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コラム

ハイブリッド車普及時代における先駆者としての心構え

◆米デトロイト自動車ショーが開幕、環境対応車や高性能車が続々

◆インド・タタ自動車の低価格車「ナノ」、「予想以上」と『衝撃』に揺れる

                    <2008年01月14日号掲載記事>

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【タタ自動車「ナノ」公開のインパクト】

 先週 1 週間のニュースを振り返ってみると、2008年 1月 13日に開幕したデトロイトモーターショー関連のニュースと、 2008年 1月 9日にインド、ニューデリーで開幕したデリーモータショーにて公開されたタタ自動車の超低価格車「ナノ」の余波ともいえるニュースが目に付いた。

 超低価格車「ナノ」については公開以前はスクータに覆いを付けたレベルではないかという業界内の見方も多かったが、実際に公開されたあとでは予想以上にしっかりとした「自動車」であったと見る向きが大勢を占めているようである。

 勿論、パワステやパワーウインドウが付いていないとか、ABS 、サイドカーテンエアバッグや後席シートベルトが付いていないとか現在の通常の自動車が持つ機能水準を満たしてはいないが、約 28 万円という価格と経営的な割り切りの結果ということであれば、十分納得のいくものであろう。

 タタグループのラタン・タタ会長によると今後、数年間は国内市場に注力するものの、その後は同モデルをアフリカ、中南米、東南アジアでも販売する方針で、タイでの生産も視野に入れているとのことであるから、将来的には他の新興国にもこの価格帯の自動車市場が形成される可能性が出てきた。

 タタ自動車以外でこの超低価格帯に参入すると発表しているのは日産・ルノー・バジャジオート(インドの二輪車大手)連合のみであるが、その上の約 70~ 80 万円の低価格帯には トヨタ、ホンダ、GM、フォードなど世界の主要な自動車メーカーが参入を発表しており、拡大するであろう超低価格帯市場からの乗り換えの受け皿となってくることが予想される。

 つまり今回の「ナノ」の発表をはじめとする各社の一連の低価格車への取り組みにより、自動車の普及水準も下がり、新興国のモータリゼーションがこれまで以上の速度で進展していくことになるだろう。
【環境対応車の普及も加速する】

 一方で、今年のデトロイトモーターショーは昨今の原油高の影響もあり各社から環境対応車及び環境技術への取り組みが発表され、さながら環境対応車の発表会のような格好となった。

 トヨタは小型ピックアップトラックのハイブリット試作車「A-BAT」を発表したほか、現在は「プリウス」 1 車種にとどまっているハイブリッド専用車について、来年のデトロイトモーターショーショーで「トヨタ」ブランドと「レクサス」ブランドで各 1 車種を新たに公開すると発表した。また、プラグインハイブリッド車を 2010年までに実用化することもあわせて発表した。

 また、ホンダは今後数年間にハイブリッド小型車の新モデル 2 種の発売を予定していることを発表したほか 2010年までに同社世界販売の 10 %をハイブリッド車とする目標を発表した。また「究極の解決策は燃料電池車だ」として、燃料電池車を排ガス浄化と低燃費化の新しい世界標準を確立する技術と位置づける考えも表明した。 

 そしてビッグ 3 はというと GM が 2年後までにハイブリッド車を 9 車種まで拡大するとの計画を明らかにしたほか、フォードも、小型車と SUV のハイブリッド試作車を公表した。また、クライスラーは「ダッジ」のピックアップトラックに、ハイブリッド車を導入すると発表した。

 市場は顧客のニーズだけでなく、各自動車メーカーの施策によってつくられる部分もあるため、上述したような各メーカーによる環境対応車への取り組みを考えると環境対応車が普及する速度が今後加速していくことが予想される。

 また、前述した新興国のモータリゼーションの加速により、世界の自動車産業が環境に及ぼす負荷は今以上に大きくなり、環境問題への早急な対応が自動車産業に求められるようになることも環境対応車の普及を後押しするだろう。

 実際、2006年に新車販売台数で日本を抜いたばかりの中国市場は 2008年には 1000 万台を超えることが予想され、日本の 2 倍近い市場となる見込みである。一旦、モータリゼーションが始まると新興国市場の成長のスピードは早い。

 それに加えて、過去の日本をはじめとする先進国においては順番にやってきた工業化社会と情報化社会が、中国においては同時並行的に進展しているように、新興国の自動車市場ではモータリゼーションと環境対応車の普及が同時並行的に進展していくことも予想される。そうなるとすると新興国自体が近い将来、環境対応車のマーケットとなる。

