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コラム

過渡期的施策が物語る環境変化の早さと大きさ

◆現行プリウス、全面改良後も販売継続

              <日刊自動車新聞2008年12月12日号掲載記事>

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【プリウス、現行モデルと次期モデルを併売】

 トヨタは、来春に予定するプリウスの全面改良後も、現行モデルの国内での販売を継続する。

 現行のプリウスの価格は 233 万~ 334 万円で、同クラス車に比べて数十万円の割高となっているが、次期型はエンジン排気量を現行の 1.5 リットルから1.8 リットルに拡大するため車両価格がさらに上昇する見通しである。

 プリウスは、全面改良から 5年が経過した現在も月間 6 千~ 7 千台を販売するトヨタの売れ筋車種となっており、モデルチェンジ間近の今でも 2 ヶ月、3カ月待ちが当たり前となっている。また、中古車市場においても、3年落ちで 50 %前後と同クラス車に対して高い残価を誇っている。

 今回の決定に際しては、販売店からの要望が多かったということだが、プリウスは環境対応やガソリン価格の高騰により法人からの需要も増加しており、主に法人向けの低価格タイプとして現行型の販売を続ける。
【現行モデル継続の狙い】

 全面改良後も現行モデルの販売を継続するというのは業界においても珍しい事例であるが、今回の意思決定の背景には複数の狙いが存在するものと推測される。

 まずは上述したような法人対応の観点である。

 現在、プリウスに代表されるハイブリッド車のモデルラインナップは個人を対象にしたものがほとんどであるが、環境対応やガソリン価格の面からハイブリッド車を求める声が個人同様、法人でも高まりつつある。

 しかしながら、法人を主要ターゲットとする商用車まで開発リソースの都合上、手がまわっていないのが現状であり、現行モデルの販売を継続させることで一時的に法人もカバーしようとするものであろう。

 また、法人対応が主目的ということだが、二義的には個人対応の観点からの狙いもあるものと思われる。

 まずはホンダが来年量販を目指して投入するハイブリッド車、インサイトへの対抗という観点である。

 インサイトの販売価格は 200 万円前後になることが予想されているが、次期モデルは前述したとおり価格が上昇する見込みであるため、現行モデルの装備・仕様を簡素化することにより 200 万円前後の低価格帯の需要を取り込むというものである。

 次に国内市場対応の観点である。

 今や環境性能に優れた車が求められるのは国内に限った話ではなく、先進国を中心にグローバルレベルでハイブリッド車に対するニーズが高まってきている。

 次期モデルは国内市場だけを対象に開発されたわけではなくグローバルカーとして開発が進められているため世界規模での市場ニーズに応える必要がある。そのため、現行に比べて排気量も拡大し、ボディサイズも大きなものになることが予想されている。

 道路網が複雑で道幅の狭い国内市場においては、サイズアップはさほど要求されないため、現行モデルの販売継続によって国内固有のニーズに対応しようというものである。
【今回の意思決定を引き起こした環境の変化】

 このように今回の意思決定の背景にはさまざまな狙いがあるものと推測されるが、従来であれば別の新型車の開発によって対応していたはずであり、今回の意思決定の趣旨は自動車業界を取り巻く環境の変化を踏まえた既存資源の有効活用であり、節約ということになるだろう。

 今回の意思決定に影響を与えた環境の変化としては大別して 2 つが挙げられる。

 1 つめは市場ニーズの変化が急速に進み、環境対応車の潜在的なマーケットが急拡大しているという点である。

 特に北米での変化が顕著だが、今年前半のガソリン価格の高騰により、消費者のニーズがハイブリッド車に代表される環境性能に優れた車にシフトし、ガソリン価格が大きく下落した現在もその傾向にゆり戻しは見られない。

 そのような市場ニーズの変化が予想を超えてあまりに急速に進んだため、自動車メーカー側の商品開発体制が追いつかないというのが実態であろう。

 商品開発体制よりも市場の変化に柔軟であるべき製品供給体制が市場の変化に追いつかず、在庫が積みあがっているような状況であるわけだから無理のない話である。

 また、いくら差異化が図られているとはいえ、同名のモデルを併売するということになれば、当然カニバリゼーションを引き起こすことも懸念されるが、それ以上に環境対応車の潜在マーケットが急拡大すると見込んでの意思決定であるものと思われる。

 急成長する市場においては、成熟市場に比べてカニバリゼーションは発生しにくく、顧客に対し、より多くの選択肢をより多くの頻度、場所で提示できるメーカーがシェアを獲得していく。

 また 2 つめの環境変化としては、自動車メーカーの経営状況の悪化により、商品開発を含めた新規投資全般が難しくなっているということが挙げられる。

 先週のニュースを見ても、トヨタが米国での新工場稼動、中国やブラジルの工場増強、国内主力工場への投資をそれぞれ延期するという報道がなされている。

 また、日産がインドの工場の稼動を半年先送りするのに加え、ホンダが来年に予定していたインドの第 2 工場の稼動を 1年以上先送りすることが報道された。更に、減産や従業員の解雇のニュースにいたっては毎日新聞紙面をにぎわせている状態である。

 このような状況においては開発投資も絞りこまざるをえず、活用できる既存資源は最大限活用するという発想により現行モデル継続を決定したものと思われる。
【新たな環境への適応】

 今回のトヨタの意思決定は自動車業界を取り巻く環境の変化の早さと度合いの大きさを物語っており、その意味では過渡期の施策ということができるだろう。

 自動車業界が今回のような大きな環境の変化を迎えるのは、欧米自動車メーカーが次世代を見据えて 400 万台クラブの合言葉のもとに業界再編を引き起こした 2000年前後以来のことであり、現在の局面においてもデトロイト 3 の行方を中心に業界再編が噂されている。

 2000年前後のタイミングでは、日系自動車メーカーは業績が低迷しており、業界再編に巻き込まれる側の立場であったが、GM やフォードといった業界再編を主導した企業の多くは、統合効果を手にすることなく、むしろ自らが環境の変化に対応できず衰退していった。

 過去の歴史からの教訓としては、何よりもまず自らが環境の変化に応じた車づくり、企業体質づくりをしていかないと業界再編も意味をなさないということだろう。

 現在の局面では、経営状況が悪化しているといっても、相対的に見て、自動車業界の中では余力のある立場の日系自動車メーカーだが、まずは自らが過渡期の先にある新たな環境に向けて準備をする必要があるものと思われる。

<秋山 喬>

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