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コラム

顧客データベースを中心にビジネスを捉える

◆ホンダ、顧客を「層別管理」から「個別管理」へ

             <2006年11月28日付日刊自動車新聞掲載記事>

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【顧客データベースを精緻化する】

 これまでホンダは 95年に導入した顧客対応のガイドライン「NBAP (ニュー・ベーシック・アクションプラン)」の元で顧客を例えば得意客、一見客といった顧客の質で 4 つの層に分けて接触方法や頻度を管理してきた。

 07年 1月から導入される新しいガイドライン「LMAX (ロイヤルティ最大化)」では、接触方法に従来の訪問、電話、DM に電子メールを追加し、例えば得意客の A さん、B さんにはこれまで同じ接触方法や頻度を基本(もちろん現場でのの工夫はあると思う)としてきたが、これからは A さんには半年に一度訪問する、B さんには 3 ヶ月に一度電子メールを送信するといったように、4 つの層ではなく顧客別に接触方法や頻度を管理するとのことである。

 新しいガイドラインは既存のホンダ管理顧客 600 万人の一人一人に改めて希望の接触方法や頻度を聞き取る形で適用される。

 上記の一連の活動を顧客データーベース(以下、顧客 DB)の側から見ると、名前や家族構成、住所といった個人情報、担当営業や担当サービス、営業やサービス活動の履歴、場合によっては趣味や好みの雑誌といった顧客 DB の項目を、これまでは言わば 4 つの引き出し(層)に分けて管理していたが、接触方法×頻度の数に引き出しを増やし括り直すことで顧客 DB を精緻化しているのである。
【顧客DBを活性化する】

 顧客 DB の精緻化はそれ自体が目的ではない。防衛率や整備入庫率の向上といった目的があり、それらを達成するために顧客 DB の精緻化を行うのである。目的を達成するためには顧客 DB を精緻化した後に、それをベースに実際に行動を起す必要がある。

 つまり、ホンダの例で言えば顧客 DB の精緻化は接触方法や頻度といったアプローチの方法を精緻化するものであり、次にアプローチの内容を考える必要がある。例えば顧客の趣味や嗜好に関する情報を把握した上での顧客属性に応じたオーナーズ・イベントへの招待、家族に関する情報を把握した上での訪問販売(例えば顧客の息子の大学卒業時期に合わせた訪問活動)、買替タイミングを把握した上での残価設定ローンの売り込み等、様々な活動がある。

 こうした諸活動の結果として上手くいけば買替や入庫台数が増える。それを顧客 DB の側から見ると、顧客 DB が常に PDCA の対象となり、そのサイクルが短くなることであるから顧客 DB を活性化していると言える。

 整理すると、顧客 DB を精緻化することはアプローチの方法を精緻化することで、顧客 DB を活性化することはアプローチの内容を考え実行することである。そして二つを統合したものがプログラム(施策という言葉の概念は広いのでここでは精緻化、活性化の二つの活動を組み合わせたものをプログラムと呼ぶ)である。プログラムの目的は防衛率や整備入庫率を向上するといったことである。
【顧客DBを中心に考えること】

 ここまで自動車販売に関わる諸活動を、顧客 DB の側から見て、顧客 DB を精緻化する、顧客 DB を活性化する、及び二つを合わせたプログラムに置き換えてきた。その理由は、自動車販売ビジネスが、新車や中古車の販売を中心とした所謂フローのビジネスからサービスを中心とした所謂ストックのビジネスに変わる中で、自動車販売ビジネスに関わる諸活動をストック、つまり顧客 DBを中心に捉えてプログラムの位置づけや役割を整理してみることが有効ではないかと考えたからである。

 またストックのビジネスに変わってきているからこそ、自動車販売に関するプログラムが顧客 DB を精緻化するための活動なのか、活性化するための活動なのかという視点を持ち整理することが重要だとも考える。

 実際に現場で整理する際には、精緻化や活性化といった大きな分類を、新車、中古車、サービス、手数料といったビジネス別に分解したり、来店やカタログ請求からクロージングに至るまでのプロセスに分解したりするという整理が必要になるだろう。整理した上で、どの顧客がどのタイミングで顧客 DB のどの項目を、どんなスピードで、どの程度活性化したかを把握することにより、各活動の影響や効果を測定することができるのではないだろうか。
【顧客DBを拡大する】

 しかしながら、ストックのビジネスに変わりつつあるとはいえ、顧客 DB を精緻化、活性化するだけでは不十分である。仮に同じ顧客が何度買替えてくれたとしも、何度入庫してくれたとしても、極端に言えば顧客いつかは死んでしまい顧客 DB はいつかは消滅してしまうし、そうでなくても自社の商品・サービスラインナップの制約により、時とともにライフスタイルや価値観が変化する一人の顧客を永遠に繋ぎとめることは困難だ。やはりもう一つの方向性として顧客 DB を拡大することが必要である。

