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コラム

自動車メーカー各社の中計比較で見えてくる各社の事情

◆日産、中国に小型商用車の新工場を建設へ、年産能力10万台規模

                    <2007年5月28日号掲載記事>

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【「日産 GT 2012」の概要】

 日産は中国で小型商用車(Light Commercial Vehcle:LCV)の新工場を建設する。約 100 億円を投じ、中国合弁の鄭州日産汽車に年産能力 10 万台規模の新工場を建設、2010年をめどに稼働させる。中国では経済成長とともに小型商用車の需要が年率 2 ケタ以上伸びているという。

 LCV 事業は、「日産バリューアップ」期間中、同社が掲げる 4 つのブレイクスルーの 1 つとして位置付けられ、2007年度にはグローバル全体で 519,703台を販売し、8 %を超える営業利益率を達成した。

 日産は先日発表された「日産 GT 2012」においても、LCV 事業に注力する姿勢を鮮明にしており、2007年度比で、2012年度には LCV 販売による売上高を倍増させる予定としている。

 2012年度末までに 13 の新型 LCV を投入し、本ニュースで報じられている中国以外にも 2008年 9月にはロシアにおいて LCV の販売を開始し、2010年度中にはインド、および米国へも進出する予定である。

 「日産 GT 2012」 は 2008年度から 2012年度までの 5年間を対象にした中期経営計画であり、
(1)品質領域でリーダーになること
(2)ゼロ・エミッション車でリーダーになること
(3)2008年度から 2012年度の 5年間で売上高を平均 5% 増大させること
がコミットメント(必達目標)として掲げられている。

また、上記を達成するために、
(1)品質領域でリーダーになること
(2)ゼロ・エミッション車でリーダーになること
(3)事業の拡大: インフィニティ、小型商用車(LCV)、および新規投入するグローバル・エントリー・カー
(4)市場の拡大: インド、中東、ブラジル、ロシア、および中国
(5)コスト領域におけるリーダーになること
という 5 つのブレークスルーが掲げられている。

(詳細はこちら)
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2008/_STORY/080513-01-j.html
【「NRP」以降の日産の中期経営計画】

 自動車業界における中期経営計画は、日産が大々的に 「NRP (日産リバイバルプラン)」を発表して以降、マスコミや株式市場から注目を集めるようになった感があるが、ここで、「NRP」 から今回の「日産 GT 2012」 までの各計画をおさらいしてみたい。

「NRP」:2000年度~ 2002年度までの 3年間(1年前倒しで達成)
(1)2000年度連結黒字化
(2)2002年度連結営業利益率 4.5%
(3)自動車事業連結有利子負債 7 千億円以下

「日産 180」:2002年度~ 2004年度までの 3年間(達成)
(1)2004年度世界販売 1 百万台増
(2)連結営業利益率 8% 
(3)自動車事業連結有利子負債ゼロ

「日産バリューアップ」:2005年度~ 2007年度までの 3年間(目標達成を 1年延長)
(1)自動車業界の中でトップレベルの営業利益率
(2)グローバル販売台数 420 万台
(3)投下資本利益率 (ROIC)20 %(手許資金を除く)

 「NRP」 を 1年前倒しで達成したのに比べ、「日産 180」では販売 100 万台増で苦戦し、「日産バリューアップ」では目標達成自体を 1年延長したことから、コミットメント経営に懐疑的な向きもあるが、その背景には各計画期間における企業としてのステージの違いがある。

 「NRP」が対象としていた期間はリストラステージにあたり、目標達成のための施策もコスト削減、資産圧縮といったものが中心であり、同社内部でコントロールできる、もしくは関係者が限られるため、施策が実行しやすくその実効性もある程度見込みやすいという側面があった。

 しかし、「日産 180」、「日産バリューアップ」と進むにつれ、企業としてのステージは成長、拡大に移り、コミットメントの内容にも販売台数といった顧客、市場を対象とするものが入ってくるようになった。一般的に販売台数、売上といった項目は外部環境の変化に大きく左右され、自社でコントロールできない部分もあるため、施策の実効性が見込みづらいのである。

 とはいえ、マスコミや株式市場はこれまでどおり中期経営計画で掲げられた目標を必達目標として認識しているわけであり、そういった反省も踏まえ、今回の「日産 GT 2012」では様式として、これまでの計画と変わった点が二つある。

 まず一つ目は売上の拡大以外、数値目標を公表していないこと、そして二つ目は計画の対象期間が 3年から 5年と延長されたことである。

 いずれも短期的な業績に社内、社外の関心が向かってしまい、長期的な視点からの事業運営に支障をきたすという点を踏まえてのものと思われるが、このように様式ひとつとっても、中期経営計画には企業の考え方が反映されているといえる。

 そもそも中期経営計画とは長期的なビジョンを達成するための中期的な経営戦略を計画として数値に落とし込んだものであるので、社内では当然、数値化されたものが存在するわけであるが、そのうち、どの程度を公表するかは各社の判断である。

 しかし、公表されている範囲が限定的だとしても、経営戦略を反映したものであるから、その企業が現在の状況をどのように認識していて、今後、3年間をどのような考え方で経営していくのか、という点が如実に表れる。
【主要自動車メーカーの中計比較】

 中期経営計画には各社の今後の考え方が反映されていると述べたが、では、主要自動車メーカーの中期経営計画を横並びで比較してみるとどうだろうか。

「トヨタ」
・トヨタは基本理念やビジョンといった長期的な観点から同社が目指すところは公表しているものの、中期経営計画を大々的に公表するということはしていない。決算発表や経営説明会の際に、今後の方向性や数値目標が一部語られるのみである。

