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コラム

ビジネスアイデアを実行するために必要なことについて考える

◆愛知県タクシー協会が、タクシー事業者向けに新規のビジネスアイデアを提
 案

<日刊自動車新聞2006年06月02日号掲載記事>

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【タクシー協会が提案した 8 つのビジネスアイデア】

 愛知県タクシー協会が、タクシー事業者向けに新規のビジネスアイデアを提案した。以下日刊自動車新聞 6月 2日付けの記事より抜粋する。

・タクシーを活用した子育て支援事業「塾生徒の安全・安心送迎タクシー」
・空車タクシーを活用したコミュニティータクシー事業(路線バス方式)」
・空車タクシーを活用したコミュニティータクシー事業(オンデマンド方式)」
・タクシー事業者が行う救援事業「便利屋タクシー」
・タクシー車両を広告媒体として活用した広告募集事業「自作簡単取替ステッカー」
・訪問介護サービス及び訪問入浴介護サービスの参入
・地域と一体となった観光タクシー事業
・軽貨物事業者によるペットの移送サービス事業「ペットのタクシー」

 加えて紙面には、愛知県タクシー協会は今後さらに検討し実行に移していく考えと記載されていた。

 以前筆者は、NPO 法人「わははネット」とタクシー会社が共同開発した「子育て応援タクシー」事業を取り上げて、新規のビジネスアイデアを「創出する」ために必要なことについて考えたことがある。

 詳細は以下をご参照頂きたい。
『ビジネス・アイデアを生み出すために必要なことについて考える』
(改めて見てみると事例から意味合いを抽出する方向で考えているので、一般的にビジネスアイデアを創出するために必要と言われる予算・評価制度の整備や採択基準の明確化といった視点が含まれていないが、それはまた別の機会に取り上げることとする。)

 今回は、愛知県タクシー協会の例を取り上げて、創出された新規のビジネスアイデアを「実行する」ために必要なことについて考えてみたい。実行までのプロセスは自動車の開発プロセスに似たところあるので、それに順じてまとめることとする。

【プロセス1:商品企画】

 自動車の商品企画プロセスは、どんな商品や価格、サービスを提供するかを決める「コンセプト立案」のプロセスと、コンセプトを具体的な形や数値に置き換える「デザイン・構想書作成」の 2 つのプロセスから成っている。

 愛知県タクシー協会が創出したようなビジネスアイデアはコンセプトの一つを構成する要素でしかなく、他にも、そもそもなぜその事業を行うのか、いつ行うのか等の要素を盛り込むことが必要になる。5W1H を使うと網羅的にコンセプトを纏めることができる。

・Why:なぜこの事業を行うのか
・What:顧客に対してどんな価値を持つ、どんな商品・サービスを提供するのか
・Where:提供する商品・サービスは、どの地域、どの価格帯、どの流通ルートに投入するのか
・Whom:誰をターゲットとして提供するのか
・When:どのタイミングで行うか
・How:どのような儲かる仕組み(ビジネスモデル)で競争優位性を発揮するのか

 別のフレームワークとしてマーケティングで活用される Product、Price、Place、Promotion の 4P 別に纏めることもある。ただ、4P には調達や生産といった視点が含まれていないので、加えて検討すべきだろう。

 この過程で推定売上規模やコスト、概算投資金額、収益性を検討し、継続して検討していくかの判断を行う。

【プロセス2:製品開発(狭義)】

 自動車の製品開発プロセスは、シミュレーションや試作品の製作・実験の結果などによって内容を見直しながら、最終的な車の設計図・詳細仕様書を確定していくプロセスである。

 ビジネスの開発では、立案したコンセプトをベースに、この事業が幾ら儲かるのか?という How much を概算する。How much を概算するとは、運転資金、設備資金といった資金需要がいつ、どれくらい発生して、どこから調達するのかと、いつまでにどれくらいの利益が見込めるのかを計画することであり、前提条件を明示しておくことや、いくつかのオプションを設定することが重要である。

