求められる部品メーカー像は変わらない

◆自動車部品メーカー 20 社の今期業績、純利益 48 %減の見通し
                    <2008年 11月 16日号掲載記事>

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【部品メーカー主要 20 社の利益が半減】

 デンソーやカルソニックカンセイなど自動車部品メーカー主要 20 社の 2008年 4~ 9月期決算が出そろった。また決算発表に前後し、20 社中 14 社が通期の業績見通しを下方修正した。

 結果的に 20 社の今期純利益は合計で 2740 億円と、前年比 48 %減となる見通しである。デンソーはトヨタからの受注減や円高が響き、純利益は 59 %減の 1010 億円となる見込み。カルソニックカンセイも日産の北米不振のあおりを受け、業績が悪化する。

 また、部品メーカーに先立って、決算が出揃った自動車メーカーの通期見通しを見てみると、乗用車メーカー主要 7 社(トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、スバル、スズキ)の純利益合計は 1 兆 3350 億円と前年比 55.9 %減になる見込みである。

 ちなみに大手 3 社の状況を個別に見てみるとトヨタは営業利益が 73.6 %減、純利益が 68.0 %減、日産は営業利益が 65.9 %減、純利益が 66.8 %減、ホンダは営業利益が 42.3 %減、純利益が 19.2 %減となっている。本業での儲けを示す営業利益で見てみると、ホンダ→日産→トヨタの順に減益幅が大きいということになる。

 日本自動車業界の利益は前年に比べて半分以下になることとなり、金融危機に端を発した世界的な自動車販売減速の影響の大きさを物語っている。
【業績悪化が自動車メーカーから部品メーカーへ伝播】

 部品メーカーに関し主要 20 社ということでは純利益半減ということだが、では系列別に部品メーカーの状況を見てみるとどうだろうか。トヨタ、日産、ホンダにつき、系列別主要部品メーカーの通期見通しを比較してみたい。

 系列部品メーカーというのも、曖昧な概念なので、ここでは、各自動車メーカーが株式を保有しており、かつ株式公開している部品メーカーのうち売上高上位 5 社を抽出した。(車両組立会社を含む)

 また、上記基準でいくと日産の場合は 4 社しかないため、日産が株式を保有していないものの、一般的に日産系といわれる部品メーカーのうち売上高の最も大きなユニプレスを加えた。

 その結果、トヨタ系はデンソー、アイシン精機、豊田自動織機、トヨタ車体、トヨタ紡織の 5 社、日産系はカルソニックカンセイ、日産車体、愛知機械工業、鬼怒川ゴム工業、ユニプレスの 5 社、ホンダ系はテイ・エステック、ケーヒン、八千代工業、ショーワ、ユタカ技研の 5 社ということになった。

 そして、各系列別に今期の通期見通しを前年と比較してみると、トヨタ系は営業利益が 50.3 %減、純利益が 53.4 %減、日産系は営業利益が 29.2 %減、純利益が 26.3 %減、ホンダ系は営業利益が 21.7 %減、純利益が 44.0 %減という結果になった。

 営業利益段階で見ると、見通しはホンダ系→日産系→トヨタ系の順で減益幅が大きく、これは前述した自動車メーカーの傾向と同様である。主要納入先である自動車メーカーの業績悪化が系列部品メーカーに対しても伝播していることが確認できる。

 一方で、自動車メーカーと比較すると、まだ部品メーカーのほうが減益幅が小さく、自動車市場の落ち込みが 2009年 3月期以降に更に部品メーカーへも伝播していく可能性を示唆しているといえるだろう。
【課題も自動車メーカーから部品メーカーへ伝播する】

 このような業界全体の業績が悪化する状況に際し、個別の部品メーカーはどのような対応をしていったらいいだろうか。

 先程、業績の悪化が自動車メーカーから部品メーカーに伝播してくることについては、言及したが、今後、自動車メーカーが抱える課題についても部品メーカーに対して伝播してくることが予想される。

 筆者は前回のメールマガジン
『今回の金融危機が自動車業界に促す変革』)で、今回の金融危機の影響により、自動車業界において以前より認識されてきた課題に対し、早期の対応が促されるようになることについて言及し、その主要なものとして、1.環境性能に優れた車の導入、2.販売地域の分散、3.現地化の推進、4.国内市場活性化の 4 つを挙げた。

 最後の国内市場の活性化については、部品メーカーの観点からは除外して考えるが、その他の 3 点については、自動車メーカーが抱える課題が部品メーカーに対しても伝播してくると考えるべきだろう。

1.環境性能に優れた車の導入

 今回の金融危機の影響によりピックアップや SUV といった大型車の需要が低迷し、消費者需要が燃費のよい小型車やハイブリッド車にシフトしたことに伴い、自動車メーカー各社は環境性能に優れた車の早期導入が求められる。そして、それに伴い、これまで利益面で頼ってきた大型車ではなく、小型車でも一定の利益の出る事業構造の確立を目指すことが予想される。

 部品メーカーとしては、販売先、販売製品の見直しを行い、環境性能に優れた車種を有するメーカー、及び小型車向け製品へのシフトを進め、その上でコスト削減に努めていくことが求められるだろう。

2.販売地域の分散

 今回の金融危機による北米市場の低迷を受け、自動車メーカーは北米をはじめとする先進国に依存する事業構造の是正に向かい、今後、自動車需要を牽引すると想定される新興国へのシフトを進めることが予想される。

 部品メーカーとしても、自動車メーカーからの誘いを待つのではなく、自発的に新興国における供給体制というのを検討しておく必要があり、実際に投資判断をくださないまでも、事前調査を進めておくことが求められるだろう。

3.現地化の推進

 金融危機の影響により急減に円高が進み、将来的にも為替動向が不透明になっている状況において、自動車メーカーとしては為替に左右されない事業構造の検討を進め、そのためには小規模であっても収益が確保できるような柔軟性のある現地生産体制の確立が必要である。
 部品メーカーとしては、上記 2 で挙げた海外進出の検討に加えて、現地での供給等、柔軟性のある生産体制への寄与が求められるだろう。

 また、将来的な上記 3 点の課題への対応に加えて、特に事業規模の小さい部品メーカーの場合、現在の局面ではキャッシュフローベースの経営を意識することが重要となる。

 現在、世界的な信用不安の進展により、市場からの資金調達が困難な状況となり、不良債権化を恐れる銀行からの資金調達も難しい状況になりつつある。

 このような状況下においては、在庫の圧縮等によりキャッシュフローを最大化することが求められる。また、上記将来的な課題との見合いではあるが、慎重に投資の選別を行う必要があるだろう。
【求められる部品メーカー像は変わらない】

 弊社が数年前に行ったアンケートで自動車メーカーは部品メーカーに対して自動車メーカーの負担を軽減、補佐してくれることを、言い換えればものづくりのソリューションプロバイダーといった存在になることを求めているという結果が出た。

 この結果は、昨今の状況においても同様に当てはまり、むしろ傾向がより顕著になってきているといえるのではないだろうか。未曾有の環境変化に直面している状況においては自動車メーカーは、激変する市場を注視する必要があり、ものづくりの観点では部品メーカーに依存する部分がより一層大きくなってくるものと思われる。

 そして、部品メーカーとしては、自動車メーカーが抱えている課題が伝播してくることを予測したうえで行動し、それによって自動車メーカーに頼られる存在を目指していくべきではないだろうか。

<秋山 喬>