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コラム

非連続性の訴求によりクルマ離れを食い止める

◆日産、「ぶつからないクルマ」を 2011年に米国市場に投入へ

                   <2009年 7月 23日号掲載記事>

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【ぶつからないクルマの具現化】

 日産は、車の前後左右など全方位からの衝突を回避する安全技術を搭載した車種をインフィニティブランドのラインアップに加え 2011年までに米国市場に投入する方針を明らかにした。

 車載センサーが接近車両を検知すると、ブレーキが自動的に作動し、衝突を回避する。こうした機能を持つ量販車は世界初となる見込みで、日産では「ぶつからないクルマ」として安全技術をアピールする考えとのことである。

 日産の技術は、車載センサーが障害物や車両を検知すると表示と音でドライバーに警告すると同時に各輪のブレーキを制御し、車両方向を変えることで障害物を自動的によける。センサーは前後部、左右に設置し、ほぼ全方位からの衝突を避けることが可能となる。
 全方位での衝突回避技術は、高速走行が多い米国でニーズが高く、当初はインフィニティでの搭載を目指すが、左右センサーに関しては、年内に国内で発売予定の高級セダン「フーガ」に初めて採用される見込みとなっている。

 これまで、今後の自動車の技術開発に求められる要素として環境、安全、快適というキーワードがよく挙げられてきた。

 但し、現在は、その中でも特に環境に焦点が当たっており、消費者の意識も、自動車メーカーの意識、リソース配分も環境分野に集中している状態である。

 しかしながら、自動車が持つ負の側面の解消という観点からは、勿論、安全も重要であることは間違いなく、当該分野における技術開発も継続的に行っていくことが求められている。
【The 安全車の必要性】

 筆者は現在の自動車業界において先進技術、及びコンセプトを市場に訴求、浸透させていくためにはそれらを具体的に体現した量販モデル、それも専用車の開発が効果的ではないかと考えている。

 環境分野でいうとトヨタのハイブリッド車プリウス、または、先日、公開されたばかりの日産の電気自動車リーフなどがこれに該当する事例になるだろう。

 環境分野に比べて、安全分野では、実用化された技術が順次、高級車を中心に搭載されている状況であり、これまでぶつからないクルマというコンセプトを具体的に体現した、いわば The 安全車とも言うべきモデルというのは存在しなかった。

 今回の報道にある日産の事例が、どの程度、上記の考えに合致するものなのかは把握していないものの、安全技術の市場への訴求、浸透が進展するのではないかと期待している。
 また、このような考えの背景、前提としては、先進技術を投入していく対象となるのは主にクルマ離れが進む先進国ということが挙げられる。

 クルマへの関心が低下している市場においては、消費者が積極的にクルマに関する情報を収集する機会も減少するため、コンセプトカー等では消費者への訴求が十分でないと思われ、また消費者が購入するのは製品であり、個別技術ではないという観点も踏まえると、具体的な量販モデルが訴求、浸透には必要になってくるものと考える。

 また、専用車という意図は消費者の関心がクルマから離れつつある環境を活性化するためには、消費者に対して、いかに従来からの非連続性を訴求することができるかということが重要だと考えるからである。

 このような環境下では、既存のクルマの延長線上のものと認識された時点で消費者の購買意欲、行動に大きな変化を生じさせることは難しくなるだろう。

 プリウス以降、ハイブリッド車のより一層の普及に際して、専用車が求められたというのもそこに起因するものと思われる。

 そういう意味で、安全分野においても、市場への更なる訴求、浸透を考えるうえでは、コンセプトを具体的に体現した専用車が必要とされるのではないかと考えている。
【非連続性の訴求によりクルマ離れを食い止める】

 先進国におけるクルマ離れについては既に言及したが、非連続性を感じさせる専用モデルによって、クルマ離れを起こしている、いわゆるクルマ好きとは異なる、一般消費者の目を再度、クルマに向けさせる効果が期待できるのではないだろうか。