 またこの過程で、どんな経営資源をどんな配分で調達・投入するか、どれくらいのリスクをどうマネージするのかという点についての見極めも行わなければならない。

 そして、会社のビジョンやドメイン、戦略との整合性、財務状況、既存事業のシナジーといった内部的な評価と、市場規模や成長性、競合状況、既存商品との差別化状況といった外部的な評価の両面から、実行するのかを決定する。

 自動車では製品開発プロセスに至る時点で実行は決まっているが、ビジネスの開発ではこの段階で実行するか否かを決定し、アクションプランを作成することが一般的だろう。

【プロセス3:設備・工程設計・部材調達】

 自動車の設備・工程設計では、車両の設計図をもとに、金型・治具などの専門設備を設計・製造すると同時に、生産ラインの設計・準備を行う。部材調達では車両を構成する部品や材料の開発をサプライヤに支持を行い、サプライヤ側での製品開発と設備・工程設計の両方が含まれる。

 ビジネスの開発では、モノ的には固定設備の先行投資が始まり、人的には実行体制の整備や採用が始まる。部材調達という意味では提携先との交渉・合意を行う。つまり事業の立ち上げ準備を行う段階である。

 アクションプランの進捗管理を管理し、予期せぬ問題や障害が発生した場合に、必要に応じて戦略や財務計画まで立ち戻り修正していくことが重要だろう。そして、実行の準備が整っているかを判断し、市場へのローンチ時期を確定する。

 この後に、自動車では量産開始のプロセスで、ビジネスでは立ち上げ期になる。事業の状況をモニタリングし、一定期間経過後、事業を評価するための KPIやマイルストーンで当初の計画と比較し、追加投資を行うのか、様子をみるのか、縮小・撤退をするのかを決定する。

【まとめと応用編】

 創出された新しいビジネス・アイデアをビジネス・コンセプトを経てビジネス・モデルにまで仕上げていく実行過程においては、全体プロセスをいくつかのサブ・プロセスに分け、サブ・プロセスごとに固有の意思決定をしていくことが必要だと述べてきた。

 今回、愛知県タクシー協会が創出した 8 つのビジネス・アイデアについても、同じことが言えるはずである。

 しかしながら、今回のケースでは通常の企業活動における実行過程とは異なる特殊性や困難が伴う。これらのビジネス・アイデアを実行に移す主体は、協会に加盟する各社であって、協会には意思決定のための機関も権限もなく、執行にあたって必要となる予算も設備もスタッフも持っていないと考えられるからである。

 しかも、加盟各社はお互いに競合関係にあり、内部の経営環境や戦略も実行能力も別々だと考えられ、横並びで同じ投資をしてもその見返りは異なるなど、負担と受益の関係にも不均衡の発生が予想されるから、事態は一層複雑である。

 だが、こうした状況は愛知県タクシー協会だけに当てはまることではない。多くが組合組織のままとなっている各県の中古車販売店連合会(JU)やオートオークション、ボランタリー・チェーンの多い中古車買取店や整備業界・板金業界などの組織では頻繁に生じている問題である。

 さらに最近では、先週号で秋山が取り上げているように、素材業界、電機業界、通信業界など異業種において自動車産業への新規参入や事業拡大の意欲が高まっており、その実現のために法人格の枠組みを超えてグループに属する複数の企業が結集してバーチャル・カンパニーを作ったり、共同活動をしようとする動きがある。こうしたケースにおいても、意思決定やその執行おいて愛知県タクシー協会と同様の課題を抱えることが予想される。

 いわば応用編の議論が広がりつつあるのだ。

 それではこうした場合に、協会やバーチャル・カンパニーの事務局はどのようなことを心がけるべきだろうか。

 正統性と強制力の確保、オーナーシップの醸成、業績評価・人事処遇面での配慮、の 3 つが挙げられると考える。

(1)正統性と強制力の確保

   事務局の活動が各社の利益を代表し、各社の意思決定や執行の権限委譲  を受けた正当なものであり、その指示・指導に従うことが当然である、と各社が認識できるような枠組みが必要である。