<既存市場で顧客DBを拡大する>

・購買プロセスの中での取りこぼしを拾う

 購買に至るプロセスの中で顧客 DB で管理できていない顧客はいないだろうか。例えば来店だけした顧客やカタログ請求だけした顧客である。こうした顧客は購買に至るまでに時間が掛かるし、全ての顧客を管理するにはリソースの面から困難だろう。車検時期が近い顧客や複数回来店した顧客に絞って管理する等の工夫が必要だろう。

・時間が経過する中での取りこぼしを拾う

 以前整備に一度だけ訪れた顧客や、10年前に購買した顧客である。年に一度社内イベントとして過去の顧客 DB を点検してみるのも一案ではないだろうか。

・顧客DBを買収する

 企業体力によるもので全ての販社が取り得る手段とは言えないが、競合販社を買収し顧客 DB を一挙に拡大するということも考えられる。

<新市場で顧客DBを拡大する>

 そもそも国内の販売台数が頭打ちであり、今後も人口が減少していく中で新市場はあるのかと思われるかもしれない。しかし、新市場を開拓する余地はまだあるのではないだろうか。

 人口構成を考えてみると、若年層は減る一方で高齢者の層は増えている。また平均寿命も着実に伸びている。人口ピラミッドをイメージしてみると全体として低い年代層の幅は小さくなり、高い年代層の幅は大きくなる傾向にある。このことは 18 歳未満では運転免許が取得できないという自動車市場の下方硬直性を考えれば、自動車事業者にとっては寧ろ市場拡大の好機と見ることも可能だ。

 だとすると、市場拡大が見込まれるセグメントをターゲットにしたマーケティングの余地は十分にあり、ターゲットセグメントの所在とその属性をよく検証してみる必要性と価値がある。次の 3 つのセグメントが考えられる。

 1 つ目は、シニアのセグメントで、自動車を必要とするが、身体能力の衰えに伴い、自動車の運転に物理的負担や精神的不安を感じている層である。

 2 つ目は、女性のセグメントで、日常的には自動車を必要としていないが連れ立っての旅行やイベント等の機会に足を必要とする人々である。

 3 つ目は、大都市居住者のセグメントで、日常的には徒歩・電車・自転車で十分用が足せるが、大きな買い物やレジャーの際に自動車があったらうれしいと考える人達である。
 第 1 のセグメントに対しては、運転に伴う身体的負担や不安を取り除いてあげることが重要だろう。信号の状況に応じてアクセルやブレーキ操作を補助したり心拍数や血圧など体の状態を自動車側で把握して万一の時には停車したりする等の技術の開発や普及が待たれる部分もあるが、既に後付けの乗車をサポートするステップや車内を移動する際の手すりといった用品も存在するからディーラーで営業努力できることもあるだろう。マーケティングの面でも旅行代理店との提携やシニア専門の SNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用することが考えられる。

 第 3 のセグメントに対しては、必要な時にだけ利用できればよいだろうから、フレキシブルな保有形態が重要になるだろう。例えば短期のリース販売やレンタカー、カーシェアリングである。ディーラーとしては、必ずしも自らがレンタカーやカーシェアリング事業を行わなくとも提携して紹介料を得るモデルやレンタカーやカーシェアリング事業者に車を販売することが考えられる。

 第 2 のセグメントに対しては、第 1、第 3 の要素のミックスが重要になるだろう。女性は運転が苦手な人も多いだろうからバックモニター等の車庫入れの補助用品、操作性に優れたカーナビ等に訴求力があると考えられる。マーケティングの面でも女性専門の SNS もある。

 即ち現状でも有望な新市場はいくつも存在し、そこにアクセスする術や売り込む術をディーラーは持っていると考えるのである。
【まとめ】

 自動車販売ビジネスがフローのビジネスからストックのビジネスに変わる中で、顧客 DB を中心にプログラムを整理をすることが有効ではないかと述べてきた。

 そして、整理する際には顧客 DB を精緻化する、活性化するという二つの方向性があり、特に自動車販売業においては顧客 DB を活性化することに重きが置かれている。しかし、その二つだけでは顧客 DB は縮小していく宿命にあるから、顧客 DB を拡大する方向性も必要で、その可能性もまだ残されていると述べてきた。

 上記は自動車販売ビジネスを題材にしているが、他のビジネスにおいても顧客 DB を精緻化する、活性化する、拡大するという 3 つの方向性は同じである。異業種では同じ方向性でこんな風に取り組んでいるという事例があればご教示頂きたい。日本人全体で共有すべきナレッジになると考えるからである

<宝来(加藤) 啓>

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