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コラム

販売チャネルを改革する際には将来における柔軟性の担保を

◆日産、販売車種のタイプ別ごとに販売店網を再編へ

                    <2007年11月22日号掲載記事>

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【国内販売チャネル改革をリードする日産】

 日産自動車は車のタイプ別に販売店網を再編する。これまでは近接する店舗が似通った品ぞろえで顧客獲得を競っており、日産全体の販売を拡大するのが難しかったため、ミニバンを集中的に展示・販売する店舗、小型車中心の店舗などに明確に色分けし、顧客の好みの多様化に細かく対応できる体制にする。

 まず愛知、静岡、三重の東海 3 県で再編に着手する。11月に入り浜松市の幹線道路沿いに隣接する 4 つの店舗をそれぞれ「小型車・軽自動車店」「多目的スポーツ車(SUV)店」「スポーツ車店」「ミニバン店」に衣替えし、特定のタイプを中心に展示・販売するようにした。販売担当者の研修制度も見直し、車のタイプごとに専門的な商品知識を持たせるという。

 日産は 2005年以降、国内販売チャネル改革を他社に先駆けてユニークな形で進めてきた。

 2005年 4月にはブルーステージとレッドステージとで全車種併売を開始し、実質販売チャネルを一本化した。その後、2006年 4月には、連結販社 52 社(当時)を販売事業会社と資産管理会社に分割し、7月には日産ネットワークホールディングスを設立、各資産管理会社を統合した。2007年 3月には全国 10 の地域統括会社設立、及びゾーンスーパーバイザー制導入を発表し、2007年 6月には地域統括会社の第一弾として東海日産を設立している。

 これら一連のネットワーク施策は全社的にも目標として掲げている ROIC の向上と店舗重視のマネジメント体制への移行ということで整理することができる。

 現在、日本の自動車市場は縮小傾向が続き、日産に加えホンダもチャネル一本化に踏み切っており、複数チャネルを維持できているのはトヨタのみとなっている。今回の施策は車のタイプ別という切り口ではあるものの、かつての複数チャネルへの回帰とも受け取れる内容である。
【メーカーの視点からの狙い】

 とはいえ、これまで変化する自動車市場に合わせてネットワーク施策を展開してきた日産が自動車市場が上向かない状態で単純に過去への回帰を図ることはないだろう。ということで今回の施策についてメーカーである日産の視点からの狙いを推察してみたい。

 今回の施策の主な狙いは都市部や地方といった地域ごとの自動車保有目的の違いやニーズの違いに応じて、各タイプそれぞれの店舗配置を行うことで、全体での店舗数を増加させることなく、台数増を達成したいというところにあるのではないだろうか。

 現在、自動車保有の目的は公共交通インフラの発達した都市部では自己表現手段や家族の移動の手段、地方部では個人としての移動手段というように地域によって異なってきており、それに伴い、ミニバンの販売台数は都市部が多く、地方では軽、小型車の比率が高いといったような傾向が強まってきている。

 そういった違いに対応するため、例えば、都市部では「ミニバン店」の比率を多くしたり、地方では「小型車・軽自動車店」の比率を多くしたりといった地域のニーズに合わせた柔軟な店舗配置をすることが今回の施策により可能になる。

 加えて、報道はされていないものの、例えば「小型車・軽自動車店」であればそれほど大規模な店舗にしないなど、店舗のタイプごとに店舗の設備やレイアウトといった店舗標準を規定し、どのタイプの店舗であっても販売する車種に合わせて採算が確保できるようにすることも狙いとしては想像される。
【顧客の視点からの影響】

 続いて、今回の施策が顧客にもたらす影響を推察してみると、いくら地域のニーズに応じた店舗配置がなされたとしても、全店舗で全ての車種を購入することができる現在からすると利便性が低下することは間違いないだろう。(完全に併売制を撤廃するわけではないかもしれないが。)

