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コラム

新興企業を活用した自己変革の試み

◆トヨタと米テスラ、電気自動車開発で提携

                    <2010年05月23日号掲載記事>

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【トヨタとテスラの提携】

 トヨタとテスラモーターズは 5月 21日、電気自動車とその部品の開発、生産システムおよび技術に関する業務提携を実施していくことで基本合意したと発表。今後両社は、専門チームを組織し、具体的な提携業務の内容や対象範囲等について、検討を開始すると言う。

 トヨタはテスラに対し 5000 万ドル (約 45 億円) を出資し、テスラの株式を取得する。テスラはトヨタが GM と設立した合弁会社「NUMMI」の工場跡地の一部を購入したと発表しており、そこで 2012年にも投入するセダン型の EV 「Model S」を年間 2 万台規模で生産する計画。それにあたってトヨタは効率的な生産ノウハウを提供する模様である。
 また、トヨタの豊田章男社長は提携に際し「高い技術力、モノづくりにかける強い思いやひたむきな姿勢に、テスラ社の無限の可能性を感じた。ベンチャー企業である同社から、チャレンジ精神や意思決定のスピード、柔軟性を学び、かつてベンチャー企業として生まれたトヨタにあった精神を思い起こし、新たな未来に向けチャレンジしていきたい」とのコメントを発している。
【トヨタにとっての意味合い】

 ご存知の方も多いと思うが、テスラはシリコンバレーの技術者らが設立したEV ベンチャーであり 08年発売の「テスラロードスター」は 1000 万円以上の価格ながらも、ロータス・エリーゼのシャシをベースにしたスタイリング、最高時速 200 km、1 充電当りの航続距離は 380km、という高級、高性能スポーツEV として社会的に話題を呼んだ。(航続距離については、明確な試験法、定義がはっきりしていないため、他車種との比較がどこまで有効かという問題はある。)

 今回の提携自体は、豊田社長とテスライーロン・マスク CEO との間で 4月に行われた会談以降、トップダウンで交渉が進み、わずか 1 ヶ月で提携に至ったとのことだが、今回の提携をトヨタの立場から見ると、政治的な意味合いとビジネス上の戦略的な意味合いの両面が見受けられる。

 まず政治的な意味合いでは、品質問題や NUMMI の工場閉鎖などで米社会において少なからぬ批判を受けたトヨタにとって、テスラの支援を通じて、再び米社会に溶け込んだ存在を目指すことが挙げられる。

 テスラは米自動車産業の新たなけん引役として期待を背負う存在であるし、NUMMI の跡地での工場再開により 1000 人程度の雇用が生まれる見通しである。NUMMI の工場閉鎖の際には約 4700 人の従業員が解雇されたものの、テスラ支援を通じて再度、トヨタは米国の雇用に貢献する格好になる。

 次にビジネス上の戦略的な意味合いでは、さまざまな環境車が並存する時代に備えて、HEV に加えて、EV分野を更に強化するということが挙げられる。

 今回の提携により、EV分野の強化を消費者、業界に対してアピールできるという効果もさることながら、トヨタが実質的に興味を持つのは、テスラの電池技術だという。

  テスラは、民生用の電池をつなぎ合わせて大きな容量にするパッケージング技術に優れており、ロードスターの電池はノートパソコン用電池を 6000個以上組み合わせたものであり、HEV や EV で専用電池を使うトヨタなどとは開発思想や電池に対するアプローチの方法が根本から異なる。

 ビジネス上の戦略的な意味合いとしては、不確実性の高い時代を迎えるにあたり、このようなベンチャーならではの旧来の業界常識に囚われない発想や技術を取り込んでおきたいという意図が感じられる。

 今回の提携の意味合いとして、二つの観点を挙げたが、短期的には政治的な意味合い、中長期的にはビジネス上の戦略的意味合いの効果が創出されてくるものと思われる。
【既存自動車メーカーによる新興企業への投資】

 昨今の自動車業界においては将来の見通しが不透明であるため、その対応として業界各所でさまざまな提携関係が起こりつつあり、それらはいくつかのパターンに類型化して考えることができる。

 まずは、VW ・スズキ、日産・ルノー・ダイムラーのように既存の自動車メーカー同士が自社の得意、苦手な分野を相互補完する形で提携関係を構築するケースである。

 この場合は、不確実性の高い将来に備えて環境技術投資や新興国投資等を、複数社で分担することで 1 社あたりの負担を軽減するというのが狙いである。

 続いては、吉利汽車によるボルボ買収、タタによるジャガー、ランドローバー買収、などの新興国の自動車メーカーが欧米の既存ブランドを買収するというケースである。

 これは、言うまでもなく、世界的な躍進を目指す新興自動車メーカーが手っ取り早くブランド、技術を手に入れたいという狙いがある。

 そして、3 つめに今回のように既存の大手自動車メーカーが新興企業に対して投資、もしくは新興企業と合弁会社設立を行うケースが挙げられる。

 ダイムラーは昨年テスラに出資を行いバッテリー技術の供給を受けることを決定したほか、BYD とも中国市場向けの EV を共同開発する合弁会社を折半出資で設立すると発表した。また、業務提携ながら、日産、ルノーがインドのバジャジ・オートと超低価格車開発を行うというのもこのケースに該当するだろう。

 これらは、将来、業界構造がどうなるか分からない不確実な状況の中で、新たな技術や発想との接点を幅広く確保しておこうという狙いがある。

 このように既存の大手企業が新興企業に出資するというケースは、日進月歩で技術や業界構造が変わっていく IT 業界などでは散見されるが、(グーグルによるユーチューブへの出資、ソフトバンクによるアリババへの出資、等)自動車業界でもこのようなケースが出てきたということは、自動車業界自体が変革期を迎えていることの証左であろう。

 また、自動車産業はどの国にとっても基幹産業であることから、新興企業への投資は単に一新興企業への投資に留まらない場合が多い。テスラ、BYD にしても設立から日は浅いものの、米中両政府の期待を受ける存在である。

 特に EV は社会インフラとセットで考えられるべきものであり、社会インフラのルールづくりには各国政府の思惑も絡む。テスラへの出資を通じて、ルール決めの部分への足ががりを確保しておくということは、将来、EV を本格的に展開するうえでも重要になってくるだろう。
【新興企業参入による業界活性化】

 100年近くにわたって、自動車には、革新的な製品構造の変化が起こってこなかったため、業界構造にも大きな変化が起こらず、結果的に業界プレイヤーは既存の大手企業中心で新興企業の参入は少なかった。

 そのことは業界としての安定化には寄与してきたが、逆を返せば、業界活性化、抜本的な変化につながりにくいのも事実であった。

 現在の自動車業界は変革期にあり、将来的にはどう変化していくかわからない状態にあるため、世界中でさまざまな新興企業が自動車業界参入のチャンスを窺っている。

 今後は、業界内でこれまでの常識が通用しない局面も出てくることが予想されるため、既存の自動車メーカーも全て自前ではなく、このような新興企業の技術や発想を上手く取り入れ自己変革を図っていくことが必要ではないだろうか。

<秋山 喬>

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