本文へジャンプ

コラム

世界全体最適の模索

◆日産の志賀 COO、「軽自動車」の販売を縮小する方針を表明

◆スズキ、海外向けに開発している中型セダン「キザシ」を国内市場にも投入

                    <2009年 10月 08日号掲載記事>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【日産とスズキの意思決定】

 日産の志賀 COO は、新聞社とのインタビューの中で、軽自動車の販売を縮小する方針を明らかにしたという。現在、スズキ、三菱から OEM 供給を受けている軽自動車のユーザーを、10年代初めにも国内展開する小型・低価格の世界戦略車に取り込み収益拡大を図るとのことである。

 計画している世界戦略車は、マーチの後継車で、排気量は 1,000cc クラス。部品削減などコスト低減で価格を 100 万円前後とマーチを下回る水準に設定する。10年 3月からタイで生産を開始、世界 150 カ国以上で 100 万台の量販を目指す。

 08年度で、日産の国内新車販売に占める軽の割合は約 2 割であり、スズキのアルトや三菱自動車の eK ワゴンなどの OEM 供給を受けている。これまでは軽を低価格車を求める顧客が他社に流れるのを防ぐための受け皿として、位置付けてきたが、今後、自動車税の軽減により軽の税メリットが薄れる可能性も念頭に置き、現在の軽ユーザーを世界戦略車に取り込む方針という。

 一方で、日産に軽を OEM 供給しているスズキは世界戦略車として開発した新型セダン「キザシ」を、近く国内で発売するという。

 キザシは、同社が初めて開発した排気量 2,400cc の中型乗用車であり、今冬に北米市場に投入する方針を既に表明していたが、国内で発売するモデルも、排気量などの仕様は同等とみられる。
【国内の位置づけの変化】

 金融危機の影響は日本の自動車市場にも及び、販売台数の記録的な減少を引き起こしたが、日本市場の低迷は数年前から継続しているものであり、他の市場のように一過性のものではなく構造的な問題といえる。

 人口の減少や少子高齢化、若者、都市部での車離れといった主に人口動態的な要因により、ストックである保有台数も 07年度から減少を開始している。

 このような国内市場の低迷により、過去数年、国内事業の収益性が問題視されるようになってきていたが、各自動車メーカー内における各地域間の力学や資金・開発人員といったリソースの配分等にも影響を及ぼすようになっていたことは想像に難くない。

 特にリソースが潤沢でない下位メーカーにとってその傾向は顕著であり、全社的な観点から見てそれほどリターンが期待できない国内市場に投入するリソースを確保できず、結果的に国内専用車の開発も難しくなってきているという悩みも聞こえてきていた。

 それに加えて、今回の金融危機は自動車メーカー自体の業績の悪化ももたらし、開発投資、設備投資の抑制を余儀なくするとともに、事業構造の転換も迫っている。そのような環境の中で、今回のニュースのように、国内市場を母国市場だからといって、特別扱いせず、世界全体の中での一市場として捉える動きが出始めている。

 また、円高傾向は今後もしばらく続くと見る向きも多い中で、マーチのように世界最適生産の検討の結果、海外への生産移管が進むケースなど事業構造の変化も起こってくることが予想され、国内生産のあり方も見直されることになるだろう。

 このような傾向が進展すると、世界市場をターゲットにしたクルマが世界各地の最適な場所で生産され、日本にも輸入される、ということになる。
【世界全体最適の模索】

 しかしながら、市場というのは各自動車メーカーの施策によって形成されるという部分もある。各社が国内市場に対しリソースを投入しないために市場が縮小していき、そのためにさらにリソースを投入しづらくなっていくという負のスパイラルに陥ってしまう危険性もある。

 今回の日産の意思決定にしても、現在の 2 割の軽自動車ユーザーがより上のクラスである世界戦略車に上手く乗り換えてくれるかという危うさをはらんでおり、目論見どおりいかないと国内での販売シェアを失う恐れもある。

 その意味で、国内市場に対しては慎重に意思決定を行う必要があるだろう。

 また、海外への生産移管が国内生産の純減、産業の空洞化につながり、国内の雇用が失われるようでは国家を支える基幹産業の立場としても好ましくない。

 それを避けるためには、従来進みつつあった国内と海外での生産のすみ分けについても役割分担をより明確にしていく必要があるものと思われる。つまり、国内では環境対応車やプレミアムモデル、新規開発車を生産し、海外では現地のニーズに即した製品、また新興国では価格競争力の必要とされるモデルを生産するという構図である。つまり、乱暴な言い方をすれば日本での生産は新しいもの、付加価値の高いものにシフトしていくという流れである。

 実際、マーチの移管元である日産の追浜工場は 10年から電気自動車や新開発の小型車を生産し、生産規模を維持する考えとしている。

 また、事業構造が変化すれば、当然それを生み出す人材にも変化が求められることになるだろう。

 特に、日本においてはマザーカントリー、マザーファクトリーという言葉が使われて久しいが、そういったマザー機能が更に追求されるようになることで、当該機能を担うべき人材が求められる。

 加えて、否が応でもより一層のグローバル経営が求められる環境下においては、経営人材のグローバル化も検討しなければならない課題だろう。
【サプライヤへの影響】

 自動車メーカーの一連の事業構造の変化は、当然、部品を納入するサプライヤにも影響を及ぼす。新興国向けの低価格車に代表されるように、将来的にはこれまで以上に自動車メーカーの海外生産比率が高まり、更に車両開発の機能が海外へと移管されるケースも増えることが予想される。

 そのような自動車メーカーの動きに対応するためには、サプライヤとしても生産、開発ともに海外展開を加速させなければならない。

 また、これまで日系サプライヤは海外に進出した際に人件費が低い中国やインド等の新興国のサプライヤに対抗するため、高付加価値で勝負するというのが通説となっていたが、それだけでなく、安い値段で部品を調達したいが、現地のサプライヤでは少し不安という、いわば中間帯のニーズが出てくる可能性も考えられる。

 いずれにしても、自動車メーカー、サプライヤともに今後は世界全体最適という言葉をどのように解釈して、自社の戦略、施策を展開していくか、という点が重要になってくるものと思われる。

<秋山 喬>

  • コラム
  • 業界アンケート
  • 書籍&レポート
メールマガジン

住商アビーム自動車総合研究所が発信する各種情報をご紹介します。当研究所のスタッフが日々移り変わる自動車業界を、経営と現場を結ぶ視点で紐解いた記事やコラム、等です。

無料配信申し込みはこちら
PDF メルマガ見本はこちら

News -プレスリリース・メディア対応 自動車業界ライブラリ

UPページの先頭へ