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コラム

共通化により一層求められるアプリケーション発想

◆車制御ソフト、トヨタや日立製作所、東芝、デンソーなど73社が共通化へ

                    <2009年02月24日号掲載記事>

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【車載ソフトウェア共通化に向けた取り組み】

 トヨタ、日産、ホンダ、デンソー、日立製作所、東芝、パナソニックなど自動車・電機大手 73 社はエンジンやブレーキなど車を電子制御するためのソフトを共通化する。年内に標準規格をまとめ、2010年にもまずトヨタが採用して発売する見通しであり、このほか約 50 社が採用を計画している。

 エンジンやトランスミッションなどの駆動関連のほか、安全技術やカーナビゲーションシステム、通信機能などを電子制御するためのソフトを機能ごとに共通化する。各社は共通ソフトを利用し、自社の独自機能などを付加して製品を開発する。

 車載ソフトウェアの共通化は本ニュースに始まったことではなく、以前より自動車業界では取り組みがなされてきた。欧州では標準化団体 「AUTOSAR」が標準ソフトを策定しており、日本でも自動車メーカーが中心となって標準化団体「JASPAR」において AUTOSAR の仕様の検討作業等が進められてきた。

 また、ソフトウェアそのものだけでなく、ソフトウェアの開発プロセスについても標準化、開発品質向上に向けた取り組みがなされており、欧州では、VW、ダイムラー、BMW 等、主要自動車メーカーの主導により Automotive SPICE が策定されている。

 日本においてもトヨタが、Automotive SPICE も参考にしつつ、そこにトヨタ生産方式の要素を盛り込んだ独自の「トヨタソフトウェア開発方式」(仮称)の策定に乗り出すなどの動きが見られる。

 過去からのこのような取り組みの延長線上にある本ニュースであるが、ソフトウェア共通化の動きが加速してきたのは昨今の経営環境の変化も影響しているものと推測される。
【取り組みを後押しする昨今の環境変化】

 昨秋のリーマンショック以降、自動車業界における経営環境が一変し、市場が急激に縮小した。自動車メーカー各社は在庫適正化のための減産や臨時従業員の削減等の短期的な施策を展開する一方で、将来に向けた新規投資の見直しも行っており、これまで海外を中心に積極的に実施されてきた設備投資は凍結が相次いでいる。

 設備投資に比べると、将来的な商品力に直結する研究開発投資は比較的、維持される傾向があるが、実態としては、研究開発投資の中でもプロジェクトごとに選別がなされている状況である。

 このような状況の中では、電子化の進展により年々増加の一途をたどっている車載ソフトウェア開発の費用も削減対象となってくる。

 実際、電子化の核となる ECU の 開発を行ううえで、開発工程の 8 割以上はソフトウェアが占め、ソフトウェアにかかる開発費は車一台の開発費の一割前後を占める場合もあると言われている。国内の業界全体で年間千億円単位の規模になっているとみられており、ソフトウェアの共通化が進めば、3~ 5 割程度削減できるとの見方もある。

 また、今回の環境変化により、市場が求めるクルマが変化しつつあることもソフトウェア共通化の取り組みを後押しする要因となっている。

 ここでいう市場が求めるクルマの変化とは、具体的には、環境対応車の普及とクルマの小型化である。

 ガソリン車に比べて電子制御の割合が高い電気自動車やハイブリッド車などの環境対応車の普及が今後、本格化することが予想されているが、その際には、価格面でいかに普通のクルマに近づけるかということが大きなテーマになる。

 現在、販売好調なホンダのインサイトも既存のハイブリッド車に比べて、低価格であることが消費者に受けている要因の一つであるが、電子制御の割合が高いだけにソフトウェア開発費用の効率化の余地も高いといえるだろう。

 また、今後、市場に占める小型車の比率が増加していくことが予想されているが、これまで高度な電子制御は大型の高級車から搭載が始まり、その後、小型車へと展開されていくのが一般的であった。今後は小型車でも高級車同様の高度な電子制御が求められるようになり、その際にはいかにコスト増を抑えながら機能を追加するかということが課題になってくるだろう。

