消費者の先進技術に対する考え方と技術マーケティングの必要性

◆「自動車の先進技術」に対する認知度・興味度・購入意向に関する調査

<2007年10月04月号掲載記事>

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【先進技術調査結果の概要】

CS (顧客満足度)に関する調査会社である J.D.パワー アジア・パシフィックは、「2007年日本先進技術調査」の結果を発表した。

本調査は、過去 5年以内に新車を購入した一般の自動車ユーザーを対象に 46の先進技術・装備に対する認知度、価格提示前の興味度、価格提示後の購入意向を調査したものである。

その結果、興味度と購入意向の双方が平均以上だったのは 14 の技術・装備で、安全技術ではエアバッグ関連の技術、環境技術ではハイブリッドエンジンの支持が高かった。

そして前述の 14 の技術のうち特に双方の値が高かったのは「フロント・サイド・エアバッグ」「リア・サイド・エアバッグ」「サイド・カーテン・エアバッグ」「多段式エアバッグ」「HID ヘッドランプ」「ハイブリッドエンジン」「キーレス・エントリー・システム」「データ通信モジュール」の8つの技術であった。

また、環境関連の技術としては、「ハイブリッドエンジン」「クリーン・ディーゼル・エンジン」「ツイン・チャージャー付小排気量エンジン」「気筒休止機構付きエンジン(可変シリンダーシステム)」「クラッチレス手動変速機(2 ペダル MT)」「多段自動変速機」の 6 つの技術を調査したが、そのうち、興味度、購入意向の双方が平均を上回っていたのは「ハイブリッドエンジン」のみであり、環境関連技術としてはハイブリッドエンジンが突出して支持を得ていることがわかった。

【興味度×購入意向のマトリックスによるグルーピング】

他にどんな技術を調査したのかといった詳細については J.D.パワー社のプレスリリース(http://www.jdpower.co.jp/)をご覧頂くとして、調査結果の概要だけを見ると、消費者は安全技術でいうとエアバッグ関連の技術の購入意向が高く、環境技術でいうとハイブリッドエンジンの購入意向が高いということになるが、より潜在的な消費者の考え方を把握するために、プレスリリースで公表されていた 46 技術それぞれに対する興味度と購入意向の数字を用いて、もう少し突っ込んだ結果の分析をしてみたい。

具体的には興味度と購入意向をそれぞれ縦軸と横軸にとってマトリックスを作成し、各技術をマトリックス上にマッピングしたうえで、縦軸、横軸ともに平均値の線を引くことで、46 の技術を 以下の 4 つのグループに分類した。

「グループ1」
興味度が高く、購入意向も高い。(興味度:平均以上 購入意向:平均以上)
→このグループに属する技術は、技術そのものに対する消費者の興味・関心が高く、価格を踏まえても購入意向が高い。

「グループ2」
興味度は高いが、購入意向は低い。(興味度:平均以上 購入意向:平均未満)
→このグループに属する技術は、技術そのものに対する消費者の興味・関心は高いものの、現時点での価格がまだ高いこともあって、購入意向は低い。

「グループ3」
興味度は低いが、購入意向は高い。(興味度:平均未満 購入意向:平均以上)
→このグループに属する技術は、技術そのものに対する消費者の興味・関心はそれほど高くないが、価格がリーズナブルであることを踏まえ、購入意向は高い。

「グループ4」
興味度が低く、購入意向も低い。(興味度:平均未満 購入意向:平均未満)
→このグループに属する技術は、技術そのものに対する消費者の興味・関心がそれほど高くなく、価格を考慮しても、購入意向が低い。

【グルーピング結果と意味合い】

そして、それぞれのグループに属する代表的な技術を列挙すると以下のような結果となった。

「グループ1」=興味度が高く、購入意向も高い
冒頭で挙げたエアバッグ関連技術、ハイブリッドエンジンといった 8 つの技術に加えて、「死角警報システム」、「アクティブ・コーナリング・ヘッドライトシステム」、「車両姿勢制御システム」、「対侵入者防衛装置」といった既に普及の進みつつある安全、安心に関わる技術がグループ 1 に属する。しかしながら、このグループに属する安全技術はどちらかというとエアバッグをはじめとした衝突安全技術が中心である。

「グループ2」=興味度は高いが、購入意向は低い
「ナイトビジョンシステム」、「衝突回避及び被害緩和システム」、「前方衝突警告システム」、「車間距離自動調節機能付クルーズコントロール」、「タイヤ空気圧モニター」、「セルフシーリングタイヤ」、「ランフラットタイヤ」といった予防安全に関わる先進的な技術がグループ 2 に属する。

