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コラム

「となるとどうなる?」を繰り返すとどうなる?

 

◆九州での4輪車生産台数、「2008年度にも150万台を突破する」

                    <2007年12月9日号掲載記事>

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【カーアイランド化が進展する九州】

 自工会会長も務めるトヨタの張富士夫会長は、福岡で開催中の「福岡自動車博覧会」の講演で、昨年度約 100 万台だった四輪車メーカー各社の九州での生産台数が「2008年度にも 150 万台を突破する」との見通しを明らかにした。これは国内総生産台数(06年度で 1150 万台)の 1 割を超す規模となる。

 九州は行政機関による積極的な誘致活動や 1976年に日産が初めて九州で車輌組立を開始して以降の産業集積、そして人材採用が比較的、容易といったことを背景にここ数年で自動車メーカーの進出、増産が相次いでいる。

 トヨタ、日産、ダイハツの 3 社が既に九州にて車輌組立を行っているが、これまで九州の生産台数はいくつかの段階、背景を経て変化してきた。

 まず、1995年にトヨタ九州の稼動が本格化したことによって生産台数が 50 万台を突破した。その後 2000年前後に、トヨタ、日産ともに生産調整や車種変更が起こったことで生産台数は一時減少したが、それ以降、トヨタ、日産がともに九州を輸出拠点と位置づけたことにより 2006年の 100 万台レベルまで生産台数は増加してきた。

 一方で、各自動車メーカーの現地調達率は 50 %前後に留まっていると言われている。また、現地調達している部品の内訳を見るとかさばって重量のある内外装部品が中心であり、機能部品は、域外からの調達が多いのが現状である。
【生産の高機能化も同時進行】

 しかしながら、近年、生産台数の拡大に加え、トヨタを中心に高機能な製品、コンポーネントを九州で生産するという動きも強まっている。

 例えば、2005年にはハイブリッド車やレクサス IS の生産も開始し、福岡県苅田市にエンジン工場も新設した。国内において愛知県以外でエンジン生産を行うのは初の事例である。更に、将来的にはハイブリッド車用部品工場を北九州市に新設することも発表されている。

 そして、これらの動きに呼応して、今後、これまで域外からの調達が基本であった機能部品分野におけるティア 1 部品メーカーの進出や現地調達が促進される可能性も出てきた。

 更に、九州は、国内の集積回路生産量の 1 / 4 以上を占めるなど現在の自動車産業の盛り上がり以前から、シリコンアイランドとして強みを有しており、今後は、車両の電子化とも相まって電装品分野を中心に既存の産業集積活用を期待する声もあがっている。

 だが、電装品を含む機能部品は納入先との開発段階におけるコミュニケーションが必要とされる部品分野でもある。自動車メーカーやティア 1 部品メーカーの開発機能が本州に残ったままの状態では開発時のコミュニケーションも取りづらく、九州の産業集積活用、及び更なるカーアイランド化の障壁となる可能性もあった。
【開発拠点移管の「なぜ」と「となるとどうなる」】

 このような状況の中、トヨタ九州は先月末、2010年代半ばまでに福岡県宮若市の宮田工場に車両開発拠点を設けると発表した。 新拠点の陣容は約 200 人の予定で、年内にも現地で採用活動を開始する予定とのことである。

 また、トヨタ九州の渡辺顕好社長はテレビのインタビューの中で、将来的にはハイブリッド車開発の一部分を担っていく可能性や、九州発の車を生み出していく可能性についても示唆している。

 このようにトヨタが九州に開発拠点を設けるのは「なぜ」だろうか。北米、欧州といった海外の開発拠点とは違い、より市場に近いところで開発を行うというほど国内の中で市場が異なるわけではないし、そもそも現在の九州は輸出拠点である。

 各種報道によると、トヨタ九州が車体の開発体制を整えるのは、生産と開発の一体感を強めて新型車の生産準備期間の短縮などを進める狙いのほか、トヨタの本拠地である中部地区で難しくなっている技術者の確保の問題が理由として挙げられている。