 実際、小型車はコストやスペース面で制約が多いが、ソフトウェアの追加のみで新機能が実現できれば、追加の部品コストや搭載スペースは不要となる。その意味でもソフトウェア開発費用の効率化は重要である。

 事実、昨今ではホンダのライフや日産のキューブといった小型車でも低価格のバックモニターが採用され始めている。
【基盤共通化により一層求められるアプリケーション発想】

 また、このような企業横断的な車載ソフトウェア共通化の動きと呼応して、個別企業内においても電子プラットフォームの採用が進展しつつある。

 自動車業界でプラットフォームというとこれまでパワートレインやサスペンション形式、フロア周りの構造など車両の機械的な基盤を指していたが、電子プラットフォームとはその電子版とでも言うべきものであり、ECU の配置、処理性能やネットワーク構成、ソフトウェアの配置などから構成され、いわば車両の電子的な基盤のことを指す。

 日本の自動車業界では 2000年前後に各社がコスト削減の一環として、社内及び提携先とのプラットフォーム共通化を推し進めたという経緯があるが、発想としては電子プラットフォームも同様であり、共通化によってコスト削減を図っていこうというものである。
 また、機械的なプラットフォーム共通化の考え方が個社別に異なるように電子的なプラットフォームの考え方も各社で異なる。例えばトヨタは小型車と大型車とで電子プラットフォームが異なるが、日産の場合は現状 1 種類であり、マーチとフーガとで電子プラットフォームは共通である。

 電子化が進展するにつれ、商品の競争力を左右する要素がハードからソフトに移ってきたという意見もあるが、このような状況を踏まえると、一概にソフトといっても業界として共通化、標準化する部分と個別企業ごとに差異化する部分が出てくるということになる。
 例えば、先週のニュースで、トヨタがプリクラッシュセーフティシステムを進化させた新技術を発表しているが、共通化するのはあくまでソフトウェアの基盤部分であり、こういったアプリケーションとして、どのような機能を消費者に訴求していくかという点などは個社によって異なるということである。

 今後、自動車メーカーとしては、個社別に基盤ソフトウェアをベースにしつつも、いかに個社として差異化するかという点では、これまで以上にアプリケーション発想が求められることになるだろう。そのためには、顧客に求められる機能を追求することに加え、将来のクルマ像を個社として策定し、市場に提案する姿勢が必要になるものと思われる。
【周辺プレイヤーへの影響】

 では、車載ソフトウェア共通化の進展は自動車メーカー以外のプレイヤーに対してどのような影響をもたらすだろうか。

 まず部品メーカーに対してであるが、車載ソフトウェアが共通化されることにより、少なくとも基盤部分については自動車メーカー別の違いがなくなることになるため、自動車メーカーに対してシステム提案が行いやすくなるということが挙げられる。

 また、ソフトウェア共通化は、ハード、ミドルウェア、アプリケーションソフトから成る ECU におけるミドルウェア部分を共通化するものであるため、ハードウェアからアプリケーションソフトまでを 1 社で開発する垂直統合構造が崩れることになる。そのため、アプリケーションソフトの開発を外部に外注できるようになり、外部リソースの適宜活用が可能になる。

 このように、部品メーカーにとっては、開発の自由度が増すことになるが、しかしながらそれだけにシステム提案力や調達先のマネジメント力が求められることになる。

 一方で、電機メーカーや SIer にとっては、前述したとおり ECU における垂直統合関係が崩れるということで、自動車業界における新たな事業機会が生まれる可能性がある。
 このように、車載ソフトウェア共通化は、自動車業界、更には周辺業界に対し様々な影響を及ぼすことが予想されるが、現在のような業界全体が苦境に陥っている状況では、このような業界全体の効率化につながる横断的な取り組みの重要性が今後より一層高まってくるものと思われる。

<秋山 喬>

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