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コラム

ユーザーインターフェースに着目して新規性を訴求する

◆いすゞ、大型トラック「ギガ」のトラクタシリーズをモデルチェンジ

<2007年06月18日号掲載記事>

◆日立製作所、運転者か同乗者かを識別できるカーナビ向け技術を開発

<2007年06月19日号掲載記事>

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【いすゞと日立が発表した新製品、新技術】

いすゞが大型トラック『ギガ』のトラクタシリーズをモデルチェンジし、6月18日より発売を開始するが、注目されるのは予防安全に関する先進技術を標準化装備とした点である。

大きな車両重量や連結車特有の車両挙動を行うトラクタ・トレーラの事故は、即重大事故に直結するが、その原因のほとんどは長距離輸送の疲れ等によるドライバーの不注意だと言われている点を考慮し、商用車メーカーとして、事故に至る前のドライバー支援を最優先に考えたものといえる。

具体的に搭載されているのは状況確認のための安全技術「VAT(VIEW ASSIST TECHNOLOGY)」と車両制御のための安全技術「IESC(ISUZU ELECTRONIC STABILITYCONTROL)」である。
VAT はミリ波レーダーによって先行車との車間距離をモニタリングし、追突の恐れがある場合には警報により注意を促す「ミリ波車間ウォーニング」や、ステアリング操作からドライバー個々の特性を学習したうえで、運転集中度を判断し集中力が低下したとみなした場合には、マルチディスプレイによる表示と音でドライバーに注意を促す「運転集中度モニター」といった機能から成る。

また、IESC は電子制御ブレーキシステムを進化させたもので、各種センサーでモニターした情報により、不安定な車両状態と判断した場合ドライバーに警報すると共に、エンジン出力、ブレーキを自動で電子制御し、車両姿勢を安定化させるというものである。

一方、日立製作所は赤外線を放出することによってタッチパネル操作時に運転者と助手席に座る人とを識別できるカーナビゲーションシステム向けの技術を開発し 2~ 3年後の実用化を目指すことを発表した。

カーナビは経路表示だけでなく多彩な機能を有するようになってきているが、安全性のため走行中は複雑な操作ができないように機能が制限されている。新技術を使えば、走行中でも安全性に配慮しながら、助手席側から経路設定の変更やオーディオ操作など複雑な操作が可能になる。

【自動車業界におけるヒューマンマシンインターフェース(HMI)の重要性】

紹介した上記 2 つのニュースには共通点が存在する。それはどちらも人間工学でいうところのヒューマンマシンインターフェース(HMI)に関連した技術ということである。

HMI とは通常、機械と人間の間で情報のやりとりを行う境界を指し、通常は、操作・命令を与える人の意思を簡便に機械が理解できるように、または機械の状態を人が理解しやすいように設計される。HMI の代表的なデバイスとしては、スイッチ、ハンドル、レバー、ディスプレイ、技術としては音声認識、画像認識等が該当する。

自動車というのは元々、HMI の発想 が必要な製品であるが、近年、自動車業界においてはいくつかの観点からこれまで以上に HMI の発想、そして製品への応用が重要になってきている。

まずは安全性向上の観点である。

今回、紹介したいすゞのニュースはまさにこれに該当するが、現在の自動車業界における安全技術の焦点は、事故が起きた際にいかに被害を軽減するかというパッシブセーフティ、プリクラッシュセーフティから、いかに事故を未然に防止し、危険を回避するかというアクティブセーフティに移りつつある。

アクティブセーフティ技術ではドライバーの認知能力や操作能力の不足を自動車側が技術的に支援することになるわけだが、ドライバーの眠気や不注意をどのように検知するか、また、検知した情報を踏まえ、危険回避の観点からどのような判断を下すのか、といった点は HMI がおおいに関係してくる分野となる。

次に快適性向上の観点がある。

J.D. Power が毎年発表している新車購入直後の初期品質調査(IQS)の指標は業界内でも馴染みが深いが、2006年より この IQS の調査方法が変化した。具体的には 2005年まで「壊れる」や「動かない」というもののみ不具合としてカウントしていたが、2006年からは「使いにくい」「使い勝手」が悪いというものまで不具合としてカウントするようになった。

このことに象徴されるように、現在の自動車業界においてはいかに自動車の利用、及び利用時の車内空間を快適にするか、という点も大きなテーマとなっており、その意味でも HMI の発想が内装のレイアウト等に大きく影響を及ぼすことになる。

