新興国メーカーとの合弁事業を再考する

◆ホンダ、印ヒーローホンダ株の売却を16日の取締役会で正式決定売却後は100%出資の現地2輪子会社に経営資源を集中する考え。

◆印ヒーローグループ取締役会、ホンダとの合弁解消を承認
ヒーローホンダのホンダの株式持ち分26%を10~12億ドルで買収する。

◆ホンダ、インドのラジャスタン州に2輪車の新工場を新設へ
50億ルピー(1.1億ドル)を投資。年産能力60万台。インドで年産能力220万台に。

<2010年12月16日号掲載記事>

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【ホンダのインド二輪車事業】

ホンダが、インドの二輪生産・販売合弁会社ヒーローホンダのホンダ保有株式(26 %)をパートナーであるヒーローグループに売却し、合弁事業を解消することを発表した。報道では、売却金額は 10~ 12 億ドルになる見込み。また、ヒーローホンダとは新たにライセンス契約を締結し、現在の商品の製造・販売・サービスを継続するとのこと。ホンダ自身は、新たに二輪車工場を新設し、全額出資子会社であるホンダ・モーターサイクル・アンド・スクーター・インディア(HMSI)の生産能力を現在の 160 万台から 220 万台に拡大させるという計画も報道されている。

ヒーローホンダは、1984年に設立、翌 1985年から操業を開始した。ホンダからの技術・商品提供を受けながら、現地主導で販売網開拓やマーケティングを推進し、2009年には約 432 万台をインド国内で販売するインド最大の二輪車ブランドに成長した。一方で、1999年に HMSI を設立し、スクータータイプの二輪車については独自展開を進めてきた。今後は、HMSI を中心に二輪車事業を拡大させていくと想定される。

【新興国市場における合弁事業の意義】

一般的に、先進国メーカーが新興国市場への参入を図る上で、新興国の大企業・メーカーと提携する際、双方が相手側に期待するのは以下のような機能・役割であろう。

先進国側: 新興国側が持つ販売力、マーケティング力、政治交渉力、等
新興国側: 先進国側が持つ商品力、技術力、等

恐らく 25年前にヒーローホンダが設立された時にも、上記のような考えがあったと想像する。インドの二輪車市場は、設立当時の 1985年には約 110 万台であったが、2009年には約 867 万台まで急成長を遂げる。市場成長と共に事業を拡大させる中で、お互いの機能・役割の分担と連携を図りながら、結果として販売台数 400 万台を超える国内トップシェアを誇る事業に成長する。

市場が急成長を続ける過程においては、開発・生産面、販売・サービス面の両面から事業基盤の拡大に多大なリソースが必要となるため、合弁事業においてもお互いの機能・役割分担を果たすことに注力しやすい環境と考えられる。勿論、これまでの事業活動の中で、戦略・方針の相違による議論・交渉はあったとは思うが、お互いの付加価値も高く評価していたと想像する。

しかしながら、長期間に及ぶ合弁事業の中で、当然、先進国側も現地の市場特性に対する理解も進むだろうし、新興国側も製品技術に対する理解も進むはずである。また、新興国市場自体が大きく成長を継続する中、先進国市場では楽観できる局面にはなく、先進国メーカー自身のグローバル戦略の中での新興国市場の位置づけも変わってきているはずである。また、他の新興国メーカーの躍進に伴い、新興国市場で求められる製品自体も変化してきている可能性もある。そうした事業環境の変化の中で、今回、ホンダは、インドでの二輪合弁事業を解消し、独自資本の事業に注力するという判断をしたものと考える。

【今後の中国市場の変化の可能性】

二輪車に限らず、自動車業界において、現地大手企業との合弁事業という形で新興国の事業展開を図っているケースは少なくない。例えば、中国においては、規制上の問題もあり、現地企業との合弁事業という形態を取らざるを得ないのはご承知の通りである。こうした新興国市場において、市場や製品の成熟度に伴い、先進国側、新興国側の求める機能・役割が変化する、もしくはお互いに補完する機能・役割が薄れていくとも考えられる。

今年、中国自動車市場は 18 百万台に達することが確実な状況であり、2000年に米国市場が記録した 1,740 万台という一国の年間販売台数の最高記録を更新する見込みだという。2000年時点で生産台数が 2 百万台程度であったことを考えれば、この 10年で実に 9 倍に成長することになる。CAGR (年平均成長率)で見れば、約 25 %の成長を続けていることになる。

このペースで今後も中国市場が成長を続けると、3年後には今年の 2 倍、5年後には 3 倍となるが、ほとんどの方が現実的ではないと考えるであろう。更に成長を続けるためには、当然自動車メーカーは大幅な設備投資を伴うことになるし、燃料の供給だって厳しくなるはずである。成長を続ける新興国市場は中国だけでもなく、グローバル規模での需給バランスも考慮せねばなるまい。

仮に中国市場の成長ペースが落ち着いてくるとすれば、これまで表面化してこなかった現地側合弁パートナーとの関係も生じてくる可能性がある。

そもそも、中国政府としても、自国の自動車産業育成のために、外資企業である先進国メーカーに対して現地側メーカーとの合弁事業という形態を強要してきたわけであり、現地側メーカーによる自主開発車や独自ブランドの投入も後押ししてきた。資本力をつけた現地側メーカーが欧米自動車メーカーに資本参入するケースも出てきている。

力をつけた現地側メーカーが、合弁パートナーである先進国メーカーに新たな条件を突きつけてくる可能性もあるだろうし、中国政府がそうした意向をくんで、規制自体も変更していく可能性もある。世界最大となった中国市場は、最早新興国市場と呼べる状況にはないとも言える。この巨大市場において、今後も収益を確保するためには、これまで以上の機能・役割を提供することが求められるかもしれない。

【差し迫る新興国メーカーとの競争】

ここまで、新興国市場という話をしてきたが、日系メーカーも同じ道を歩んできたといえるかもしれない。戦後、多くの日本の自動車メーカーが欧米メーカーとの提携しながら、商品力、技術力を吸収してきた。その中で、日本市場だけでなく、グローバル市場で通用する商品力、技術力を磨いてきたことで、日系自動車メーカーが欧米メーカーを凌駕する力をつけてきた。

今後、急速に力をつけてくるであろう新興国メーカーとグローバル市場で戦っていくために、何を取り組むことが必要となるか。環境技術に代表される技術力を更に極めていくのか。更なる新興国市場を開拓するのか。新興国メーカーと勝負できるコストダウンを進めるのか。決断までに求められる時間的猶予は想定以上に少ないのかもしれない。

<本條 聡>