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コラム

技術革新による消費行動の変化と 60年代的状況への回帰

◆6月の国内販売、「プリウス」が軽自動車を抑えて全体で首位

                   <2009年 7月 3日号掲載記事>

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【昨今の国内新車市場】

 トヨタプリウスの 6月の販売台数が約 22,000台となり、軽自動車を含む新車販売ランキングで、初の首位に立った。2 位はスズキワゴン R で約 16,000台、3 位はダイハツムーヴの約 15,000台であった。

 軽自動車を抑え、登録車が 1 位を獲得するのは 2007年 12月のホンダフィット以来のことであり、1年 6 カ月ぶりとなる。

 2009年の 2月 6日に販売開始されたホンダインサイトの 6月の販売台数は約8,800台だったとみられ、こちらも月間目標台数の 5,000台を上回る水準が続いており、エコカー減税や新車買い替え補助制度の導入を受けて、ハイブリッド車の人気が高まっていることが窺える。また、軽自動車を除いた登録車だけの数字を見ると傾向はより一層顕著となる。
 実際、2009年 2月にプリウス、インサイトの登録車販売台数に占めるシェアは 4.3 %であったが、6月にはこれが 12.8 %まで上昇している。

 プリウスの場合、月間目標台数が 10,000台のところを既に受注は累計 180,000台になっているという報道もあり、ハイブッド車にのみ受注が集中している状況については問題があると見る向きも多い。

 このような現象は勿論、ハイブリッド車が特に優遇される一連の時限的な政策により引き起こされている部分はあるだろうが、優遇の対象になるのは何もハイブリッド車のみに限った話ではない。

 むしろ筆者は、これらの現象が環境対応車という自動車業界における技術革新が市場に浸透する過程で起こる他業界から見ればごく一般的な現象ではないかと認識している。
【技術革新による消費行動の変化】

 自動車は誕生以来、ここまで普及する段階においてさまざまな製品バリエーションが生まれてきたものの、内燃機関で発生させた動力を用いて走行するという基本的な製品の構造に変化はなく、業界全体として製品構造そのものが変化するような、いわゆる技術革新を経験してこなかった。

 しかしながら、地球規模の環境意識の高まりを受けて開発が進められた環境対応車は自動車業界における技術革新というべきものであり、また、その中でもハイブリッド車が本格的に普及期を迎えたことにより、消費行動が変化してきたと見るべきであろう。

 筆者は約 4年前に技術革新により業界内の競争のルールが変わるというテーマでコラムを書いている。

『技術革新による競争のルールの変化』

 この中で、技術革新により先行技術開発の重要性が高まること、また、デファクトスタンダードを確立することの重要性が高まることについて言及しているが、これは他業界に目を向けるとごく一般的な話である。

 例えば、電機業界の例ではデジタルテレビなどがそうである。次世代テレビの方式として液晶とプラズマがデファクトスタンダードの座を争った結果、現在では液晶がほぼデファクトスタンダードとして市場から認知される状態となっている。

 そして、重要なことは次世代のデファクトスタンダードの出現、及び確立が進展し、市場に認知されだすと消費者は昔の方式には後戻りしないということである。

 たとえば、デジタルテレビが普及するタイミングでアナログテレビを購入する人がいるだろうか。また、iPod に代表されるデジタル音楽プレイヤーが普及するタイミングで MD プレイヤーを買おうとする人がいるだろうか。

 つまりこれからクルマを買うならハイブリッド車という認識が消費者の間で醸成されつつあり、その意識が昨今のハイブリッド車への受注の集中という現象を引き起こしているのではないかと思われる。

 勿論、デジタルテレビと同じような時間軸で置き換えが進むものではないだろうが、技術革新が市場に浸透する段階においてはごく自然な消費者の行動であるといえる。
【60年代的状況への回帰】

 そして、一方で、このような昨今の自動車市場の状況は日本がモータリゼーションを迎え、自動車の普及が進んだ 60年代の状況に重なる、回帰する部分があるのではないかとも考えている。

 それはつまり、前述したようにハイブリッド車が市場の主流になる過程において、ハイブリッド車の需要が供給を上回り、供給する側の製品ラインナップが限定されるため、必然的にある特定の車種に販売が集中するという状況である。

 例えば、60年代には自動車需要が勃興し始めた状況下で、クラウン、セドリック、コロナ、ブルーバード、カローラ、サニーといったそののちも長らく旗艦車種となるモデルが発売され、消費者への選択肢が限定的であったため販売も集中していた。そして、おそらく現在のプリウス、インサイトも 21 世紀の旗艦車種になっていくことだろう。

 また、今回、ハイブリッド車に対する消費者の関心の高まりを受け、自動車メディアに限らず一般メディアでもプリウス対インサイトという取り上げられ方をしているのを目にするが、これはかつての BC 戦争(ブルーバード対コロナ)、サニー、カローラの競争といったものを彷彿とさせる。

 そして、結果的に国内市場においてはトヨタがモータリゼーションの時代を経て、 40 %近いシェアを占めるまでに至るわけだが、現在の状況が 60年代に回帰しているのであれば、当時の状況から何か示唆が得られないだろうか。

 トヨタが国内市場でシェアを伸長することができた理由としては、一概には言えないものの、経営者のリーダーシップや販売のトヨタといわれた販売力がよくキーワードとして挙げられる。

 販売力に関していえば、一般的に成長する市場においては車種数、販売チャネルといった観点から消費者に対し、より多くの選択肢をより多くの頻度、場所で提示することが重要であるため、ハイブリッド車が普及する過程においても同様に重要なファクターになってくるだろう。

 一方で、消費者に訴求するポイントという意味では、時代を経て、当時とは異なるものが求められそうである。例えば、かつては品質といえば製造品質であり、性能といえば走行性能であったが、今後はそれらの概念の重要性が相対的に薄れて、企画・開発品質や環境性能の重要性が高まることになるものと思われる。

 また、現在、自動車業界においては、金融危機以前の反省も踏まえ、顧客重視の姿勢が強まっているが、革新的な商品のマーケティングについては、消費者の声を単純に吸い上げるだけでは十分でないということはよく言われるところである。消費者は経験したことのない商品については、的確にニーズを表現できないものであり、供給側は顧客の潜在ニーズを探ることが必要になる。
【試金石としての国内市場】

 金融危機以前は国内市場が低迷する一方で、北米等の海外市場が好調であったため、企業の業績面からすると、国内市場は軽視される傾向にあったと聞く。

 しかしながら、現在の自動車市場は金融危機の影響もあり全世界的に市場が低迷している。また新興国市場が復調してきているが、中国の自動車市場において小型車が好調であったりと、かつての自動車市場とは市場構造等の面で姿を変えつつある。

 国内市場は金融危機以前からいち早く小型化、クルマ離れといった課題が顕在化しており世界の自動車市場の変化を先取りしていた面があり、人口動態的にも日本が直面する少子高齢化はいずれ、世界が直面する課題でもある。

 そういう意味でいくとハイブリッド車が普及し始めた日本市場は全世界で始まる技術革新後の時代の試金石になることが予想されるため、今まで以上に注視する必要があるのではないだろうか。

<秋山 喬>

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