今回紹介した日立のカーナビ技術も安全性の向上につながる一方で、快適性の向上につながるものともいえるだろう。

【ユーザーインターフェース変革による新規性の訴求】

弊社では自動車業界が今後、環境性能、安全性能、快適性能を飛躍的に高めたクルマを開発していく必要に迫られていく中で、これまで自動車業界内部では蓄積されてこなかった様々な技術や知識が必要とされていくのではないか、という問題認識のもとに自動車業界の技術者に対しアンケート調査を行った。

その中の、今後、積極的に外部とコミュニケーションを取っていきたい技術分野という設問では、電気・電子工学、化学、環境・都市工学といった各分野を押しのけて、HMI を含む人間・生命工学がトップという結果になった。

この結果からも改めて自動車業界において HMI が重要になってきていることがわかるであろう。しかしながら HMI が製品にもたらす効果は前述した安全性の向上、快適性の向上といったものに留まらない。更に、新規性の訴求という効果も大きいと思われる。

日経 MJ (流通新聞)が発表した 2007年上期ヒット商品番付でも大関にランクされている任天堂が発売した新型ゲーム機「 Wii 」はブルーオーシャン戦略を体現して新市場を創造した例としてしばしば引用される。

ブルーオーシャン戦略とは価格や機能などで血みどろの競争が繰り広げられる既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」とする一方で、競争自体を無意味にする未開拓の新市場を「ブルー・オーシャン(青い海)」と呼び、製品・サービスの価値を再定義することで新市場を創造しようというものである。

Wii はこれまでゲームであまり遊ばなかった小さい子どもや大人にも満足してもらえるゲーム機となることで、ブルー・オーシャン(新市場)を開拓することに成功したが、任天堂の岩田社長はインタビューの中で、これまでの延長線上にある技術スペックの向上では新市場は開拓できないと考えていたことを明らかにしたうえで、新しい市場を獲得するためにまずユーザーインターフェースに着目したということを述べている。

ゲーム機の場合、ユーザーインターフェースというのはコントローラになるわけだが、両手で持つ横長のコントローラを採用している限り、消費者からは従来のゲーム機の延長線上という認識をされてしまい、新市場開拓には結びつかないということであろう。実際、Wii のコントローラは縦長の片手で持つ形状であり、それをラケットのように振ったりすることでテニスゲームができたりと新しい遊び方の象徴にもなっている。

また、ヒット商品ということでいうとアップル社の i pod も従来の携帯型音楽プレイヤーと比較するとユーザーインターフェースは独特であり、中央のスクロールホイールを使って操作するというものになっている。このスクロールホイールも iPod という製品の持つ新規性の象徴ともなっており、これまで音楽を携帯していなかった層を取り込むことに一役買った。

これら 2 つの異業種事例でもわかるとおり、ユーザーインターフェースの変革は製品の新規性の訴求を考える際には大きな効果をもたらすのである。

翻って、自動車の場合は人の生死に関わる製品であるので、ユーザーインターフェースを変更することは、運転者に混乱をもたらすことにもつながり、慎重にならざるを得ない。

ただ、市場が成熟し、クルマ離れが叫ばれる中で、消費者にとって魅力的な製品を開発しようと考える際には、新規性の訴求という効果を考慮に入れて HMIの設計を行うことも有益ではないかと思われる。

【マーケティングにおけるユーザーインターフェース】

ユーザーインターフェースの変革が、新規性の訴求に効果があるということを述べてきたが、これは製品単位の話だけでなく、広くマーケティングという観点で考えた場合も該当する話である。

マーケティングにおけるユーザーインターフェースというとホームページやテレビ CM 等もそうだが、最も代表的なものは販売チャネルであるディーラーということになるだろう。

国内市場の低迷を受け、ディーラーに関しても、業界のリーダーであるトヨタが先導する形で様々な取り組みがなされている。

2005年に日本にも導入されたレクサスチャネルではおてもなしを合言葉にディーラー店舗を高級ホテルのロビーのような空間へと変貌させ、販売員も来訪者から質問がない限り話しかけないようにするなど、レクサスの新規性を従来とは大きく異なるディーラー店舗でもって訴求しようとしている。

また、トヨタはトヨタブランドの全車種をそろえる新業態店舗「オートモール」の展開を開始し、首都圏で大型店舗の出店を加速させている。これも新たなユーザーインターフェース構築の試みといえるだろう。

このようなユーザーインターフェースに関する取り組みは、それが消費者に受け入れられるかは別の話として、少なくとも新規性の訴求には効果があるものと考えられる。

国内市場の低迷は自国車のシェアが高い一方で、市場が伸びないという意味では日系自動車メーカーにとって初めての挑戦になることだろう。言い換えれば QCD に留まらない自動車の新しい価値を訴求することが求められているのであり、そういった状況においては、製品、マーケティングの観点からユーザーとのインターフェースに着目していくことも効果的ではないかと思われる

<秋山 喬>

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