 先進国では、自動車が日常生活において当たり前の存在になるにつれて、クルマに熱狂するコアなクルマ好きというのは減少傾向にある。

 しかしながら、こういった現象は事業ライフサイクルの観点から考えると、ある種、自然な状況でもあり、むしろ、誕生して 100年近く経った今になってようやくこのような話が出てきたということ自体が驚異的とも考えられる。

 他業界に目を向けると、事業ライフサイクルにおける停滞期というのは散見されることであり、その中でも停滞期を脱した事例というのは現在の自動車業界にとって示唆を与えてくれるだろう。

 では、事業ライフサイクルの時間軸については大きく異なるが、日本のゲーム業界の事例を見てみよう。

 ご存知のとおり、1980年代前半に任天堂が発売したファミリーコンピューターが大ブームを巻き起こして以降、ゲームは消費者にとってポピュラーな娯楽の一つになったが、その後、高性能化、複雑化が進み、徐々に一般消費者にとっては敷居が高いものになっていき、やがて 2000年前後には、限られたゲーマーだけのものになってしまっていた。

 任天堂もゲーム機の処理速度や画像の鮮明さといった性能面では、ソニーに代表される後発のプレイヤーに対して優位性を保てなくなり、業績自体も低迷していった。

 しかしながら、そういった状況を打破したのが 任天堂自身が生み出したニンテンドー DS (2004年発売)、Wii (2006年発売) といった既存のゲーム機の延長線上にない製品である。

 これらは処理速度や画像の鮮明さ等、これまで重要と考えられてきた要素においては既存のゲーム機に劣るものの、非連続性を感じさせるタッチパネルや縦型リモコンの使用により新たなゲームの楽しさを提供する一方で、皆でわいわい楽しめるというゲームの原点に立ち返り、ゲーマー以外の一般消費者の目を再度ゲームに向けさせた。

 ゲームは完全に嗜好品なので、生活必需品の要素もある自動車と一概に比較できないかもしれないが、自動車の嗜好品としての要素が薄れてきていることをクルマ離れと言っているわけだから、ゲーム業界の停滞期打破のキーワードである非連続性、加えて原点回帰というのは参考にすることができるだろう。

 また、クルマ離れという現象については熱狂のゆれ戻しという要素も多少影響を及ぼしているのでは個人的にはないかと考えている。

 クルマは日本に限らず、モータリゼーションの過程で、大概、国民の熱狂を巻き起こすものであり、他の製品に比べると長期的に関心を集めるものであるが、一般論として、人であっても、モノであっても、あまりに流行してしまったものというのは、それが沈静化すると逆に、消費者から敬遠されるということが起こりがちである。

 ユニクロなどはまさにフリースでそういう状態になったわけであるが、近年、低価格は維持しつつ、ヒートテック等の機能性を新たな価値として加え、消費者に訴求することによって停滞期を脱して業績的にも復活してきた。ここでも新たな価値により、非連続性を感じさせたことが停滞期脱出のきっかけになったといえるだろう。

 このように他業界の事例を参考にしてみても、クルマがこれまでとは大きく変わりつつあるという非連続性を消費者に認識させることが、クルマ離れ防止を考えるうえでは効果的ではないだろうか。
【技術開発とマーケティングの合わせ技】

 現在の自動車業界は底を打ったとはいえ、まだまだ業績的には厳しい状況であるが、そんな中で、各社とも将来の競争力の源泉となる技術開発への投資は継続的に行っていくとしている。実際、各社とも研究開発費の絶対額こそ昨年に比べて減少しているものの、売上高比率はむしろ上昇している。

 また、トヨタが世界市場でのマーケティング活動を統括する新しい子会社、及び、その傘下となる国内マーケティング会社の設立を発表したように市場の声を積極的に収集するマーケティング機能の強化も今後、加速していきそうである。

 上記は勿論、それぞれ独立したファンクションとして維持、強化すべきと思うが、それに加えて、今回のテーマにあるように開発した技術をいかにパッケージングして世の中にマーケティングしていくか、つまり上記技術開発とマーケティングの合わせ技が問われている局面でもあると考える。

<秋山 喬>

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