AYAの徒然草(90)  『「産業カウンセラー」になりました。』

仕事で成果を出すことにも自分を輝かせることにもアクティブなワーキングウーマンのオンとオフの切り替え方や日ごろ感じていることなど素直に綴って行きます。また、コンサルティング会社や総合商社での秘書業務やアシスタント業務を経て身に付けたマナー、職場での円滑なコミュニケーション方法等もお話していくコーナーです。

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第 90 回 『「産業カウンセラー」になりました。』

島本理生さんという作家がいます。私の好きな作家の一人です。先日、新作の「君が降る日」を読みました。主人公の女子大学生が、恋人の突然の交通事故死から立ち直っていく物語でした。私が島本さんの小説が好きな理由は、はっきりしています。それは、一貫してストーリーの根底に、「辛い経験をした主人公がゆっくりと時間をかけながらも立ち直り、新しい一歩を踏み出していく」という前向きな姿勢が流れていて、読み終わった後に、自分も励まされた気持ちになれるからです。なんだかとても嬉しくなるのです。

ところで、みなさんは「カウンセリング」をご存じでしょうか?「カウンセリング」とは、「言語的・非言語的なコミュニケーションを通して専門的な立場から、個人が悩みを解決し心理的な成長を遂げるように援助すること」と、一般的には定義します。

カウンセリングには、様々な心理学者の唱える理論があり、それは何百種類もあると言われています。その中でも有名なのは、精神科医フロイトが唱える精神分析などで、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
私は、去年、このカウンセリングに興味を持ち、約1年間、毎週土曜日、朝から晩まで学校に通ってカウンセリングについて学びました。そして今年 1月に試験を受け、無事合格し、3月に「産業カウンセラー」の資格を取得しました。

「産業カウンセラー」とは、主に「働く人」を対象に、心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える悩みを自分の力で解決できるようサポートすることを使命としています。(詳細は、以下、社団法人日本産業カウンセラー協会の HPをご参照ください。↓)
http://www.counselor.or.jp/

私がカウンセリングについて学ぼうと思ったきっかけは、日本でももっと気軽にカウンセリングを受けることができたらいいのになぁと思ったことでした。
日本では、カウンセリングはあまり普及していませんよね。誰かがカウンセリングを受けに行くと聞けば、「なにかあの人は精神的に問題があるんじゃないか?」というような変な勘ぐりをしてしまう傾向があると思います。そうじゃなくて、「悩みがあってモヤモヤした気分が続いているからカウンセリングを受けてさっぱりしてこよう!」というように、気軽にカウンセリングを受けられる世の中になればいいなぁと前々から思っていました。イメージとしては、「髪が伸びたから美容院に行ってさっぱりしてこよう」とか「肩が凝って体が重いからマッサージに行ってすっきりしてこよう」と思うのと同じような気軽さです。そういう社会に近づけるためになにか行動を起こすには、まず、私自身がカウンセリングについて知らないといけないなと思い、一念発起して勉強したんです。

また、もっと深刻な現実も、私がカウンセラーを目指すきっかけとなりました。以前、新聞で「日本は自殺大国だ」という記事を読み、私にはそれがとても衝撃的だったのです。警察庁の統計によると、日本の自殺者数は、昨年(平成 20年)で 11年連続、なんと、毎年 3 万人を超えているんだそうです。今年に入って 4月までの自殺者数の累計も、既に 1 万 1 千人に達しているそうなので、このペースでいけば今年も 3 万人を超えてしまいます。こういった背景の一つには、バブル崩壊後からの日本経済の急激な変化があると言われています。「勝ち組」「負け組」などと言って生まれた二極化したような社会が生み出した残酷な結果の一つなのです。ところでみなさん、「3 万人」ってどれくらいの人数か想像がつきますか?
3 万人とは、横浜スタジアムの収容人数と同じくらいです。すごく多い人数だと思いませんか?ちなみに、警察庁の統計によると、昨年(平成 20年)、交通事故で亡くなられた方は 5 千人超だそうです。つまり、自殺者数は、交通事故死者数の約 6 倍もいるのです。また、自殺未遂者も含めれば、少なくともその10 倍はいると言われています。すなわち、30 万人です・・・。この現実を知れば、自殺者や自殺を考えている人は身近にいるはずで、他人ごとではないのです。

ちなみに、欧米では、カウンセリングは気軽に利用されています。それが理由かどうかはわかりませんが、WHO の発表によると、アメリカの自殺率は日本の 2分の 1、イギリスやイタリアは 3分の 1 だそうです。この数値には、カウンセリングに対する認識の違いや普及率が少なからず影響しているんじゃないかなぁと私は思うのです。

自ら命を絶ってしまった方は、なんらかの悩みを抱え、それを自らの力では解決できずにいて、死ぬことがその問題の解決策と思ってしまうのです。その大部分の人は、「うつ病」という心の病にかかった状態だったと言われています。うつ病は、誰でもかかる可能性のある心の病であることもカウンセリングを学んで知りました。14 人に 1 人が一生のうちでうつ病にかかると言われているのです。また、うつ病の人がなぜ死にたい気持になってしまうのか、その脳内のメカニズムも学びました。その過程で、周りにいる人が気づくことができて助けてあげられたら・・・と思うと残念でなりません。

私は今後、カウンセリングを通じてボランティアで社会に貢献していきたいと考えています。早速、今夏から、老人ホームを訪問しご老人のお話(悩み)を聴くボランティア活動に参加する予定です。また、カウンセリングを行う NPO法人の立ち上げに協力することにもなり、そこではカウンセラーとしてカウンセリングを行うことはもちろん、日本でももっとカウンセリングを気軽に利用できるよう、カウンセリング自体の PR 活動にも力を入れていきたいと思っています。

冒頭でお話した私が島本理生さんの小説が好きな理由ですが、それはなにも小説の中の世界だけではありません。「辛い経験をした人がゆっくりと時間をかけながらも立ち直り、新しい一歩を踏み出していく姿」は、むしろ現実の世界で見ることの方がずっと好きです。

資格を取った後、既にカウンセラーとして活動し、カウンセリングを行う機会が何度かありましたが、あるクライエントさんから、こんなことを言われました。「佐藤さんのおかげで悩みから解放されて元気になってきました。食欲も出てきて心身共に健康になってきました。どうもありがとうございました。」と面と向かって言われたときは、本当に涙が出そうになるくらい嬉しくなりました。

これからは、このコラムの中でも、カウンセリングに関することもお話していければいいなぁと思っています。「カウンセリングってどんなこと?」から始め、ストレス対策などの様々なメンタルヘルスに関するお話、職場での人間関係開発(コミュニケーション能力開発等)についてのお話、また、自分の周りにメンタルダウンしている人がいる場合の対応などもお話していきたいと思います。私が今後ここでお話しするカウンセリングに関することが、みなさんの生活の中でもお役に立つことができれば、とても光栄です。

<佐藤 彩子>