   そのためには、第一に、各社トップの合意と、各々の社内に対する指示命令というプロセスが必要である。事務局に対して一定の権限と予算を委譲する方針の決定と伝達はリーダーの仕事である。

   第二に、そのためにも共通目的と想定成果物の明確化が必要である。各社の協調行動が何を目的としたものなのか、協調活動の結果として各社が得られる受益物としてどんなものが期待されるのかを明確にしておくことを指す。

   第三に、意思決定機関と制度インフラの設置・整備である。事務局には一定の裁量権を与えるにしても重要な意思決定に際しては、各社トップから成るステアリング・コミッティ等の機関を設置し、その承認を得て進めるなどの組織面での工夫を要する。また、意見が割れたとき、予算やリスク等が当初の想定を超えそうになったときなどの非常事態にどう対処するのかなど、制度や手続きを整備しておかないと正統性が怪しくなる。

   第四に、事務局は公正性と専門性を装備しておかなければならない。事務局の言動が特定の会社の利害を代表したものに過ぎないとか、デュー・プロセスを踏んでいない等と考えられるようでは信頼は生まれない。また、単なる事務処理屋と思われたのでは心からの信頼は醸成されないから、問題の処理能力や各社が必ずしも持ち合わせていない知見の提供も要求されると思われる。

(2)オーナーシップの醸成

   社内プロジェクトでも言えることだが、上から押し付けられたプロジェクトには当事者意識、貢献意欲が沸いて来ず、成果を生む範囲も水準もスピードも低次元に終わりかねない。会社をまたがる場合は一層である。

   そうした問題を回避し、実行力を高めるための具体策として以下3つがあげられる。

   第一に、飴と鞭がある。各社に相応の負担を求め、拠出した分だけは回収しようという動機付けを与える消極的な当事者意識醸成法が鞭である。一方、貢献度・関与度に応じて受益も大きくなるようなインセンティブを用意しておくことが積極的な当事者意識醸成法であり、飴である。

   第二に、成果の早期実現と共有である。効果は大きいが時間が掛かることばかり取り組むのではなく、小さな成果を早めに実現し、各社にそれを実感させることが、協調活動への貢献意欲を生む。もっともこれは予め手を打つことの出来る「策」ではないので、策としては、短期の成果を追求する分科会を設けたり、成果の出やすいテーマを予め盛り込んでおくということになろう。

   第三に、コミュニケーションである。自社の利害や関心・不平が吸い上げられ、反映されていないと感じれば、当然に参加意欲・当事者意識は低下する。プロジェクトの内容に応じて適切な手法・メディア・頻度でのコミュニケーションが必要になる。

(3)業績評価・人事処遇面での配慮

   正統性と強制力の面で各社のトップが納得し、オーナーシップ醸成の過程で各社は組織の立場では納得していても、実際に協調行動のための活動を行うのは各社が供出したメンバー一人ひとりであり、その個人の納得なくして進めたプロジェクトには大きな成果を期待できない。

   よくあるケースは、タスクフォース活動への参加・貢献が自社の組織で内では正当に評価されないばかりか、自社固有の活動に参加・貢献していないということでその分評価が下がってしまうことである。メンバーを排出した組織も同様で、人件費負担は変わらずに、工数を取られた分、組織業績が低下し、不利な扱いを受けることがある。

   そうした理由から、必ずしもタスクフォースに配置される人材は適材適所の選択とはいえないケースが出てくる。その結果、タスクフォース活動が本来期待すべき成果を生まないという事態が生じかねない。

   こうしたことを避けるため、少なくとも各社内でタスクフォース活動に参加・貢献した組織や個人が不利益を蒙らないような業績評価・人事処遇面での配慮が必要で、それを予めトップ同士の合意に盛り込み、各社内での指示命令においても明確化しておくことが望ましい。

 このようにビジネス・アイデアはその創出過程における難しさと同様に、実行過程でも多くの課題を持つ。それを企業の壁を乗り越えて実行していく際はなおさらである。私どもの会社でもお力になれることもあると思うので、同じような課題をお持ちの企業の方がいればお気軽にご相談いただければと思う。

<宝来(加藤) 啓>

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