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コラム

トヨタの原価低減活動と組織改正

◆トヨタ、来年のグループ世界販売計画を1040万台から970万台に下方修正

                    <2008年08月28日号掲載記事>

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【経営説明会での渡辺社長発表要旨】

 トヨタは 8月 28日の経営説明会において、2009年の世界自動車販売台数目標を当初発表していた 1040 万台から下方修正して 970 万台とすると発表した。同社はすでに 2008年の世界販売台数目標も当初の 985 万台から 950 万台へと下方修正している。

 下方修正の要因としては、原材料価格の高騰、米国市場の低迷、ガソリン価格の高騰などの外部環境要因により主に先進国市場の販売が低迷することが挙げられている。

 また、環境問題への関心が高まる中、同社は今後もハイブリッド車をコア事業とし、2020年代のフルラインアップ化を目指した拡販・展開車種増加、米国ミシシッピ工場でのプリウス生産に代表される供給能力増強、そして、更なる原価低減を行っていくことを発表した。

 加えて、電気自動車の研究開発を加速させ、2010年代の早い段階で次世代車の量産化を図る考えを表明したほか、家庭用電源から充電できるプラグイン・ハイブリッド車の投入時期を、従来の 2010年から、2009年末に前倒しするとした。

 一方で、上記トピックに比べて、それほど、メディアの注目を集めているわけではないが、プレゼンテーション内の経営基盤の項目で原価についても触れられており、小型車の徹底的な原価低減運動を推進していくことが言及された。
【トヨタにおける近年の原価低減活動】

 言わずもがなではあるが、トヨタにおいて原価管理は日常的、恒常的に実施されてきており、品質管理と並ぶ同社の経営の要ともいうべきものである。しかしながら、昨今の原材料価格は同社に更なる原価への取り組みを決断させる程度まで高騰してきている。

 実際、今年度については 3000 億円強の原価低減を見込むものの、原材料費の上昇で相殺されると想定されており、この緊急事態に際し、4月には既販を含む全車種の原価を総点検する「緊急 VA (バリュー・アナリシス)活動」を開始した。

 今回のような緊急 VA はバブル崩壊後の 1993年以来、15年ぶりのことであり、緊急事態対応という側面が強いが、この取り組みとは別に同社は CCC21、VI (バリューイノベーション)といった計画的な原価低減活動を実施してきており、これまでに大きな効果をあげている。

 CCC21 は 2000年から 2005年にかけて行われた原価低減活動であり、調達部門が中心になり、開発、生産、部品メーカーが協力し、総部品調達額の 90 %以上を占める主要 170 品目について、それぞれが世界ナンバーワンの価格競争力を達成するよう目標を設定し、原価低減に取り組んだものであり、活動期間の間に約 1 兆円の原価低減効果を生んだと言われている。

 一方で、VI は CCC21 のあとをついで 2005年より開始された開発部門主導の原価低減活動であり部品単位でなく、システム単位で、設計、開発段階から原価を考えるというその名のとおり、革新的な原価低減を目指す活動である。

 VI 活動の中では、ボデー、シャシー、電子、エンジンといったさまざまな分科会が組織され、ECU 統合といった動きもシステム単位で原価を考えるこの活動の中から出てきた項目の一つである。

 つまり、近年の CCC21 から VI という一連の原価低減活動は、より大括りな単位で、より上流に遡る形で原価低減に取り組む方向へと移行してきているのである。
【組織改正との関連性】

 トヨタは今年の 6月に技術開発部門の大掛かりな組織改正を発表しているが、これもこれまでの原価低減活動との関連性が推測される内容となっている。

 CCC21 や VI といった原価低減活動は一種のプロジェクトである。プロジェクトは時限的な組織であり、職制とは恒久的な組織である。プロジェクトの思想や成果を定着化させ、組織に根付かせるために、職制を変更したものと推測される。

 実際、CCC21 が始まり、数年経過した 2002年には購買組織の組織改正が行われている。

 今回の組織改正の具体的な中身を見てみると、これまで技術開発に関わる組織として存在していた「商品開発本部」、「車両技術本部」、「パワートレイン本部」の 3本部を「第 1 技術本部」、「第 2 技術本部」の 2本部に再編した。