 以上のような要素を考慮すると、環境対応車の普及も今後、加速度的に進展していくことが考えられる。
【先駆者は安泰か】

 このような環境対応待ったなしの状況において、デトロイトモータショーにおける各社の発表を見ると、当面、環境対応車というとハイブリッド車が主流となって普及が進んでいきそうである。

 ハイブリッド車では 1997年に初代プリウスを発売開始して以来、トヨタが世界的に先行しており、先駆者としてのブランドも確立している。モータやバッテリといった基幹部品を内製しており、日本にはそれを支える優れた技術を持つ電子部材メーカーもそろっている。一見すると、先駆者としての立場は将来的に安泰のようにも見える。

 しかしながら、先駆者は競争上、有利な立場にあることは間違いないが市場が成長する過程においてその状況がひっくり返された事例は世の中に多数存在する。薄型テレビを例に出して、あえて少しひねた見方をしてみたい。

 2000年前後から始まった旧来のブラウン管テレビから薄型テレビへの代替の過程においては、元々、環境対応車同様に液晶、プラズマ、リアプロジェクションなどの方式が優位性を競いあって乱立している状態であった。

 だが 2004年くらいに液晶が他の方式から一歩抜け出し、ハイブリッド車同様、薄型テレビにおける主流となっていた。その中で、液晶パネルの内製による垂直統合モデルを確立したシャープが先駆者としてのブランドを確立して、2004年時点で世界シェアの 30 %近くを保ち圧倒的首位に立っていた。

 実際、日本国内においては液晶テレビというとシャープの AQUOS というイメージが消費者に浸透しているのではないだろうか。

 だが、その後シャープの一人勝ちという状況には変化が起こる。液晶テレビの主戦場が日本から北米、欧州、更には中国へとシフトしてくのにつれて、垂直統合にこだわったシャープは、市場の拡大にパネル供給能力が追いつかず、また、シャープブランドのグローバル市場における相対的な弱さもあり、2005年第 4 四半期にはソニー、フィリップスに抜かれ、その後、サムスン電子も加わり、現在の世界シェアは混沌としている状態である。
 更に、2007年第 3 四半期現在、主要な市場である北米でシェアトップに立っているのはシャープでも、ソニーでもサムスンでもなく、2006年までは全くの無名ブランドであった Vizio 社である。

 Vizio 社が躍進した理由は低価格の製品と強力なセールス・チャネルの組み合わせである。Vizio 社はいわゆるファブレスメーカーであり、世界各国から部品を買い集めてきて、海外の提携会社の工場で薄型テレビを生産している。たとえば、液晶パネルについては LG フィリップスのパネルを使っているという具合である。

 また、大手の流通チェーンと提携しており、これまで倉庫販売店の Costco、Sam’s Club などを通して販売していたが、今回新たに Wal-Mart と Sears という二つの流通チェーンを販路に加えたことによって売り上げを大きく伸ばした。
【先駆者こそ危機感を持って進む】

 このようなことを書くと、いやいや、日系自動車メーカーは供給体制の管理は得意領域であるし、世界でブランドを確立している、そもそも、薄型テレビのような組み合わせ型の製品と異なり、自動車はすり合わせ型の製品であるから、新興メーカーの入り込む余地などない、と考えられる方がほとんどだろう。

 ただ、今回、タタ自動車が、ある意味、ものづくりの手法が既に確立していた既存のガソリン車の領域で、経営的な割り切りでもって世界の自動車産業にインパクトを与えたことを考えると、まだ不確実性の高いハイブリッド車市場に誰かが経営的な割り切りを持ち込む余地というのは、無数にあるとも考えられる。

 ハイブリッド車はそもそも薄型テレビと同様の電気仕掛けの要素を持った製品であるし、自前での開発では先行する日系自動車メーカーには追いつけないと考える欧米系メーカーが外部の優れた技術を取り入れるため、積極的にオープン化を進めるかもしれない。

 優れた技術を持つ素材メーカーや電機・電子部品メーカーが自動車関連事業を強化したいものの、主導権を自動車業界側に取られてしまうため、参入を躊躇するというのもよく聞く話である。

 ハイブリッドカーの起源をたどると、業績好調下の 1990年過ぎに、いつまでも同じ車のつくり方をしていていいのか?このままの開発でトヨタは 21 世紀に生き残れるのか?という社内の危機感から、 G (Globe:地球) 21 プロジェクトが発足し、プリウスの開発につながったと聞く。

 このようなハイブリッド車誕生のきっかけともなった危機感を持って慢心せず今後のハイブリッド車市場拡大の局面にも望んでいくことが、先駆者としての地位を将来的にも維持していくことにつながっていくのではないだろうか。

<秋山 喬>

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