 一方で、自動車購入を予定する顧客の殆どがある程度購入したい車のタイプを特定してからディーラー店舗を訪問することを考えると、車のタイプごとに専門的な商品知識を持った販売員からのきめ細やかなケアが受けられるというのは今回の施策導入によるメリットとなるはずである。

 以上、メーカーの視点からの狙いと顧客の視点からの影響の双方を勘案すると、今回の施策が顧客に受け入れられ台数増に結びつくかどうかのポイントは各地域のニーズに合わせた適切な店舗配置が可能か、という点と、車のタイプ別に特化した強みを顧客の利便性の低下以上にアピールできるか、という点にかかっているといえるだろう。

 特に後者の、車のタイプ別に特化した強みを顧客の利便性の低下以上にアピールするというのは顧客の支持を得るにあたっては重要であり、今後、それをより明確な形で訴求するような追加施策が展開される可能性もあるものと思われる。
【ディーラーの視点と迅速な施策導入を可能にしたもの】

 また、自動車の流通施策の導入を考えるうえではメーカー、顧客以外にディーラーというステークホルダーの存在を忘れてはならない。ディーラーにとって今回の施策はどのような意味を持つのであろうか。

 まず、車のタイプ別の店舗とすることで、純粋に商品知識の習得や顧客に対する接客といった点で販売現場は取り扱う車種の販売に注力しやすくなるという効果が想定される。
 一方で、タイプ別店舗による収益性の格差や顧客の利便性の低下に関しては、ディーラーとしても意見のあるところであろうし、一口にディーラーといっても各社で経営者が異なることを考えると、今回の施策導入に関しても様々な見解があったとしても不思議ではない。

 販売チャネル改革を推進するメーカーの立場からすると、通常このような各ディーラーに対しての説明や同意取り付けには大きな労力を費やし、場合によっては施策導入にあたっての障壁にもなりうるものである。

 しかしながら、今回の施策が、限定的とはいえ、既に実行にまで移されたのにはこれまでに展開してきた一連のネットワーク施策が大きく影響しているのではないかと思われる。

 というのもこれまでの店舗重視のマネジメント体制を目指した一連のネットワーク施策により、従来のディーラーという企業体こそ残っているものの、店舗配置や出店の意思決定に関しては、メーカーの分身ともいうべき日産ネットワークホールディングスや地域統括会社の発言力、影響力が大きくなってきていると推測されるからである。

 実際、今回の施策についても 2006年 7月に設立された東海日産のお膝元である愛知、静岡、三重の東海 3 県でまず実行に移されている。

 つまり、一連のネットワーク施策により販売チャネルのマネジメント体制が整備され、メーカーとしてはマネジメントし易く自社の意思に基づいた迅速な実行が行いやすい環境ができつつあるということが今回の施策導入にも寄与しているのではないだろうか。
【販売チャネル改革に求められる柔軟性の担保】

 販売チャネルは企業内部だけでなく外部のステークホルダーも巻き込むものであるため、一度構築してしまうと頻繁には変更することができず、変更する際には様々なコストを伴うという特性を持つ。

 その意味で、弊社の親会社であるアビームコンサルティングが得意とする業務システムの導入、構築とよく似ていると感じる。システムも一旦構築してしまうと頻繁には変更ができないし、大規模な変更を行おうとすると多額のコストがかかる。

 そして、現在の環境下において十分に環境に適合したものを構築したとしても、業務内容や市場といった環境の変化により、将来的には必ず環境に不適合なものになるときが来るという点も共通している。

 システムの場合、数年前に ERP 導入ブームがあった際の売り文句の一つは自前でのシステム構築と違って将来の柔軟性が確保されるということであった。

 今回の日産をはじめとして現在、各自動車メーカーが販売チャネル改革に取り組んでいるが、その際にはマネジメント体制の整備に代表される柔軟性を担保する仕組みを改革項目の中に組み込んでおき、販売チャネルを将来、環境の変化が再び起こったときに柔軟に変更できるようなものにしておくことが必要だろう。

<秋山 喬>

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