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コラム

ダイバーシティ(多様性)・マネジメントを行う前には自らの再定義を

◆女性が望むクルマの追加機能。1位は「運転席でも日焼けしない」

<2007年10月29日号掲載記事>

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【女性の気持ちは分からない?】

NTT 系列のポータルサイトである goo が「goo リサーチ」登録モニター 1093名を対象に行った「女性からみて車に追加して欲しい機能」に関するアンケートによると「運転席でも日焼けしない」が 2 位以下に大差をつけて 1 位になったという。

ちなみに 2 位は「減らないタイヤ」。以下 10 位まで、「苦しくないシートベルト」、「肌がうるおう (アロマミスト装備)」、「手が汚れない、給油口」、「オイル交換のタイミングをアナウンス」、「足がむくまない」、「オーディオがシンプルで、良い音」、「自動ブレーキ装置」、「自動オイル交換」の順で続く。

これだけでも男性にとっては思いもよらない内容であるが、さらに 10 位以下には「自分の顔を見るための鏡が付いている」(12 位)、乗降時に足を広げなくていいように座席が回転する(16 位)といったような女性の視点ならではの回答がランクインしている。
私は男性であるので女性はそういったことを気にするのかと、このアンケート結果に驚き、家内にその話をしたところ、当たり前だといわんばかりの反応が返ってきた。

その反応に再度驚くと同時に、このような男女の違いがもたらす驚きはおそらく氷山の一角であろうから、自分が自動車メーカーの商品開発担当者だったとすると、女性のニーズを知るためにいくらマーケティングリサーチを頻繁に行ったとしても、とても全てのニーズを拾い切れそうにない、との感想も持った。

【注目されるダイバーシティ(多様性)・マネジメント】

このような類の話は男女の違いだけでなく、年齢の違いや国籍の違いについても起こってくるものであろう。片方の側には当たり前のことであっても、もう片方の側には当たり前のことではなく、それを説明してもらったとしてもいまいちピンとこない。

しかし、日本の自動車メーカーは今後、世界の市場を相手にしていくうえで、このような違いに向き合っていかなければならないこともまた事実であろう。

日本を含む先進国市場は市場が成熟し、セグメントがこれまで以上に分散化してくるため、それぞれのセグメントのニーズに合わせた商品を投入していくことが求められる。

一方で、今後の成長市場である新興市場においては、これまでの先進国市場の常識では想像できないようなニーズや慣習があったりもするだろう。

そう考えると、そのようなギャップを把握するために都度マーケットリサーチを行うというのも勿論有効だろうが、それ以上にギャップの相手(女性や若年層、老年層、現地人材、等)を自社の内部に取り込んでしまうというアプローチが重要になってくるだろう。外部の多様性に向き合うために内部にも多様性を備えるという考え方である。

このような観点から近年注目されているのがダイバーシティ(多様性)・マネジメントという考え方である。

元々、ダイバーシティ・マネジメントの概念は、1960年代にアメリカで生まれ、当初は人種的マイノリティへの差別に関連した賠償によってかかる負担を減らすために必要な施策、という考え方が主流だった。その後、1980年代に入ると、主に CSR の積極的施策の一環として社会に向けた企業イメージの向上のために行われてきたが、現在注目されているのはそれらとは異なる観点からである。

現在のダイバーシティ・マネジメントは、人種、年齢、性別、出身業界、生活環境、文化的背景、等、多様な価値観を企業の活動に取り込むことによって、成果に結び付けようとすることが目的であり、多様になった市場のニーズに対応するために、企業側も多様な人材を活用し、彼らの持つ多様性を競争力の源泉として積極活用していくことに主眼が置かれている。

自動車業界では日産がトップのイニシアチブのもと、ダイバーシティへの取り組み姿勢を強めている。日本市場では自動車購入の意思決定の 60 %に女性が関与しているという事実を踏まえ、商品やサービスの魅力を高める為にダイバーシティデベロップメントオフィスを設置し女性社員の活用に取り組んでいる。

【多様性と均一性、標準化の両立】

その一方で、これまで企業内における均一性、標準化というのが日本の産業界、及び自動車業界にとっての強みであったのは言うまでもない。誰がどこで業務を行ったとしても同様の水準が保たれ、その均一性ゆえに物事を暗黙の了解の下に迅速に進めることができるということは大きな強みであった。

では、はたして、均一性、標準化というこれまでの日本企業の強みとダイバーシティ・マネジメントという考え方をどのように両立させていったらよいのだろうか。この問いを考える上で均一性、標準化を体現しているトヨタが生産分野で行った取り組みは示唆的な事例となる。

トヨタでは従来、個々の日本の工場がマザープラントとなって海外生産拠点を支援するというマザープラント方式を採用してきたが、海外での生産台数が急増するにつれ、従来のマザープラント方式の問題が生じてきつつあった。

それは国内工場がそれぞれ独自にため込んだノウハウをベースに教育するため教え方が首尾一貫しないという問題もあったが、それ以上に深刻なのは、今後も日本が全ての海外工場の支援をするという方式ではとても人員が足りないという現実である。

そこで 2003年に国内の負荷軽減と海外拠点の自立化を目的にグローバル生産センター(GPC)が設立された。GPC では海外工場への技能教育の内容を徹底的にマニュアル化、一元化したのに加え、北米、欧州、豪亜の 3 極にも支店を設置した。これらの施策により海外法人を自立化させ、その海外法人が、また新たな海外拠点を自立化へと導くという好循環をつくるのが狙いといえる。

このトヨタの事例ではこれまで日本のみが担ってきた教育機能を海外の支店にも任せることにした、つまり多様性を受け入れるダイバーシティ・マネジメントを行ったわけである。そして、それに先立ち、徹底的なマニュアル化により均一性の保持、業務の標準化をこれまでより一段高いレベルで行った。

この事例が示唆しているのは、今後、労働力人口の減少も予想される日本企業が成長を志向していくのであれば、いやがおうでも多様性を受け入れていかざるをえないということであろう。そして、多様性を受け入れる事前準備としては、多様性を束ねるために改めて企業内の均一性の保持、及び業務の標準化を行う必要があるということである。

【多様性を束ねるもの】

これまで、多様化する市場に対応する意味でも、労働力人口の減少に対応する意味でも、今後、日本企業はダイバーシティ・マネジメントを行っていくことが必要であり、それを行う前段階として、自分達が何を重視して、何に価値を感じ、何を目標にしている集団であるのかといった企業内部のより根底に近い部分での均一性、標準を再定義する作業が必要なことについて言及した。

そのような判断の際の拠りどころのようなものがしっかりと定義されない状態で多様性を受け入れると、結局は皆がそれぞれの価値観に基づいて好き勝手なことを行うバラバラな集団になってしまうからである。

全社レベルで考えると、普段、我々がお題目的に捉えがちな経営理念やミッション、企業文化等のテーマが重要なのもこの点にある。共有された価値観が多様な考え方の人材を束ねていく役割を果たすことになる。

今後、更なる成長やグローバル化によってダイバーシティ・マネジメントを行う必要に迫られる自動車業界にとってはその前に自らを再定義する機会を持つことが有益だろう。

<秋山 喬>

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