「ホンダ」
・ホンダも大々的に公表するということはしていないが、現在の計画については 2008年央の社長会見の際に概要が語られた。
・2008年度から 2010年度までの 3年間を対象とする「10 次中期計画」。
・基本的な考え方は、「将来も、グローバルで成長していく力を持ち続けるために必要な体制を確立すること」と、「それをまず日本を中心として始めること」。
・具体的方向性は、「世界をリードする環境技術を作り出し、商品として具現化し、より多くのお客様に提供していくこと」「先進の商品を作る、ものづくりの体制を、次世代に向けて大きく進化させること」の 2 つ。
・主要施策は「二輪事業の強化」「国内四輪車生産体制の革新」「本格普及に向けたハイブリッド戦略」の 3 つ。

(詳細はこちら)
http://www.honda.co.jp/news/2008/c080521a.html

「マツダ」
・2007年度から 2010年度までの 4年間を対象とする「マツダアドバンスメントプラン」。
・同期間をモノ造り革新を中心とする構造改革を加速し、将来に向けて前進(アドバンス)する期間と位置付け。
・定量目標(一部、定性)として(1)グローバル小売台数 160 万台以上、(2)連結営業利益 2,000 億円以上、(3)営業利益率 6%、(4)配当性向 着実な向上の 4 つを掲げる。
・ブランド、商品&技術、生産体制、人材育成の 4 つの観点から主要施策を列挙。

(詳細はこちら)
http://www.mazda.co.jp/corporate/investors/policy/mid_term.html
「三菱自動車」
・2008年度から 2010年度までの 3年間を対象とする「ステップアップ 2010」。・定量目標として(1)販売台数(小売) 1,422 千台、(2)売上高 2 兆 7,600 億円、(3)営業利益 900 億円、(4) 経常利益 710 億円、(5)当期利益 500 億円を掲げる。
・基本方針は「選択と集中の深掘り」と「安定収益の確保」の両立。
・主要項目は以下の 5 つ。
(1) 重点市場で戦える強い商品の投入と販売台数の拡大
(2) コスト低減追求と新車販売周辺事業拡大で安定収益確保
(3) 販売戦略に沿ったグローバル生産の効率向上
(4) 環境分野での次世代先行技術の開発
(5) 持続的成長の基盤となる分野への積極投資

(詳細はこちら)
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/pressrelease/j/corporate/detail1744.html
【各社の特徴】

 まず、トヨタは中期経営計画を大々的に公表していないが、その姿勢は業界のリーダーとして中期的な自社の業績に固執せず、長期的な視野で自社、及び業界のビジョンを示すことを重視しているように映る。

 また、ホンダの計画も特徴的である。他社の計画が新興国をはじめとする海外に注力する姿勢を打ち出している中にあって、ホームカントリーである日本を重視するものとなっている。将来の一層のグローバル化に備え、小川エンジン工場、寄居四輪車工場等、まず日本でものづくり技術、ものづくり体制の革新を行うことが謳われている。

 加えて、発祥の事業であり、グローバル化の観点からも同社独自の強みである二輪車を主要施策に挙げているところも、原点回帰の姿勢が伺える。一方で、ハイブリッド車を本格普及させる意気込みも示されている。これら一連の施策を見ると同社が今回の計画期間を将来の更なる成長に向けて、原点回帰しつつ力を蓄える時期と認識しているように思える。

 一方、マツダと三菱自動車は様式こそ、類似しているが、内容は両社の置かれた状況をそれぞれ反映したものとなっている。マツダは既に成長軌道に乗っていることもあり、施策の内容も研究開発費の積み増しや各市場における個別事情への対応など前計画である「マツダモメンタム」の延長線上にあるものが多い。

 三菱自動車は 2005年度から 2007年度までを対象とした「三菱自動車再生計画」が終了したタイミングということもあり、本計画期間を成長への基盤づくりと位置付け、限られたリソースを選択、集中していくという姿勢が明確に示されている。

 具体的には軽・小型乗用車、中型乗用車、SUV 商品群に対し選択と集中を行い、自社でカバーできない部分は他社と柔軟にアライアンスを組んでいくとしている。また、市場についても、BRICs をはじめとする新興国を重点市場と呼び特に注力していく意向である。

【中計のマネジメントの重要性】

 以上、公表されている範囲で、各社の中期経営計画を比較してみたが、各社の置かれた状況や考え方によって、掲げているものも、掲げ方も異なることがわかるだろう。

 しかしながら中期経営計画とは前述したとおりそもそも外部向けのものではなく内部向けのものである。今後の経営戦略を明確にし、従業員やグループ企業のベクトルを束ねるということが一義的な目的である。

 また、あくまでも計画であるため、その後のマネジメントが重要となる。現在のように環境の変化が著しい時代においては、策定のタイミングでどんなに緻密に作業を進めても、その後、予想外の事態が起こってしまう可能性も否定できない。その際は元々掲げた目標に固執せず、見直しを行うことも必要であり、その意味で今回の日産の数値目標を外部に公表しないという判断は賢明だったかもしれない。

 いずれにしても、中期経営計画は全社的な PDCA サイクルの P に該当するものであり、今後は環境の変化に合わせてその PDCA サイクルをいかに早く回していけるかという観点も各社にとって重要になってくるものと思われる。

<秋山 喬>

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