 旧組織の概略をざっと説明をすると、車両開発を担う「商品開発本部」はレクサスの開発を行うレクサスセンター、大型、中型車の開発を行う第 1 トヨタセンター、小型車、ミニバンの開発を行う第 2 トヨタセンターから成り、それぞれのセンターがボデー設計、シャシー設計、電子設計、実験の機能を有していた。

 また、先行開発を担う「車両技術本部」は車種横断的な統合システム開発、シャシー開発、ブレーキ開発、ステアリング開発、CAE、電子技術、材料技術といった機能を有しており、「パワートレイン本部」は、同様にエンジン技術、トランスミッション技術、HV 技術という機能を有していた。

 一方で、新組織では、本部の下に専門技術ごとに複数の部を括る「領域」が新設され、主に車両開発を行う「第 1 技術開発本部」の下には、実験領域、ボデー技術領域、プラットフォーム技術領域、シャシー技術領域が存在する。

 そして、ユニット技術開発・要素技術開発を行う「第 2 技術本部」の下には、電子技術領域、材料技術領域、エンジン技術領域、ドライブトレーン技術領域、HV 技術領域が存在するという形となった。

 そして、組織改正による機能移管の説明をすると、これまで「商品開発本部」内の各開発センターが有していたボデー設計、シャシー設計、実験の機能が「第 1 技術本部」に、電子設計の機能が「第 2 技術本部」に移り、それぞれ「領域」のもとに集約された。

 例えば、「第 1 技術本部」のボデー技術領域のもとには、「商品開発本部」からレクサスボデー設計部、第 1 ボデー設計部、第 2 ボデー設計部、「車両技術本部」から第 1 車両技術部(一部)、第 3 車両技術部が集められたのである。

 結果として、「商品開発本部」内の各開発センターは具体的な量産車種プロジェクトだけが残る形となり、本部に属さない技術分野直轄となった。

(詳細はこちら)
http://www.toyota.co.jp/jp/news/08/Jun/nt08_0608.html

 以上、組織改正の中身を見てみると、製品×機能というマトリックスでいうところの機能の軸を強化した動きであるといえよう。そして、ここでいうところの機能はシステムとも言い換えることができる。

 つまり、システム単位で車種横断的に大括りにした格好になり、VI でこれまで推進してきたシステム単位での設計段階からの原価低減が定着化、横展開しやすい体制になったといえる。
【今後の原価低減活動の方向性は】

 一方で、懸念されるのが製品軸を弱めたことによる商品力への影響である。

 一般的に、機能軸を強化し担当業務を細分化すれば、効率は上がるものの、その分、創造性が低下すると言われている。

 そもそも、従来の開発センター制に移行したのは、1992年に遡るが、担当業務が細分化されすぎたことで、最も創造力が必要とされる技術開発部門に硬直化が散見されるようになったことが、その背景にはあったという。そこで担当車種範囲を限定しつつ、担当業務を車両単位に大括りにするという開発センター制が採用されたのである。

 しかしながら、組織は戦略に従うとの言葉もあるとおり、絶対的に優れた組織体制というのは存在せず、その時々の経営環境、経営方針を踏まえて、変化させていくべきものである。実際にバブル崩壊後には原価低減が求められ、機能軸強化の動きが見られ、そのゆれ戻しとして上記開発センター制につながっていったという面もある。

 そういう意味で、同社の現在の方向性としてはシステム単位での原価低減、技術の高度化であり、それを通じた全体の商品力の底上げということになるのではないだろうか。

 また、職制変更は過去の思想の帰結というべきものであり、今後の原価低減活動の方向性を伺う意味では、経営説明会にて言及された、一種のプロジェクトである、小型車を対象にした原価低減特別チームの役割が注目される。

 当該チームは車両単位で、お客様目線に合った仕様・性能の最適化を徹底追求し、原価低減実現に向けて、「大きさ・質量・部品点数」を徹底的に見直すとしている。

 この取り組みはタタ自動車のナノを意識したものであることは容易に想像がつくが、今後の原価低減活動の方向性も指し示しているといえよう。

 つまり、車両という、より大括りな単位で、企画の段階という、より上流に遡る形で原価低減に取り組む方向へと進む可能性を示唆している。

 弊社ではたびたび品質という概念の焦点が上流へとシフトしてきており、企画品質が重要になってきていることに言及しているが、今後は原価も企画段階から考える時期が来ることを踏まえると、今後、自動車業界において企画という機能がより一層重要になるものと思われる。

<秋山 喬>

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