国内市場での下位メーカーの戦い方

◆トヨタ、高級ミディアムSUV「ヴァンガード」発売。264.6万~334万9500円

<2007年08月30日号掲載記事>

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【セグメントとセグメントの間を狙う動き】

トヨタは 8月 30日、高級中型 SUV 「ヴァンガード」を発売した。高度な走行性能と上質なデザインの両立を追求し、「プライベートからフォーマルまで対応できるようにした」(渡辺捷昭社長)という。30~ 40 歳代ファミリー層と 50 歳代夫婦を中心に、年内に1万 4000台の販売を目指す。

ヴァンガードは、「RAV4」の全長を拡大した北米向け RAV4 をベースに開発した国内専用車であり、3 列シート 7 人乗りと 2 列シート 5 人乗りの 2 モデルを設定。全長は 4570 ミリ、全幅は 1815~ 1855 ミリと中型セダンと同等に抑え、取り回しをよくした。

上級車には、排気量 3.5 リッターの V 型 6 気筒エンジンを搭載。走行状況に応じ前後輪のトルク配分とステアリングやブレーキを電子制御する 4 WD システムで走行安定性と低燃費を実現させた。燃費は、3.5 リッター車がガソリン1リットル当たり 9.6 キロ、2.4 リッター車が 12.6 キロ。

トヨタの渡辺捷昭社長はインタビューの中で、「ヴァンガードは「ハリアー」と「RAV4」の間のセグメントを狙っている。幅広い状況で使える新ジャンルの車で、市場に先駆けて投入した。」と述べている。

このように最近、国内市場では既に存在するセグメントとセグメントの間を狙った商品が目に付く。今年の 2月にホンダから発売された国内専用車、クロスロードなども SUV とミニバンの中間に位置づけられる商品であり、SUVでありながら 3 列シートを備えるという構造は今回のヴァンガードにも共通するものである。

【上位メーカーに有利な国内市場】

既存セグメントの間を狙う動きの背景には、成熟化が進み、販売が低迷している国内市場をなんとか活性化させようという自動車メーカー各社の意向が存在する。

筆者は過去に執筆したメールマガジン
(イノベーションは「間」に生まれる)の中で、新たな需要の芽は「間」に潜んでいることについて言及したが、まさに現在の国内市場は顧客ニーズをより細かく分析し、既存のセグメントの間の、より細分化されたセグメントに対して、新たな商品を投入していかないと、なかなか需要が喚起されない状態となっている。

しかし、より細分化したセグメントのそれぞれに商品を手当てしていくという手法はリソースが潤沢な上位メーカーしか採用できないのも事実であろう。

前述したヴァンガードとクロスロードはどちらも国内専用車であるわけだが、メーカーによっては成長する海外市場を抱える中、国内市場でしか投資回収の見込みがない国内専用車を開発することがリソース的に難しいということもあるだろう。

しかしながら、セグメントの細分化とそこへの商品投入が国内市場で需要を獲得するためには必要だとすると、リソースのある者はどんどんシェアを拡大していく一方で、リソースのない者はどんどんシェアを落としていくことになり、市場は一層、寡占化の方向に進むことになる。

実際、2002年度には 42 %だった登録車におけるトヨタのシェアが 2006年度には 48 %まで拡大しているのを見ても、トヨタの一人勝ちの状況が進展していることがわかる。

【国内市場での下位メーカーの戦い方】

では、このような国内市場の状況に対してリソースが潤沢とはいえない下位メーカーはどのように対応していけばいいのだろうか。いくつか方向性を模索してみたい。

まず、守りを固めるという意味では、現在の収益構造を見直し、事業規模を市場に合わせて適正サイズへと縮小するということは必要だろうが、上記のように上位メーカーが国内市場を重視し一層の深堀りを行っている状況においては、守りだけでは国内事業そのものが縮小均衡に陥ってしまう恐れがある。

下位メーカーが国内市場で一定の存在感を発揮し続けようとするならば、上記以外に現在のポジショニングを逆手にとったような攻めの戦略も必要になるものと思われる。

そう考えた際に、まず検討されるのは少ないリソースを広範なセグメントに分散しながら、リーダーに追随していくフォロワーの立場からセグメントを絞り込み相対的にそこに手厚いリソースを投入することで存在感を発揮するニッチャーの立場への転換という発想だろう。