「グループ3」=興味度は低いが、購入意向は高い
「リアパーキングアシスト」、「ウインドウォッシャーヒーター内蔵ワイパーシステム」、「ノイズキャンセルシステム」、「ポータブル型簡易カーナビゲーションシステム」、「ホームコミュニケーションシステム」といった快適・利便性に関わる技術や、「ニーエアバッグ」、「むち打ちダメージ軽減シート」、「アクティブロールオーバープロテクション」といった万が一の事故に備えた衝突安全技術がグループ3に属する。

「グループ4」=興味度が低く、購入意向も低い
「クリーン・ディーゼル・エンジン」、「多段オートマチック・トランスミッション(多段 AT)」、「クラッチレス・マニュアル・トランスミッション(2 ペダル MT)」、「ツイン・チャージャー付小排気量エンジン」、「気筒休止機構付エンジン」といった環境技術や、「車線逸脱警告システム」、「居眠り運転防止システム」、「飲酒運転防止装置」といった万が一に備えた予防安全技術がグループ 4 に属する。

以上のグルーピング結果を見てみると、安全技術に対する消費者の興味・関心が特に高いことがわかる。購入意向が伴っているものはグループ 1 に属するエアバッグ関連を中心とした衝突安全技術であるが、グループ 2 に属する先進的な予防安全技術についても、現在では価格の問題があり購入意向まで至っていないものの、将来的には潜在ニーズが大きいといえる。

また、快適・利便性を向上する技術についてはキーレスエントリー、データ通信モジュールがグループ 1 に属しており、その他は主にグループ 3 に属しているということから分かるとおり、それほど興味・関心が高いわけではないが、安全技術等に比べるとそれほど大掛かりでなく価格も高くないため、あれば便利ということで購入意向が高くなる傾向にある。

そして、環境技術であるが、これはハイブリッド以外はグループ 4 という意外な結果になった。かといって、これは消費者が環境、特に燃費に関心がないということを示すものでは勿論ないだろう。燃費については他の安全、快適・利便といった他の技術領域と異なり、クルマ全体としての総合的な燃費が算出され、カタログに掲載される。消費者にとっては、それこそが重要であり、それを実現するための個々の技術についてはさほど興味・関心がないということではないだろうか。

【技術マーケティングの必要性】

以上のような消費者の考え方を踏まえても、技術を普及させていく側の自動車業界には商品だけでなく技術もマーケティング対象として扱うという発想が必要なのではないかと思われる。

つまり、全ての技術を同様に扱うのではなく、それぞれの技術を消費者からの見え方や技術の特性に合わせて色分けをしたうえで、技術開発の方向性や消費者へのアピールの仕方を変えていくという発想である。

今回の調査でも明らかになっているがハイブリッド・エンジンは技術マーケティングが上手くいった例だろう。技術マーケティングの効果により、環境技術の中でのハイブリッド・エンジンに対する消費者の認知度、支持の高さは突出したものになっている。

また、ハイブリッド・エンジンの対抗ともなるクリーン・ディーゼルは別として、その他の改善型の環境技術については、今回の調査結果を踏まえると、個々の技術を消費者に対してアピールしていったとしても、それほど効果を生まない可能性がある。それは前述したようにクルマ全体としての燃費が重視される、という点もあるし、自動車の機構内部の話でもあるので、一般消費者にはなかなか伝わりにくい、といった特性が関係している。
一方で、安全技術については消費者の興味・関心が現状、及び潜在的にも高い分野でもあるので、積極的に個々の技術をアピールしていくことが効果的ではないかと思われる。また、現在、先進の安全技術は高級車から搭載されていくのが一般的な流れとなっているが、ハイブリッド技術の認知度がプリウスの登場により飛躍的に高まったことを考えると、技術普及の観点からは安全技術におけるプリウス的なクルマ、安全技術をフィーチャーしたクルマがあっても面白いのではないかとも思う。

現在の新車市場は全体としても縮小しているうえに、その内訳も小型車が中心になりつつあり、新技術の開発は業界内では進んでいてもそれをなかなか価格転嫁できないというのが実態だろう。そのような状況を踏まえると、今後、消費者に財布を開いてもらうためには効果的な技術マーケティングも必要になってくるのではないだろうか。

<秋山 喬>