電気自動車は次世代の環境車候補の一つであるが、今後の普及を考える上では 2 次電池の性能と費用が課題となっており、先日発表された三菱自動車、三菱商事、 GS ユアサによる大型リチウムイオン電池製造会社の設立も 2 次電池の技術力強化が目的と思われる。

2 次電池の技術は、ハイブリッド車の 2 次電池を家庭用コンセントから充電できるようにし、2 次電池の搭載量を増やして短距離移動であれば電気自動車としても走行可能なプラグイン・ハイブリッド車にも応用可能なコア技術であり、日産も NEC、NEC トーキンとともにリチウムイオン電池の供給を行う会社を設立することを 4月に発表している。

【自動車産業史は横並び脱却の歴史】

ここで少し視点を高くし、これまでの 100年強の自動車産業の歴史を主戦場であった北米中心に振り返ると、横並びからの脱却が産業史の新たな局面を切り開いてきたことがわかる。

1908年、まだアメリカにて 500 社程度のメーカーが富裕層向けに自動車を注文生産していた時代に、フォードは T 型フォードを大衆市場向けに売り出した。色は黒のみ、型式も 1 種類だけだったが、信頼性と耐久性に優れ、修理も容易であり、何より多くの大衆にとって手の届く値段設定であった。そして、その価格設定は製品の標準化をどこまでも追及し、専門化と分業を徹底した生産ラインというビジネスモデルに裏付けられていた。
その後、自動車が家庭の必需品になった 1920年代に GM は、機能を重視して色と型式を絞り込むというフォードの戦略とは対照的に、快適性やファッション性を重視した乗っていて楽しい自動車というコンセプトを打ち出す。顧客ニーズ、セグメントにあわせたさまざまな型式の自動車を生産し、その色とスタイルを年ごとに一新させることで消費者の新たな支持を得ることに成功する。

この GM の戦略にはフォード、クライスラーも追随し、ビッグ 3 の時代が長く続いたのち、今度は 1970年代に日本車メーカーが新たな時代を切り開く。オイルショックによる追い風もあり、小型で品質が良く、燃費の面でも優れている日本車は、「大きいことはよいことだ」とし、高級車を偏重するビッグ 3 を尻目に消費者の大きな支持を経た。

続いて、今度は 1984年に、クライスラーが乗用車とバンの垣根を壊すミニバンという商品セグメントを開発し、家族全員が乗れ、その他必要品を積み込むことが可能で、しかも運転しやすい、というコンセプトで消費者を魅了することになる。そして、ミニバンでの成功は 1990年代の SUV ブームへと引き継がれることになる。

そして 2000年以降から現在に至るまで、将来的な石油資源の枯渇、環境意識の高まりを受け、再び日本車が攻勢をかける。品質が良く燃費の良い日本車が市場でも再び人気を博し、トヨタが投入したハイブリッド車はその流れの牽引役、象徴ともなっている。

こうして産業史を振り返ってみると、誰かが横並びから意識的もしくは無意識的に脱却し、消費者に新しい価値を訴求することが、産業における競争のルールの変更を促し、産業史に新たな時代をもたらすということが繰り返されていることがわかる。

前パートにおいて、横並びを避けるとしていたのは、あくまでも環境性能を向上させる手段においての横並びの話であったが、将来のことを高い視点で考えた場合、環境性能以外の部分を新たな価値として訴求するという選択肢を模索する企業も当然出てくるだろう。

特に、現在、環境性能を必死でキャッチアップしているものの、未だ苦境に立たされているビッグ 3 などはこれまでの産業史を振り返ると、環境面での出遅れを帳消しにするような消費者への新たな価値訴求、及びそれに伴う競争のルール変化のチャンスを虎視眈々と狙っているようにも思われる。

【横並び脱却はブランド創出にもつながる】

いずれにせよ、現在ハイブリッド車で先行するトヨタも元々は他人と違うことをやり始めたことが現在の優位性につながった。

そう考えると、環境性能を向上する手段であれ、もっと広い視点のものであれ、やはり勇気と決断力を持って他者と違うことに取り組んでいくことが新しい時代を切り開いていくことにつながっていくものと思われる。

また、現在の自動車業界においては技術開発同様に、ブランドも重要とされ、フロントグリルを統一化したり、一貫したメッセージを消費者に伝え続けるといったブランドマネジメントの議論も盛んである。

元々、ブランドの語源は、「brandr (焼き付ける)」という古代スカンジナビア語にあり、焼印は、古来、自分の所有する牛と他人の所有する牛の「違いを識別する」ために使われてきたという。

そう考えると、横並びを避け、他人と違うことに取り組んでいくことが、消費者の「あの企業は他とは違う」という意識につながり、堅固なブランドの創出にも何より貢献していくのではないだろうか。

<秋山 喬>