しかしながら BMW のように高級セグメントに絞り込み、十分な収益性を確保するようなニッチャーの立場になることは容易ではない。ブランドが一朝一夕には形成されていかないからである。

このようにニッチ戦略により、一定の存在感と収益性を確保していくのはなかなか困難が伴うものだが、絞込むという手法にはまだ様々な検討の余地があるのではないかと思われる。

異業種の事例で絞り込み方の手法として個人的に関心を持ったものに数年前からアサヒ飲料が発売を行っている「ワンダ モーニングショット」という缶コーヒーがある。この商品はご存知の方も多いと思うが「朝専用」缶コーヒーというのが売り文句であり、朝、例えば出社後に缶コーヒーを購入する際に「朝専用」が消費者心理をくすぐる。

しかし、実はというかやはりというか缶コーヒー自体の売上の 7、8 割は朝の時間帯に集中しているということである。

つまり、顧客から見れば時間帯指定により絞り込んでいるように映り訴求力があるのだが、メーカーの立場からすると 7、8 割の顧客はカバーできていることになるのである。
以上は個別製品単位の話であるが、今後、下位メーカーが自社のポジショニング変更を検討する際には参考になる話ではないだろうか。スズキ、ダイハツといった軽メーカーは軽、小型車に絞り込んでいるわけだが、国内販売の中心が軽、小型車へとシフトしてくるにつれ図らずも上記のワンダ モーニングショットと同様に、絞り込みつつも広い範囲の顧客をカバーするという状況になっている。

そして、今後の自動車市場の変化を考えると絞り込むためのキーワードは軽、小型といった製品セグメントとは限らない。例えば、今後の人口動態の変化を考えると高齢者はどんどん増加してくるだろうし、自動車利用の観点からすると女性が運転を行うケースも増えてきている。また、都市部においては週に一回しか自動車を利用しない人などという絞り込み方をすれば、実際は都市部のほとんどのドライバーが該当してくるだろう。

以上はあくまで例であるが、絞り込み方次第では、ある程度の顧客規模を確保しながら、訴求力を高めるということも可能ではないかと思われる。

【成熟市場ではこれまで以上に強いシグナルを】

また、自社のポジショニングを活かすという観点からすると本来的には下位メーカーこそ既存のルールに囚われない戦い方をしやすいはずである。上位メーカーであればあるほど既存のルールの恩恵を受けて上位に位置しているからである。

そう考えると、例えば、将来に備え、都市部で徐々に顕在化しつつあるカーシェアリングといった所有から利用の動きにメーカーとしていち早く対応するというのも考えられる。
この動きはこれまで所有していたものを利用へと切り替えることにもつながりかねないため、上位メーカーであればあるほど、既存事業との食い合いを懸念するはずである。そう考えると、下位メーカーのほうがより取り組みやすい状況にあるのではないだろうか。
既にオリックス自動車などは主に首都圏にてレンタカー、リース、カーシェアリングを顧客のニーズに合わせて切り替えて提案するという活動を展開し始めており、メーカーとしてこういった動きに追随、提携ということも考えられる。

実際、都市部は公共機関が発達しているため、最初から自動車を所有する意思がなく、そのまま所有に至っていない世帯も多いと想定される。そういった世帯が利用により車の利便性を感じ、所有することを検討するケースも出てくるかもしれない。

また、下位メーカーは消費者にブランドこそ認識してもらっていても、購入検討の段階までは残ってこないということもあるだろう。これも利用を通じてXXXの車はいいという声が上がってくるかもしれない。

いずれにしても成熟市場は上位者優位の市場環境である。自動車という製品自体への関心を失いつつある消費者は次第に積極的な情報収集を行わなくなり、シェアや販売ランキングといったものに左右される結果、えてして日常、目に触れることが多く、信頼できそうな上位メーカーの製品を盲目的に選びがちである。

成熟市場では下位メーカーこそ自らのポジショニングを活かしたシグナルを送り、その存在を消費者から認知してもらうことが必要だろう。

<秋山 喬>