 実際、九州には理工系の大学が多く、今月に入り九州大学が自動車産業に特化した大学院の専攻新設の構想を明らかにしたほか、北九州市が北九州学術研究都市で車載用システムの専門講座開設を決めるなど地元の大学や自治体もすでに自動車の開発技術者を含めた人材育成に力を入れている。

 では今度は逆にトヨタが九州に開発拠点を設ける「となるとどうなる」だろうか。

 まず、第一に部品メーカーの開発拠点の移管が進むことが想定される。

 先週のニュースを見ても、早速、カナダの自動車部品メーカー、マグナイ・ンターナショナルが今後、九州での開発センターの検討を行うことを明らかにしている。

 また、部品メーカーが開発拠点を移管することが予想されても、各部品メーカーの考え方や移管のタイミングにはばらつきがあるであろうから、系列にこだわらない取引が進展する可能性がある。実際、既に九州では系列に縛られない取引が行われつつあり、先ほど触れたマグナ日本法人社長の三原聖一氏も「系列を超えた取引が多く、九州は外資メーカーにとって魅力的」と述べている。

 更に「となるとどうなる」を考えると、このように部品メーカーも含めた開発拠点の集積が進むことで雇用が創出され、地域経済がこれまで以上に活性化されることも想定される。もしかすると経済活性化により新車販売も好転し、結果的に、現在、多くの自動車メーカーで頭を悩ます九州地区の新車ディーラーの経営状況が改善されるいうことにつながるかもしれない。自社の開発部門が行った決定が、めぐりめぐって販売部門に影響を与えるというような格好である。
【「となるとどうなる」かを考えることで将来を見通す】

 ここまでざっとではあるがトヨタが九州に開発拠点を移管したことを題材に「なぜ」と「となるとどうなる」に言及してきた。

 言うまでもなく世の中のあらゆる事象には厳密もしくは、緩やかな因果関係が存在している。

 現在、世界中にその影響を及ぼしつつあるサブプライムローン問題を例にとると、サブプライムローン問題により行き場を失った投機資金が原油に向かい、一層の原油高をもたらし、原油高はガソリン価格の高騰という形でハイブリッドカー、プリウスの人気再燃を後押ししている。実際、2007年 1~ 9月のプリウスの全世界販売台数は約 21 万台と、2006年の通年実績を既に 14 %上回っており、特に北米での伸びが著しいという。

 また、ブルームバーグの報道によると米国では住宅ローンと並ぶ自動車ローンの分野でも焦げ付きが急増しているとのことであり、これもサブプライムローン問題と無関係ではないだろう。

 日本の自動車業界においては「なぜ」を繰り返すことは既に業界常識として一般化しているが、それとともに今後は「となるとどうなる」を繰り返すアプローチも推薦したい。
 「なぜ」は既に起こった事象の原因を探るアプローチであるのに対し、「となるとどうなる」は今起こっている事象が将来にどんな影響を及ぼすかを探るものである。

 将来を考えるアプローチであるゆえに、必ず「そうなる」とは限らないものの、不確実性を増す状況の中で新しいものを生み出す局面においては将来に向けて世の中や消費者の動きに仮説を立てて行動していくのは有効なアプローチではないかと思う。

 自動車業界を見渡しても、低価格車や、ハイブリッド車をはじめとする環境技術、国内若年層の車離れなど先行きが不確実な様々な事象が発生している。このような不確実な環境の中で「低価格車が普及するとなるとどうなる?」「ハイブリッド車が一般化するとなるとどうなる?」「若年層の車離れが更に進展するとなるとどうなる?」というように「となるとどうなる」かを考え、それを繰り返していくことで、将来に対する示唆、及び自社が進むべき方向性のヒントが得られるのではないだろうか。

<秋山 喬>

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