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コラム

更なるグローバル化と取り組むべき経営テーマ

◆日産、タイから新型グローバルコンパクトカー「マーチ」の輸出を開始

                    <2010年06月30日号掲載記事>

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【タイからマーチの輸出開始】

 タイ日産は新型「マーチ」の国外向け輸出を開始したのを記念して 6月 30日に同社の車両組立工場で出荷式を行った。

 新型「マーチ」の最初の生産開始国となるタイでは 2010年度、9 万台を生産し、タイ国内市場に供給するとともに、日本を中心に中国、インドネシア以外のアジアおよびオセアニア地域へ輸出する予定。

 タイでの生産立ち上げに際しては、日本同等の高い品質水準を確保する為、日本からサポートチームが派遣されたものの、組み立て部品の約 90 %は現地化されているという。

 また、マーチはタイ政府が認定するエコカー計画の第 1 号となっており、現地では年間 2 万台の販売計画のうち、すでに約 1.6 万台の受注が入っている。
 
 同車はインド、チェンナイ工場でも「マイクラ」のモデル名で生産され、本年 7月には欧州、中東、アフリカ地域の 100 カ国以上への輸出が開始される。加えて、さらにメキシコ、中国でも生産され、グローバルに 160 以上の国と地域で販売される予定である。

 業界内で注目を集める本ニュースであるが、本ニュースには、今後、更なるグローバル化が求められる自動車業界において重要となる経営テーマが複数包含されている。
【世界最適生産】

 まず最初は、世界最適生産のあり方をどうするべきかという生産体制に関するテーマである。

 今回のマーチの生産移管の話自体は、タイ政府のエコカー計画に対応する形で、リーマンショック以前より進行していたものと推測されるが、リーマンショックに伴う円高の影響で巻き起こった世界生産体制の見直し、海外への生産移管といった経営テーマをあたかも先取りしたような格好となった。

 日本国内で販売している主力車種の生産を海外に移管し、日本国内へ輸入するという意味でこれまでに前例のない取り組みといえるが、この決定の背景には、国内販売の低迷、為替の円高基調が今後も継続するのではないか、という見方が存在している。

 このような状況では、市場でのコスト競争力を維持するために海外への生産移管が積極的に検討される一方で、それが単純に国内生産の純減、国内雇用喪失につながるようでは国家を支える基幹産業の立場として好ましくないという問題が発生する。

 この問題を解決するためには、従来進みつつあった国内と海外での生産のすみ分け、及び国内生産の役割をより明確にする必要がある。

 つまり、国内では環境対応車やプレミアムモデル、新規開発車を生産し、海外では現地のニーズに即した製品、また新興国では価格競争力の必要とされるモデルを生産するという構図の確立であり、そうすることでコスト競争力と国内での雇用という、ともすればトレードオフになってしまう要素を上手く解決していく必要がある。
【グローバルローコストカー】

 次のテーマは、主に新興国を対象としたグローバルローコストカー、という製品面に関するものである。

 新型マーチは日産が新開発した小型車用プラットフォームである V プラットフォームを採用しており、同社は 2013年には同プラットフォームを使用した小型車をあと 2 車種追加し、全世界で 100 万台以上を販売する計画である。

 現在、小型車セグメントにおける日産のグローバルシェアは 3% にも満たない状態であるが、今後、シェアアップを狙うためには、トヨタカローラや VW ゴルフのように 1 車台で 100 万台を売るような旗艦モデルが必要とされており、その意味でも今回のマーチ、及び V プラットフォームには大きな期待がかかっている。

 実際、V プラットフォームは部品点数を 4 割削減する一方、一つの基本骨格でハンドルの右左、トランスミッションの手動、自動などに対応できるよう設計されており、150 を超える販売国の事情にも適合できるようになっている。

 このように、設計を簡素化し、プラットフォーム、車種を高度に共通化することで、低価格を実現し、新興国を開拓するというのは、日産に限らず、各メーカーが検討していることである。

 しかしながら各市場には共通化できない個別のニーズがあるのも事実である。共通化によるコスト削減と差異化による商品魅力度向上をどこまで両立していけるかは今後自動車業界において重要となるテーマであり、今回のケースはその一つのチャレンジといえるだろう。
【グローバルな組織体】

 また、生産体制、製品といった事業面でのグローバル化が進展するのに合わせて、今後、グローバルな組織体とはどうあるべきかというマネジメント面の課題が経営テーマとして浮上してくる。

 2004年に生産が開始されたトヨタ IMV プロジェクトでは、タイ、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチンを主要生産拠点とし、世界 140 ヶ国以上の国へと製品を輸出した。世界戦略車を日本以外の地域で最適生産するという意味で、今回のケースとも重なるが、生産車種はあくまでも日本市場とは関係が薄い車種であった。

 今回のケースはそこから更に進展して、日本市場での主力車種であっても、日本以外の地域で最適生産を行うわけであり、今後、日本が徐々に市場としても生産拠点としても必ずしも特別な存在ではなくなり、世界の中で one of them 化していくことが予想される。

 このような状況下では、これまで以上に人材の現地化が必要であり、実際、自動車業界に限った話ではないが、トヨタ、コマツ、等、海外現地法人のトップに現地人材を充てる方針を明確にする企業が増えてきている。

 その一方で、生産体制の箇所でも言及したとおり、本社機能としての日本の役割を再定義し、世界のコントロールセンターの位置付けを明確にすることも必要であり、まさに遠心力と求心力の双方がグローバルな組織運営には求められる。

 このように、更なるグローバル化を実現するには、取り組むべき複数の経営テーマが存在するが、各テーマとも、二律背反しがちな要素が含まれている。今後は相反する要素を上手くマネジメントしながら世界規模での将来像を描いていく必要があるだろう。

<秋山 喬>

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